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視野は世界へ そして己へ
流れゆく日々
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ギュールスの一番下の子供が生まれたのは、一番上の双子が十四才の時。
その双子は十八歳を迎える年に、初めて父親と一緒に魔族の討伐に同行した。
父親からあらゆる能力の素養を受け継いだとは言え、出現する魔族の気配は一切分からない子供達にとって、その時期と場所を言い当てる父親には尊敬の眼差しを向けた。
次々と赤ちゃんが生まれ、その子育てをする両親の手伝いを、年上の兄弟姉妹が担当する。
しかし手伝いする者が多ければいいというものではない。
多すぎて困ることもある。
そこで、年上から順に父親の魔族討伐の手伝いを子供らの仕事に付け足される。
そうして子供達が育っていき、一番下のミルールも十七才になり、父親の手伝いに出られるようになったその年、一番上の双子は三十一才になる。
しかしまだ若く見られる年齢の二人。
シルフ族の平均年齢は五百才。竜人族は六百才である。
その辺りの年齢になると、子供達は自ら率先して相談しながら、家事と討伐の手伝いをしながら、武術魔術の習得を切磋琢磨して身につけていった。
「四大元素の魔術はみんなこなせるようになったわよね」
一日の役割を終えた団欒の場。
ロワーナがその話題を切り出した。
「それ以外の基本的な魔術もな。瞬間移動とか、光陰関係とか」
「獄炎の術も覚えたよ。父さんが大活躍したときの術だよね」
全員がその魔術を覚えたかどうかは、一番下のミルールが目安になる。
年下だけあって、あらゆる経験が兄姉達よりも浅い。
そんな浅い経験だからこそ、彼女が得ることでその術は全員が会得したと言い切ることが出来る。
しかし父親のように、子供達は誰もが魔族をその体に取り込む経験は積んでおらず、その分成長が遅い分野もある。
魔族の出現を予知する力もその一つ。
それでもロワーナの子供達の最初の双子とミラノスの三つ子は、その能力が次第に高まりつつある。
ギュールスはそのことを提案する。
「ユンナとロールス、ミラーユとラーノスとノルス」
「はい」
「何? 父さん」
呼ばれた子供達は次々と返事をする。
「……父さん抜きでお前達を中心に魔族討伐は難しいか?」
その意図を分かりかねる五人は顔を見合わせる。
「父さん、外に出られない?」
「調子、悪いの?」
兄弟姉妹の下の二人、ロワールとミルールは心配そうな声を上げる。
「……いつまでも父さんの陰にいたんじゃ、世界からの向かい風に耐えられる力を持てないんじゃないかってな」
『混族』と呼ばれ蔑まれる時代はまだ過ぎ去ってはいない。
世間から隠れて生活しているわけではないが、国境を関係なく動き、世間からほとんど知られていないこの家族が、いつか世間の目に晒される時が来た時にはどうなるだろう、とギュールスは案じていた。
「この世界よりも、理不尽に命を奪う魔族の方に憤りを強く感じてる。でもそんなみんなは自分らには憎しみを感じてるのも聞いてるし知ってる」
「この中の誰かが危ない目に遭ったら守るよ。でも不可視の術も皆覚えてるし、そんな目にはまず遭わないだろうね」
「魔族を効率よく倒す方法もいろいろ身につけたし、それ以外はひっそりと生活するだけ。そこら辺の草の見分け方も母さんたち以上に詳しいよ」
三つ子の二番目、ラーノスは母親以外の全員の笑いを誘う。
親の三人はそんな子供達を頼もしく見守っている。
…… …… ……
世代交代はまだ大分先。
それまでは、世界のこと、魔族のこと、そして親、特に父親のギュールスのことをついてもっともっと、たくさん知ってほしい。
ロワーナとミラノスはしみじみとそう感じていた。
ギュールスから言わせれば、自分の体に起きている現象の魔族化の進行。これはほぼ止まっている。
当てずっぽうかもしれなかったその症状を止める、家族を持つという手段は的を得ていた。
