上 下
59 / 196
未熟な冒険者のコルト

来ないかもしれない招かれざる客へ備えながらの日常

しおりを挟む
 国の兵士だろうが何だろうが、俺にとっちゃ乱暴者としか思えない。
 乱入してきたのは今から約二十四時間前。
 今この部屋にいる冒険者の中で、その時に居合わせたのは十人を超えるくらいか。

 そして全員が眠っていたという、起きた部屋の中の異変。
 また乱入してくる可能性は高い。

「今度は絶対押し返してやる。つっても壁に押し付けるだけだけどな」
「そいつらが来た時は、俺が見える扉も閉じたままだった。俺らの命を助けてくれたコウジに向かって魔王呼ばわりとはな」
「どんな格好してるか分からんが、休む場所を提供してくれた恩人に手をかけるなど、到底許されることじゃないっ」
「コウジ本人は呼ばれることを嫌っているが、よりにもよって救世主に向かって刃を向けるなどっ」
「コウジぃ。どんな料理が好き? 揚げ物? 焼き料理? あ、串料理なんていいかもねぇ」

 怖いぞ!
 最後の女の人、怖いぞ!

 ……職は魔法剣士?
 武器はレイピア? なるほど。
 だから串料理……いや、そうじゃなくて。

「わわ、私、ここ今度はしっかりと証言しますからっ!」

 コルト、ビビりすぎ。
 お前は変なこと口走らないだけでいいから。

 けど来るか来ないか分からない奴をいつまでも待ち受けてるのも馬鹿馬鹿しい。
 こっちは夜の握り飯タイムの準備もしなきゃならないし、最近はたまる一方のアイテム整理をしなきゃならない。
 コルトの部屋も、足の踏み場はあるらしいし、道具作りもしてるようだが、消費量が減っている。

「どうしようもない時は、私がここに来る前のダンジョンに運び出してるんですけどね」

 ……人はそれを、ごみの不法投棄と呼ぶ。

 それはともかく。
 動ける冒険者は全員迎撃態勢を取る。
 そして俺は握り飯の準備。
 コルトは警戒しながらの道具作り。

 スケジュールは普段通りに進み、握り飯も順調に配られていく。
 けれども部屋の雰囲気は、何となく物騒な感じになる。
 その間にも、冒険者達の出入りはあった。
 新しい顔が入ってくるたびに、部屋の中で警戒している冒険者達は武器をかざす。

「ぐぅ……。うおっ! な、何が……」

 苦しみながら部屋に入って来た者がたじろいだ声も少なくない。
 が、そんな者達の中で、そのまま俺の所に近寄って来た者がいた。

「うぅ……っと……。何か中が……荒々しいな……何が、あった」

 いつぞやの弓戦士だった。
 また来たのかこいつ。
 仲間に恵まれねぇな。

「事情を話すよりも……。あ、すまん、握り飯、こいつに先に渡していいか?」
「お、おう。コウジさんと顔見知りか?」
「何度もダンジョンでピンチに陥るへぼ冒険者」
「へぼはないだろうよ……くっ……」

 脇腹を抑えてる奴に物を食わすのもどうかと思うんだが、胃の辺りに痛みを感じる奴も握り飯食ってしばらくしたら治ったって言うから、我ながらつくづく不思議な物を作ってるとしか。

 次の順番待ちの冒険者が、弓戦士に自分の握り飯を譲った。
 俺が大まかな成り行きを説明すると、弓戦士はその流れを理解した。

「なるほど。……くっ……。痛みが治まったら俺も加勢しよう。だが睡眠か催眠を、目に届かない範囲にかける術ってのは珍しいな」

 術の知識や常識なんかは全く知らない。
 ゲームの知識がここで通用するわけもないし。
 とりあえず、自分でできる自衛は用意周到にな。

「わ、私はどうしましょう……」
「お前はバツを続けること」
「ふ」
「ふえぇ禁止な。お前の課題はこの件が発端だが、この件がなくても今後のお前の人生の課題だぞ? いつも誰からかに守られてばかりの生き方してたら、その相手が見つからなかったら人生の終わりじゃねぇか」

「……バツ? コルトちゃんが何かしたのか?」

 コルトが余計なことを喋ったことを、この弓戦士にはまだ伝えてなかった。
 つーか、そんなことを説明の途中で挟んだら、兵士らへの対策という本題が、こいつへの非難に変わっちまうからな。

「まぁ……コボルト少年の時もどぎまぎしてたしな。じゃあ俺もそのバツを監視してやるよ」

 流石常連。最後まで説明する前に察してくれた。

「そ、そんなぁ……」
「そうしてくれると助かる。コルト、お前の晩飯はそれ終わった後な」
「え、ええぇぇ?!」
「バツをする前に飯の用意したって、緊張して食えてなかったじゃねぇか。後片付けは俺がやっとくから心配すんな」

 コルトの奴、しょぼんとしてやがる。
 そういう問題じゃない、みたいな一言でも返せたら、バツをさせることも考え直しても良かったんだがな。

「あ……。お前の分の晩飯まで配っちまった。下で作って来るからお前、二部屋の真ん中で始めとけ。そこの弓さん、コルトのこと頼むわ」
「おう、任せな。……さ、どんな歌聞かせてくれるのかな?」
「ふえぇ……」

 ……こりゃしばらく精神を鍛える期間、長くかかりそうだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

女神に冷遇された不遇スキル、実は無限成長の鍵だった

昼から山猫
ファンタジー
女神の加護でスキルを与えられる世界。主人公ラゼルが得たのは“不遇スキル”と揶揄される地味な能力だった。女神自身も「ハズレね」と吐き捨てるほど。しかし、そのスキルを地道に磨くと、なぜかあらゆる魔法や武技を吸収し、無限成長する力に変化。期待されていなかったラゼルは、その才能を見抜いてくれた美女剣士や巫女に助けられ、どん底から成り上がりを果たす。

異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~

武蔵野純平
ファンタジー
アルバイト社員として毎日汗をかいて雑用をこなす弾光広(ミッツ)は、朝の通勤電車の乗客とともに異世界に転移してしまった。だが、転移先は無人だった。 異世界は、ステータス、ジョブ、スキル、魔法があるファンタジーなゲームのような世界で、ミッツは巨大な魔物を倒すチート能力を得て大いに活躍する。前向きで気は良いけれど、ちょっとおバカなミッツは、三人の仲間とともに町を探す旅に出る。2023/3/19 タイトル変更しました『アルバイト社員!異世界チートで大暴れ!』

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

処理中です...