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未熟な冒険者のコルト
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コルトが着ぐるみ……じゃなかった。
寝袋を作ることを思いついたのは、実にタイムリーだったようだ。
全部同じ素材というわけにはいかなかったようだが、それでも寝袋の数は、最大収容人数を超えていた。
「作りすぎなんじゃねぇの? それに全部同じ大きさじゃねえか」
いろんな種族の連中がくる。
その体格、体型も種族によって千差万別だ。
その大きさでは入れないほどの大きい体の者もたくさん来る。
コルトもそんなことは十分知ってると思うんだが。
天然っぽいからしょうがねえか?
とか思ってたが、意外に気が利いていた。
「これ、袋の状態から一枚の毛布になるんですよ。ほら、ボタンを外すと…。ね?」
「ほうほう。それで?」
「もう一つの寝袋も同じようにして、この二枚の毛布を繋げて……。ほら、二倍の大きさの寝袋が完成しました!」
意表を突かれた。
だがそんな大きい寝袋がたくさん必要になったら……。
あぁ、だから収容人数より多く寝袋を作ったのか。
「どうです? コウジさん。少しは役に立てました?」
うざっ。
褒めて褒めてとねだる顔を近づけてくる。
だが思い込みは改めねばならないな。
天然と賢さは別のステータスだ。
って言うか、役に立つ立たないもそれらとは別物だぞ?
「ここに住み着いてからはずっとお前に助けられてるよ。空気をときどき読めないのが玉に瑕だが」
「むー」
コルトは、俺に近づけた頬を膨らませる。
頭を撫でてやるが、近づいた顔を遠ざけようとする力も加えてやった。
それには気付いてないっぽい。
「あ、患者さんだ。行ってきますね」
コルトはここでの生活に慣れてきた。
しかし必ずしも彼女自身にいい影響を与えるばかりじゃない。
「私、あの人のために何もできなかった」
としょんぼりしながら、意気を高くして出て行く冒険者達を見送ることがしばしばあった。
俺はそこまでコルトに何かを求めてはいないのだが。
というか、物作りしてくれるだけでかなり心強い存在。
なのに、自分はまだ力不足と言う。
ここに来た経緯に囚われてるんだろうなとは思う。
詳しくは知らないが。
怪我や病気に対処するノウハウも持っていないようだ。
ここで医学書を読ませても、まずこっちの文字は理解できないだろう。
そして体の構造だって、当てはまらないケースばかりだ。
治癒魔法とやらもあるようだが、瀕死の体には焼け石に水。
自分を非力と嘆くのも無理はないんだろうが、俺にしてみれば考えすぎ。
だがある時、そんな状態の一人の冒険者が連れられてきた。
彼を連れてきた冒険者はコルトに「何もしなくていいからそばにいてやってくれ」と言ってきた。
そのやり取りは詳しくは知らない。
離れた場所から見てただけだ。
だがコルトは、不安そうで不満げな顔を見せていた。
丸一日経って、彼はある程度回復した。
彼に思い切っきり感謝されてたコルトはとても困惑していた。
「ただ傍に付き添うなんて、誰だってできることですよ?」
と言い返したそうだ。
けどその男は
「俺をずっと励ましてくれたのはあんただからな」
「励ました? 私、何もお話しなんか……」
「何言ってんだ? 心配ない、とか、休んでるだけで元気になりますよって言ってくれたじゃねえか。幻聴じゃねえ。あんたの声でそう言われた。それで俺は安心して眠れたからな」
それがなかったら、真っ暗な長い時間を心細いまま弱っていたかもしれない。
と言われたんだそうだ。
「こんな私でも、誰かの役に立てられるんですね」
そいつが元気よくこの部屋を出て行く後ろ姿を見送りながら呟いたコルトの目から、涙が一つこぼれてた。
じゃあ何か?
お前がいてくれて助かったと思ってる俺は数に入ってねぇのか?
