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未熟な冒険者のコルト
部屋に異変をもたらした、睡魔の正体
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そう言えば、俺もまだ飯食ってないんだよな。
握り飯四つに……使い捨てのお椀にインスタント味噌汁でいいか。
わかめ……あさり……うーむ。
握り飯は、まぁ梅は外すまい。
けどそれだけじゃなぁ。
栄養面が偏るよな。
あ、味噌汁に何か野菜でもぶっこむか。
冷蔵庫には……筋子があるな。俺はそれ一種類でいいや。
野菜は刻んで適当に茹でてから味噌汁の素をかけて、それでお湯っと。
握り飯も四つ完成。
さて、持ってってやるか。
※※※※※ ※※※※※
プレハブのドアを開けて入ったら、予想外の光景が目に入った。
全員が眠っている。
コルトは全身を震わせながら、泣きそうな顔をこっちに向けた。
「……何があった? まさか、あの兵士達が来たのか?」
突然襲われたらたまったものではない。
俺を武力で守ってくれる奴は一人もいない。
コルトは声を発していない。
中に兵士がいて脅されているのか?
握り飯と味噌汁二人分を乗せたトレイを、床に静かに置く。
そして一気に力を込めて、コルトに向かって滑らせた。
誰かがいるなら反応があるはずっ!
ここからそんなに離れていないコルトの足元にトレイが届く。
誰かが動く気配がない。
「あ、あの……みんな眠っちゃってるんですけど……」
何だよ、喋れるんじゃないか。
けど誰かが潜んでいないとは言い切れない。
「起こしても起きてくれないんですぅ……。あ、誰も来てないですよ。変な兵士達も来てないです」
誰かに言わされてるのかもしれん。
そんなときはだな……。
「あ、どこに行くんですかぁ?!」
コルトが大声を出した。
だが周りはまだ眠っているようだ。
寝ている者を起こす方法なら、いいやり方がある。
一階の台所に戻る。
そして冷蔵庫から氷を多めに取り出し、ボウルに入れる。
水を入れてそれをまたプレハブに持っていく。
静かにドアを開けて、中に入らずそのまま中の様子を伺う。
「あ、どこに行ってたんですか?」
「ほれ、こいつを取りに来い。まず弓の奴の背中に垂らせ」
「えっと……それ……お水、ですか」
子供の頃、背中に冷たい手を当てるいたずらをしたりされたりした。
果たしてほんとに跳ね起きてくれるかな?
……効果てきめんだなぁ。
二部屋中に響く驚きの声で、俺もびっくりした。
どうやらその声でみんなが起き出したっぽい。
「だ、だって私、起こそうとしたけど起きてくれなかったので……」
そうだっ!
寝てる奴にいきなり冷たい水を背中につけるなんて、気持ちよく寝ている者への気遣いはないのか!
などと言う責任の擦り付けをしてもいいんだがな。
それで事態を大事にした奴もいたよなぁ。
ここは何も言わず、無関係を押し通す!
とりあえずこの現状の確認をしなきゃな。
晩飯をコルトの部屋に運び込んでから弓戦士に問い質す。
「で、弓よ。コルトのバツ、監視するんじゃなかったのか?」
「あ、あぁ。すまん。でも三分くらいは歌ってたぞ。あぁ、言葉はなかったがな」
スキャットって言うんだっけか。
昨日もそうだったしなー。
「バツもそうだが、睡眠の魔術が外からかけられてる可能性をだな」
「それはなかったわね。まぁだから私も眠っちゃったんだけど」
兵士を唐揚げにするか串刺しにするか、どう料理するか聞いてきた女の魔法剣士が近づいてきた。
いや待て。
それはなかった?
「魔力の流れを感じ取ることはできるのよ。その兵士がどうのというのと、眠気云々は別物ね。だから安心していいわ」
「別物?」
「気持ちよく寝入ることができたし、元々のおにぎりの体力魔力回復効果に相乗効果が加わった感じがあったから特に何も言わなかったけどね」
つくづく俺の握り飯は何なんだって我ながら思うが……。
いや、だから勿体ぶらずに教えろよ。
「で、誰がかましてんだよ、その睡魔は」
「その歌声ね。コルトちゃん、だったっけ? コウジさん、いい娘雇ったわねー。大事になさいよ?」
……はい?
眠気の正体は、外からの干渉じゃなく、こいつ?
「え……、私?」
「そ。あなた。見たところエルフのようだけど、ここに来たってことは冒険者だったのよね。パーティで活動してたなら、回復役か補助役頼まれてたでしょ」
コルト、固まってるよ。
言い当てられて驚いてるんだな。
弓戦士なんか、目をぱちくりさせてる。
つか、俺も驚いてるよ。
歌声一つで部屋全体に眠気を誘うってどんだけだよ!
