俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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未熟な冒険者のコルト

小さな冒険者達の悲痛

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 俺はこの不思議な空間の中で、プレハブの方にいることが多くなった。
 当たり前だよな。
 台所があるし、エアコンの操作範囲内だし、コルトの個室もあるから、俺がいる間は部外者立ち入り禁止の監視をする必要があるし。
 ショーケースと置き時計も移動した。
 それと、小さい冷蔵庫と冷凍庫、電気湯沸かしポットも持ち込んだ。
 握り飯の具の保存と、怪我人の患部を冷やすために必要かなって。

 そしたら俺もこっちにいた方が都合がいい。
 けどここからじゃ、異世界の連中がやって来る様子が見えづらいんだよな。
 屋根裏部屋とプレハブの出入り口は広めにしてあるが、壁が死角になってるから
 だから、つくづくコルトはすぐ分かるもんだって感心する。

「ん? 寒くなってきたと思ったら、雪降ってきたのか。暖房の設定温度、高めにしてからそろそろかなと思ってたが」
「雪? ここでも降るの?」

 近くにいる女魔道士が食いついてきた。
 天窓見りゃ分かるだろうが。

「季節が急に変わった感じがするわね。あんなことにならなきゃ外の風景を楽しみながら見れたんだろうけど」

 知らんがな。

 ……で、なんか屋根裏部屋の方が騒がしいな。

「ごめんなさい、通してくださいっ。コウジさーん! ちょっとこっちに連れてきたー!」

 遠くだったコルトの声が近づいてくる。
 冒険者達のあちらこちらの雑談で、はっきりとは聞こえんが、いつもと違う事態が起きてるようだが。
 それと一緒に子供の泣き声が聞こえる。
 ややこしいことにならなきゃいいが。

 コルトがプレハブに入って来た。
 コルトが両腕に乗せているのは具合が悪そうな子供。
 明らかに子供。
 そして足元に二人。
 その二人に支えられて、意識が朦朧としている子供。

「おいおいおい、尋常じゃねぇな」

 四人とも、防具は他の冒険者と同じでボロボロだ。
 だが、全員子供、しかも一度に四人も、というのは前代未聞だ。
 泣き声は、コルトが抱えている子供があげていた。

「コウジさん、そこの重なってる着ぐる……寝袋何枚かそのまま床に下ろしてくれる?
「お、おう」

 三つ折りにしている寝袋を重ねて部屋の隅に置いている。
 クッション替わりということだろう。
 その子と支えられている子の二人分を用意した。
 コルトはこういう事態に備えて、寝袋を敷布、毛布にもできる仕様にしたようだった。

 でもお前、今着ぐるみって言おうとしたよな?
 もう着ぐるみでいいじゃん。

「さて、冷水と熱湯、それにタオルかな?」
「うん、コウジさん、よろしく!」

 コルトはそう言うと、個室に入っていった。
 すぐに出てきたコルトは、包帯っぽいのと薬のような物を手にしている。

 二人を寝かせ、コルトは二人に手当てをする。
 俺はタライ二つに冷水と熱湯、そしてタオル数枚を傍に持っていき、新たに寝袋数枚を床に下ろす。
 もう二人を座らせるためだ。
 二人もしゃくりあげながら泣いている。

「武器、防具は四人とも似たレベルの装備だな。緊急事態だ。この四人になら握り飯作ってやってもいいんじゃねぇか?」

 一番近くにいる大柄の体格の斧戦士が俺に話しかけてきた。
 四個ないし八個ぐらい、と思うなかれ。
 怪我などの手当はその時に応じる必要はある。
 だが手当と握り飯の目的は違う。

「飲み水とお湯は用意する。けど水は飲み過ぎて体を冷やしかねん。注意しろよ」

 ポットとペットボトル、そしていくつかの紙コップをコルトのそばに置く。
 コルトは四人につきっきりになるだろう。
 斧戦士はそんなことを言ってたが、こんな事態になれば握り飯の用意は俺一人でしなければならない。
 この四人のためじゃなく、いつもの時間通りの握り飯タイムに合わせるには、今から準備する必要があった。

「コルト、俺はこいつらの手当から離脱するからな」
「うん。そっちはよろしく。あとは……」

「私も手伝いましょうか?」
「あ、はいっ! お願いします!」

 女魔導師がコルトの手伝いを始めた。

 俺達はこんな場面には何度も遭遇した。
 この容態なら死ぬことはない。
 だがこの子らには重く辛い時間が続くだろう。
 流石に大人とは違う対応をする必要はある。
 いつぞやのコボルトの子供とは違う、我がままを言いそうにない子供には特にな。
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