と、俺はもちろんその言葉を飲み込んだ。
コルトじゃねぇんだ。
それ位の空気は楽に読み取れる。
以来コルトは、自分に出来ることと手に余ることの区別をつけながら、ここに来る者達の看病も始めるようになったって訳だ。
寝袋を作ることを思いついたのは、実にタイムリーだったようだ。
全部同じ素材というわけにはいかなかったようだが、それでも寝袋の数は、最大収容人数を超えていた。
「作りすぎなんじゃねぇの? それに全部同じ大きさじゃねえか」
いろんな種族の連中がくる。
その体格、体型も種族によって千差万別だ。
その大きさでは入れないほどの大きい体の者もたくさん来る。
コルトもそんなことは十分知ってると思うんだが。
天然っぽいからしょうがねえか?
とか思ってたが、意外に気が利いていた。
「これ、袋の状態から一枚の毛布になるんですよ。ほら、ボタンを外すと…。ね?」
「ほうほう。それで?」
「もう一つの寝袋も同じようにして、この二枚の毛布を繋げて……。ほら、二倍の大きさの寝袋が完成しました!」
意表を突かれた。
だがそんな大きい寝袋がたくさん必要になったら……。
あぁ、だから収容人数より多く寝袋を作ったのか。
「どうです? コウジさん。少しは役に立てました?」
うざっ。
褒めて褒めてとねだる顔を近づけてくる。
だが思い込みは改めねばならないな。
天然と賢さは別のステータスだ。
って言うか、役に立つ立たないもそれらとは別物だぞ?
「ここに住み着いてからはずっとお前に助けられてるよ。空気をときどき読めないのが玉に瑕だが」
「むー」
コルトは、俺に近づけた頬を膨らませる。
頭を撫でてやるが、近づいた顔を遠ざけようとする力も加えてやった。
それには気付いてないっぽい。
「あ、患者さんだ。行ってきますね」
コルトはここでの生活に慣れてきた。
しかし必ずしも彼女自身にいい影響を与えるばかりじゃない。
「私、あの人のために何もできなかった」
としょんぼりしながら、意気を高くして出て行く冒険者達を見送ることがしばしばあった。
俺はそこまでコルトに何かを求めてはいないのだが。
というか、物作りしてくれるだけでかなり心強い存在。
なのに、自分はまだ力不足と言う。
ここに来た経緯に囚われてるんだろうなとは思う。
詳しくは知らないが。
怪我や病気に対処するノウハウも持っていないようだ。
ここで医学書を読ませても、まずこっちの文字は理解できないだろう。
そして体の構造だって、当てはまらないケースばかりだ。
治癒魔法とやらもあるようだが、瀕死の体には焼け石に水。
自分を非力と嘆くのも無理はないんだろうが、俺にしてみれば考えすぎ。
だがある時、そんな状態の一人の冒険者が連れられてきた。
彼を連れてきた冒険者はコルトに「何もしなくていいからそばにいてやってくれ」と言ってきた。
そのやり取りは詳しくは知らない。
離れた場所から見てただけだ。
だがコルトは、不安そうで不満げな顔を見せていた。
丸一日経って、彼はある程度回復した。
彼に思い切っきり感謝されてたコルトはとても困惑していた。
「ただ傍に付き添うなんて、誰だってできることですよ?」
と言い返したそうだ。
けどその男は
「俺をずっと励ましてくれたのはあんただからな」
「励ました? 私、何もお話しなんか……」
「何言ってんだ? 心配ない、とか、休んでるだけで元気になりますよって言ってくれたじゃねえか。幻聴じゃねえ。あんたの声でそう言われた。それで俺は安心して眠れたからな」
それがなかったら、真っ暗な長い時間を心細いまま弱っていたかもしれない。
と言われたんだそうだ。
「こんな私でも、誰かの役に立てられるんですね」
そいつが元気よくこの部屋を出て行く後ろ姿を見送りながら呟いたコルトの目から、涙が一つこぼれてた。
じゃあ何か?
お前がいてくれて助かったと思ってる俺は数に入ってねぇのか?
と、俺はもちろんその言葉を飲み込んだ。
コルトじゃねぇんだ。
それ位の空気は楽に読み取れる。
以来コルトは、自分に出来ることと手に余ることの区別をつけながら、ここに来る者達の看病も始めるようになったって訳だ。
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