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未熟な冒険者のコルト
コルトの手記 好事魔多し
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「今まで新人扱いしてたけど、大分レベル上がったよね」
「期間的にはまだ新人だけど、新人離れだよね」
修練所の仲間からの反応をチームのみんなに話したところ、そんな言葉が返ってきました。
仲間からあんなことを言われてなかったら、何の根拠もないおだてかと思ってたに違いなかったです。
「じゃあそろそろあのダンジョンに行ってみてもいいかな」
「罠とか鍵の外し方もマスターしてくれたしね」
「え? でも魔術でしか外せないし……」
「問題ないよ、コルトちゃん。こいつら、魔術どころか指先も不器用だから、教えても意味なかったんだ」
「おまっ! 先輩の威厳がっ! 消えるっ!」
正直に話すと、私も随分調子に乗ってたんだと思います。
「コルトちゃん。ひょっとしたらコルトちゃんの限界以上の回復力を期待するかもしれないから、回復アイテム全部持たせてもいいかな? 荷物運びみたいな感じがして、我ながら気が引けるんだけど」
「予備の武器や防具も持たせられるなら流石に無理ですけど、呪符や薬草くらいなら大丈夫です」
「回復系だけじゃなく、補助系も頼んじゃうことになるけど、いいかしら?」
「はいっ! 任せてください! でも前線に立つのはまだ怖いかな……」
「いや、それは俺らだってコルトちゃんを前線に立たせるのは怖いわ。全滅しかねん」
「コルトちゃんにどんなにやる気があったとしても、断固拒否。安全地帯なら先行させることはあるかもしれないけど、基本的には後衛だよ」
この戦術はいつも通りという解釈が出来ました。
みんなとの会話もいつも通り。
笑い声が絶えない会話でした。
けどいつも通りじゃないこともありました。
それは、クエストの行き先。
「北方の山脈の麓、崖の中に出来たダンジョンでスライムの巣窟。と言ってもいろんな種類のスライムがいるから気を付けてね。基本的な倒し方はいつもと同じ」
「入り口から歓迎されることはないから、入ってしばらくは慎重に進むが罠を見破れる俺とコルトちゃんが先行。様子次第ではコルトちゃんを後ろに回す、だな?」
「その前に、アイテムをコルトちゃんに預けるから。コルトちゃんは自分の判断でみんなに合ったアイテムを使用してくれ」
「はい、分かりました」
この指示はいままでなかったことでした。
今までは、みんなに守られてきた立場の私でした。
それがようやく、戦力になる一人として認められたということです。
不安な思いはありましたが、一人前と見られたことはそれ以上にうれしくて、力になりました。
罠師の人と二人でゆっくりと進みます。
時々二人で、あるいはどちらか一人の判断で、私は後ろに下がり全員の安全を確認しつつ、また前衛に移動します。
手ごわいスライムも現れましたが適時私はポジションを変え、そのことでみんなが効率よくスライム達を倒していきました。
けど私に称賛はありません。
当然です。
今までのような、私の育成を目的の中心とした活動じゃなくなりましたから。
ですが、今まで以上チームの消耗は少なく、経験したことがないくらいダンジョンの奥深くまで進入できました。
みんなの力になっているんだ、という実感が湧き、うれしくも気が引き締まる思いでした。
「コルト、この先枝分かれしてるよな? その先に何か感じることはあるか?」
もう、ちゃん付けで呼ばれなくなりました。
完全に戦力の一つとして認められた瞬間だと思いました。
「いいえ、しばらくは今までと同じ。自分が察知できる範囲の中では、大したことのないスライムが……五体もいないのではないかと思います」
「うん、外れだ。今までよりも強めなスライムが左の道の先にいる。ここでコルトちゃん一人で右の道に進んでもらう」
一瞬思考が止まりました。
たった一人で……確かに攻撃系のアイテムも所持品の中にたくさんあって、全部使ったらオーバーキル間違いなし。
けれどもダンジョン内では初めての単独行動です。
もっとも今まで誰かが単独行動を起こしていたのは見たことはありましたから、いずれは私も同じことをしなければならないとは思ってましたが。
「この二つの道のその先は見えるか?」
「えっと……合流、してるのかな?」
「そ。ここで枝分かれしてる。ということは、一緒に行動すると挟み撃ちになって俺達は全滅する可能性がある。戦力を半分にすると、そのつえぇスライムに当たった側が全滅するかもしれん」
「私がこっちに進んで足止めをしてる間、そのスライムをみんなが倒す、ということですね?」
「そういうこと。あぁ、コルトはそっちに現われたスライムは、別に倒してもらって構わんぞ?」
「そこまで自惚れてないです。皆さんこそ、そっちのスライムを倒したらこっちに助けに来てもらって構わないんですからね?」
「……言うようになったじゃねぇか。頼りにしてるぜ? コルト」
リーダーからの言葉が別行動のスタートとなりました。
二つの道は枝分かれしてましたが、進むにつれて平行な道のりになってることを魔力で感知しました。
進んでいく途中で、通路が何度か枝分かれしてましたが、その場所から片方は袋小路であることは分かりました。
計画通り、さらに奥に進みます。
ですがその先に待ち構えていたのは、通路を塞いでいるくらい大きくて、見ただけで強さが分かるスライムでした。
