俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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未熟な冒険者のコルト

宗教者、来襲 つか、よくそんな余裕があるなこいつら

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「ふ、ふえぇぇ……。コ、コウジさあん……」

 その声に続いて、弱く震える声がこっちに届いた。
 もちろんそれはコルトから発生。

 俺が様子を見に行くと、男の神官は跪いてコルトの足にしがみついている。
 女の神官は、トレイを持っている両手を握りしめている。

「コ、コウジさぁん……どうしよう……助けてぇ……」

 視線を俺に向けて助けを求めるコルトは、目に涙を浮かべている。
 しょうがねぇなぁ、と三人に近づこうとしたんだが、気が変わった。
 男の神官がこんなことを言ったんだぜ?

「コ、コルト様っ! 救世主、コルト様っ!」

 いつの間にか勝手につけられた俺への渾名が、コルトに向けられてるんだ。

 コルト、その肩書、譲ってあげる。
 じゃーなー。

 心の中でそう言って、回れ右をしてショーケースに戻る。

「ちょ、ちょっとおおぉ、コウジさあぁぁん」

 悲痛なコルトの声。
 それを聞こえなくするほどの二人の通る声。
 普段から詠唱とかするんだろうな。
 実に聞きこごちのいい声色。
 もう少しあの二人の声に浸りたいな。

 そして何より、救世主はお前になるのだ、コルトよ。
 尊いお前の犠牲は、無駄にはしない。
 だから俺は、ショーケースの所で握り飯と水を配る作業に勤しむことにしよう。

「コウジ、コルトちゃんがそろそろ可哀そうだから止めてやれよ」
「少しだけの間なら面白いけど、流石にシャレにならん」
「救世主は分かるけど、聖母ってどういうことだ? しかもコルトちゃんがだぜ?」
「噂話は俺らも好きだが、ちょっと異常な感じがするしな」

 くっ……!
 俺は、どこの誰かが分からんが、勝手につけられた救世主という渾名から逃れられないとでも言うのかッッ!
 結局周囲の声に折れた。

「あー……もしもし? とりあえずここ、土足だから、そんな体勢じゃ服、汚れますよ?」

 コルトの足に頬をスリスリしてるなら、間違いなく異常者だ。
 だがこの男神官はそうじゃなく、床に額をつけながら、頭のてっぺんをコルトの足に押し付けている。
 女神官は、握ったコルトの手を、頭を下げた自分の額に押し付けている。

 まぁ純粋な気持ちを持ってるってことは分かるが、場所とタイミングを弁えてほしいんだがな。

「それにみんな、握り飯の配給を待ってるんですよ。邪魔しないでくれます?」
「何を言うか! このような尊い方にそんな仕事をっ!」
「そうです! コルト様っ! この仕事は私めにさせてくださいっ!」

 あ、これ、近づきたくない人格の人達だ。

「俺の手に負えねぇわ。コルトを何とかしたきゃお前らに……」
「バイトの雇い主だろう?」
「コルトの職場の上司だろう?」

 くっ……!
 こいつらあぁ……!
 後で覚えとけ!
 握り飯にたっぷりのワサビ食らわしてやるっ!
 水のない苦しみを味わうがいいわっ!

「まずな、この仕事毎日ずっと続けてるんだ。あんたらがコルトの代わりにずっとここで同じ仕事をしてくれるってんなら頼むわ。握り飯を配るだけじゃねぇぞ? 道具作りしたりここの掃除をしたり……」

 神官二人がこっちに顔を向けた。
 目を見開いて……なんか怒ってるぞ?

 ……やっぱこの人達、なんか怖いっ!

「聖母様に……」
「何てことをさせるんだ!」

 うわあ。
 また変な人達が来たってことだよな、これ。
 面倒くせーーっ!

「お、おい、コルト。お前からも……」

 ……ダッシュで握り飯配りしてる。
 逃げた。
 つっても逃げ切れるわけないが。

「え? あ、コ、コルト様! そんなことは私達が!」
「我々にお任せください!」

 あ、追いかけてった。

 今のうちに退散するかな。コップに水入れてやらなきゃだし。
 にしても俺にコルトを援護させようとしたやつ。
 この恨み、忘れねぇからな?
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