それはロワーナとミラノスの目から見ても明らかで、人数が増えて賑やかになったことでギュールスの不安の元を断ち切ることが出来た幸せを噛みしめていた。
父親の指示通り、一応母親のどちらかの監視の元、子供達中心で魔族の討伐も始まる。
子供達の成長ぶりと活躍ぶりは留まるところを知らず、父親と遜色のないものになっていった。
「うん、父さんの話は何度も聞いて知ってるよ。大きい魔族を吸収したんでしょ?」
「母さんたちから聞いたのか。父さんはあまり自分の子と話さなかったからな……」
父親が自分の口から自分の経験をあまり語りたがらない理由は、母親達から聞いた話で何となく察することは出来た。
だから父親からどんなことでも自分のことを話すのは珍しい。
「父さんがいなくても、みんなが一人一人別々で活動できそうになるなんて思いもしなかったな。あんな無茶でもしない限り得られない力もあった。それを見よう見まねで父さんと母さん達が持つ術のほとんどを使うことが出来るようになったんだからなぁ」
ギュールスはうれしそうに目を細めて八人に語りかける。
「いなくても、なんて言わないでよ。ずっと元気でいてほしいんだから」
「百才になったんだっけ? 母さん達だって寿命までまだ四百年もあるんだもん。父さんだってそれくらいあるのに縁起でもないなー」
「父さんの、そーゆー後ろ向きな感じな言い方は嫌いだなー」
「母さん達も好きじゃないなぁ。いろんなことを一人で出来るけど、そこだけはちょっとねー」
父親と子供達の語らいの場に乱入してきた母親二人。
ギュールスは苦笑い。
しかし実際ギュールスは、子供達に伝えられること、伝えたいことはほとんど伝えることが出来た。
討伐関係にとどまらず、自給自足の生活の仕方や近衛兵時代になってから初めて体験したいろんな道具の作製。
ロワーナとミラノスは、通信機能を持つ髪飾りばかりではなく、いろんな装備や飾り物を作ってもらっていた。
ライバル心が芽生えたのか、子供達からも負けず劣らずの数々の日用品をプレゼントされる。
ギュールスは、絶対に手にすることがないと思い込んでいた幸せを手にし、魔族討伐からすっかり引退してからは、その幸せの中で満足感に浸っていた。
しかし、その日々は決して長くはなかった。
その双子は十八歳を迎える年に、初めて父親と一緒に魔族の討伐に同行した。
父親からあらゆる能力の素養を受け継いだとは言え、出現する魔族の気配は一切分からない子供達にとって、その時期と場所を言い当てる父親には尊敬の眼差しを向けた。
次々と赤ちゃんが生まれ、その子育てをする両親の手伝いを、年上の兄弟姉妹が担当する。
しかし手伝いする者が多ければいいというものではない。
多すぎて困ることもある。
そこで、年上から順に父親の魔族討伐の手伝いを子供らの仕事に付け足される。
そうして子供達が育っていき、一番下のミルールも十七才になり、父親の手伝いに出られるようになったその年、一番上の双子は三十一才になる。
しかしまだ若く見られる年齢の二人。
シルフ族の平均年齢は五百才。竜人族は六百才である。
その辺りの年齢になると、子供達は自ら率先して相談しながら、家事と討伐の手伝いをしながら、武術魔術の習得を切磋琢磨して身につけていった。
「四大元素の魔術はみんなこなせるようになったわよね」
一日の役割を終えた団欒の場。
ロワーナがその話題を切り出した。
「それ以外の基本的な魔術もな。瞬間移動とか、光陰関係とか」
「獄炎の術も覚えたよ。父さんが大活躍したときの術だよね」
全員がその魔術を覚えたかどうかは、一番下のミルールが目安になる。
年下だけあって、あらゆる経験が兄姉達よりも浅い。
そんな浅い経験だからこそ、彼女が得ることでその術は全員が会得したと言い切ることが出来る。
しかし父親のように、子供達は誰もが魔族をその体に取り込む経験は積んでおらず、その分成長が遅い分野もある。
魔族の出現を予知する力もその一つ。
それでもロワーナの子供達の最初の双子とミラノスの三つ子は、その能力が次第に高まりつつある。
ギュールスはそのことを提案する。
「ユンナとロールス、ミラーユとラーノスとノルス」
「はい」
「何? 父さん」