「え……えぇっ?! こっちに……いるのっ……?!」
「期間的にはまだ新人だけど、新人離れだよね」
修練所の仲間からの反応をチームのみんなに話したところ、そんな言葉が返ってきました。
仲間からあんなことを言われてなかったら、何の根拠もないおだてかと思ってたに違いなかったです。
「じゃあそろそろあのダンジョンに行ってみてもいいかな」
「罠とか鍵の外し方もマスターしてくれたしね」
「え? でも魔術でしか外せないし……」
「問題ないよ、コルトちゃん。こいつら、魔術どころか指先も不器用だから、教えても意味なかったんだ」
「おまっ! 先輩の威厳がっ! 消えるっ!」
正直に話すと、私も随分調子に乗ってたんだと思います。
「コルトちゃん。ひょっとしたらコルトちゃんの限界以上の回復力を期待するかもしれないから、回復アイテム全部持たせてもいいかな? 荷物運びみたいな感じがして、我ながら気が引けるんだけど」
「予備の武器や防具も持たせられるなら流石に無理ですけど、呪符や薬草くらいなら大丈夫です」
「回復系だけじゃなく、補助系も頼んじゃうことになるけど、いいかしら?」
「はいっ! 任せてください! でも前線に立つのはまだ怖いかな……」
「いや、それは俺らだってコルトちゃんを前線に立たせるのは怖いわ。全滅しかねん」
「コルトちゃんにどんなにやる気があったとしても、断固拒否。安全地帯なら先行させることはあるかもしれないけど、基本的には後衛だよ」
この戦術はいつも通りという解釈が出来ました。
みんなとの会話もいつも通り。
笑い声が絶えない会話でした。
けどいつも通りじゃないこともありました。
それは、クエストの行き先。
「北方の山脈の麓、崖の中に出来たダンジョンでスライムの巣窟。と言ってもいろんな種類のスライムがいるから気を付けてね。基本的な倒し方はいつもと同じ」
「入り口から歓迎されることはないから、入ってしばらくは慎重に進むが罠を見破れる俺とコルトちゃんが先行。様子次第ではコルトちゃんを後ろに回す、だな?」
「その前に、アイテムをコルトちゃんに預けるから。コルトちゃんは自分の判断でみんなに合ったアイテムを使用してくれ」
「はい、分かりました」
この指示はいままでなかったことでした。
今までは、みんなに守られてきた立場の私でした。
それがようやく、戦力になる一人として認められたということです。
不安な思いはありましたが、一人前と見られたことはそれ以上にうれしくて、力になりました。
罠師の人と二人でゆっくりと進みます。
時々二人で、あるいはどちらか一人の判断で、私は後ろに下がり全員の安全を確認しつつ、また前衛に移動します。
手ごわいスライムも現れましたが適時私はポジションを変え、そのことでみんなが効率よくスライム達を倒していきました。
けど私に称賛はありません。
当然です。
今までのような、私の育成を目的の中心とした活動じゃなくなりましたから。
ですが、今まで以上チームの消耗は少なく、経験したことがないくらいダンジョンの奥深くまで進入できました。
みんなの力になっているんだ、という実感が湧き、うれしくも気が引き締まる思いでした。
「コルト、この先枝分かれしてるよな? その先に何か感じることはあるか?」
もう、ちゃん付けで呼ばれなくなりました。
完全に戦力の一つとして認められた瞬間だと思いました。
「いいえ、しばらくは今までと同じ。自分が察知できる範囲の中では、大したことのないスライムが……五体もいないのではないかと思います」
「うん、外れだ。今までよりも強めなスライムが左の道の先にいる。ここでコルトちゃん一人で右の道に進んでもらう」
一瞬思考が止まりました。
たった一人で……確かに攻撃系のアイテムも所持品の中にたくさんあって、全部使ったらオーバーキル間違いなし。
けれどもダンジョン内では初めての単独行動です。
もっとも今まで誰かが単独行動を起こしていたのは見たことはありましたから、いずれは私も同じことをしなければならないとは思ってましたが。
「この二つの道のその先は見えるか?」
「えっと……合流、してるのかな?」
「そ。ここで枝分かれしてる。ということは、一緒に行動すると挟み撃ちになって俺達は全滅する可能性がある。戦力を半分にすると、そのつえぇスライムに当たった側が全滅するかもしれん」
「私がこっちに進んで足止めをしてる間、そのスライムをみんなが倒す、ということですね?」
「そういうこと。あぁ、コルトはそっちに現われたスライムは、別に倒してもらって構わんぞ?」
「そこまで自惚れてないです。皆さんこそ、そっちのスライムを倒したらこっちに助けに来てもらって構わないんですからね?」
「……言うようになったじゃねぇか。頼りにしてるぜ? コルト」
リーダーからの言葉が別行動のスタートとなりました。
二つの道は枝分かれしてましたが、進むにつれて平行な道のりになってることを魔力で感知しました。
進んでいく途中で、通路が何度か枝分かれしてましたが、その場所から片方は袋小路であることは分かりました。
計画通り、さらに奥に進みます。
ですがその先に待ち構えていたのは、通路を塞いでいるくらい大きくて、見ただけで強さが分かるスライムでした。
「え……えぇっ?! こっちに……いるのっ……?!」
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