お前がいたパーティメンバー、どんだけ人を見る目がなかったんだよ!
握り飯四つに……使い捨てのお椀にインスタント味噌汁でいいか。
わかめ……あさり……うーむ。
握り飯は、まぁ梅は外すまい。
けどそれだけじゃなぁ。
栄養面が偏るよな。
あ、味噌汁に何か野菜でもぶっこむか。
冷蔵庫には……筋子があるな。俺はそれ一種類でいいや。
野菜は刻んで適当に茹でてから味噌汁の素をかけて、それでお湯っと。
握り飯も四つ完成。
さて、持ってってやるか。
※※※※※ ※※※※※
プレハブのドアを開けて入ったら、予想外の光景が目に入った。
全員が眠っている。
コルトは全身を震わせながら、泣きそうな顔をこっちに向けた。
「……何があった? まさか、あの兵士達が来たのか?」
突然襲われたらたまったものではない。
俺を武力で守ってくれる奴は一人もいない。
コルトは声を発していない。
中に兵士がいて脅されているのか?
握り飯と味噌汁二人分を乗せたトレイを、床に静かに置く。
そして一気に力を込めて、コルトに向かって滑らせた。
誰かがいるなら反応があるはずっ!
ここからそんなに離れていないコルトの足元にトレイが届く。
誰かが動く気配がない。
「あ、あの……みんな眠っちゃってるんですけど……」
何だよ、喋れるんじゃないか。
けど誰かが潜んでいないとは言い切れない。
「起こしても起きてくれないんですぅ……。あ、誰も来てないですよ。変な兵士達も来てないです」
誰かに言わされてるのかもしれん。
そんなときはだな……。
「あ、どこに行くんですかぁ?!」
コルトが大声を出した。
だが周りはまだ眠っているようだ。
寝ている者を起こす方法なら、いいやり方がある。
一階の台所に戻る。
そして冷蔵庫から氷を多めに取り出し、ボウルに入れる。
水を入れてそれをまたプレハブに持っていく。
静かにドアを開けて、中に入らずそのまま中の様子を伺う。
「あ、どこに行ってたんですか?」
「ほれ、こいつを取りに来い。まず弓の奴の背中に垂らせ」
「えっと……それ……お水、ですか」
子供の頃、背中に冷たい手を当てるいたずらをしたりされたりした。
果たしてほんとに跳ね起きてくれるかな?
……効果てきめんだなぁ。
二部屋中に響く驚きの声で、俺もびっくりした。
どうやらその声でみんなが起き出したっぽい。
「だ、だって私、起こそうとしたけど起きてくれなかったので……」
そうだっ!
寝てる奴にいきなり冷たい水を背中につけるなんて、気持ちよく寝ている者への気遣いはないのか!
などと言う責任の擦り付けをしてもいいんだがな。
それで事態を大事にした奴もいたよなぁ。
ここは何も言わず、無関係を押し通す!
とりあえずこの現状の確認をしなきゃな。
晩飯をコルトの部屋に運び込んでから弓戦士に問い質す。
「で、弓よ。コルトのバツ、監視するんじゃなかったのか?」
「あ、あぁ。すまん。でも三分くらいは歌ってたぞ。あぁ、言葉はなかったがな」
スキャットって言うんだっけか。
昨日もそうだったしなー。
「バツもそうだが、睡眠の魔術が外からかけられてる可能性をだな」
「それはなかったわね。まぁだから私も眠っちゃったんだけど」
兵士を唐揚げにするか串刺しにするか、どう料理するか聞いてきた女の魔法剣士が近づいてきた。
いや待て。
それはなかった?
「魔力の流れを感じ取ることはできるのよ。その兵士がどうのというのと、眠気云々は別物ね。だから安心していいわ」
「別物?」
「気持ちよく寝入ることができたし、元々のおにぎりの体力魔力回復効果に相乗効果が加わった感じがあったから特に何も言わなかったけどね」
つくづく俺の握り飯は何なんだって我ながら思うが……。
いや、だから勿体ぶらずに教えろよ。
「で、誰がかましてんだよ、その睡魔は」
「その歌声ね。コルトちゃん、だったっけ? コウジさん、いい娘雇ったわねー。大事になさいよ?」
……はい?
眠気の正体は、外からの干渉じゃなく、こいつ?
「え……、私?」
「そ。あなた。見たところエルフのようだけど、ここに来たってことは冒険者だったのよね。パーティで活動してたなら、回復役か補助役頼まれてたでしょ」
コルト、固まってるよ。
言い当てられて驚いてるんだな。
弓戦士なんか、目をぱちくりさせてる。
つか、俺も驚いてるよ。
歌声一つで部屋全体に眠気を誘うってどんだけだよ!
お前がいたパーティメンバー、どんだけ人を見る目がなかったんだよ!
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