呼ばれた子供達は次々と返事をする。
「……父さん抜きでお前達を中心に魔族討伐は難しいか?」
その意図を分かりかねる五人は顔を見合わせる。
「父さん、外に出られない?」
「調子、悪いの?」
兄弟姉妹の下の二人、ロワールとミルールは心配そうな声を上げる。
「……いつまでも父さんの陰にいたんじゃ、世界からの向かい風に耐えられる力を持てないんじゃないかってな」
『混族』と呼ばれ蔑まれる時代はまだ過ぎ去ってはいない。
世間から隠れて生活しているわけではないが、国境を関係なく動き、世間からほとんど知られていないこの家族が、いつか世間の目に晒される時が来た時にはどうなるだろう、とギュールスは案じていた。
「この世界よりも、理不尽に命を奪う魔族の方に憤りを強く感じてる。でもそんなみんなは自分らには憎しみを感じてるのも聞いてるし知ってる」
「この中の誰かが危ない目に遭ったら守るよ。でも不可視の術も皆覚えてるし、そんな目にはまず遭わないだろうね」
「魔族を効率よく倒す方法もいろいろ身につけたし、それ以外はひっそりと生活するだけ。そこら辺の草の見分け方も母さんたち以上に詳しいよ」
三つ子の二番目、ラーノスは母親以外の全員の笑いを誘う。
親の三人はそんな子供達を頼もしく見守っている。
…… …… ……
世代交代はまだ大分先。
それまでは、世界のこと、魔族のこと、そして親、特に父親のギュールスのことをついてもっともっと、たくさん知ってほしい。
ロワーナとミラノスはしみじみとそう感じていた。
ギュールスから言わせれば、自分の体に起きている現象の魔族化の進行。これはほぼ止まっている。
当てずっぽうかもしれなかったその症状を止める、家族を持つという手段は的を得ていた。
それはロワーナとミラノスの目から見ても明らかで、人数が増えて賑やかになったことでギュールスの不安の元を断ち切ることが出来た幸せを噛みしめていた。
父親の指示通り、一応母親のどちらかの監視の元、子供達中心で魔族の討伐も始まる。
子供達の成長ぶりと活躍ぶりは留まるところを知らず、父親と遜色のないものになっていった。
「うん、父さんの話は何度も聞いて知ってるよ。大きい魔族を吸収したんでしょ?」
「母さんたちから聞いたのか。父さんはあまり自分の子と話さなかったからな……」
父親が自分の口から自分の経験をあまり語りたがらない理由は、母親達から聞いた話で何となく察することは出来た。
だから父親からどんなことでも自分のことを話すのは珍しい。
「父さんがいなくても、みんなが一人一人別々で活動できそうになるなんて思いもしなかったな。あんな無茶でもしない限り得られない力もあった。それを見よう見まねで父さんと母さん達が持つ術のほとんどを使うことが出来るようになったんだからなぁ」
ギュールスはうれしそうに目を細めて八人に語りかける。
「いなくても、なんて言わないでよ。ずっと元気でいてほしいんだから」
「百才になったんだっけ? 母さん達だって寿命までまだ四百年もあるんだもん。父さんだってそれくらいあるのに縁起でもないなー」
「父さんの、そーゆー後ろ向きな感じな言い方は嫌いだなー」
「母さん達も好きじゃないなぁ。いろんなことを一人で出来るけど、そこだけはちょっとねー」
父親と子供達の語らいの場に乱入してきた母親二人。
ギュールスは苦笑い。
しかし実際ギュールスは、子供達に伝えられること、伝えたいことはほとんど伝えることが出来た。
討伐関係にとどまらず、自給自足の生活の仕方や近衛兵時代になってから初めて体験したいろんな道具の作製。
ロワーナとミラノスは、通信機能を持つ髪飾りばかりではなく、いろんな装備や飾り物を作ってもらっていた。
ライバル心が芽生えたのか、子供達からも負けず劣らずの数々の日用品をプレゼントされる。
ギュールスは、絶対に手にすることがないと思い込んでいた幸せを手にし、魔族討伐からすっかり引退してからは、その幸せの中で満足感に浸っていた。
しかし、その日々は決して長くはなかった。
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