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視野は世界へ そして己へ
ギュールスの異常とその対策
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重い口を開いたギュールスからの言葉は、それを聞いた二人を驚かせた。
「……それで、魔族が現れる前から、その場所を言い当てられていたの……?」
ミラノスの問いに黙って頷くギュールス。
ロワーナは思いもしない現実に、驚きのあまり口を押えている。
予兆は、ロワーナがレンドレスの魔族の研究室に案内されたとき。
ギュールスはロワーナが見ている前で、自分の体質を利用してランク上位の魔族を取り込んでから。
国民ばかりではなく、王族すらも気付かれなかった魔族の研究。
まだ王族の仲間入りにはなっていない婚約中の身の時から、それが行われている研究室に出入り自由を許されていたギュールス。
自分の体を使った実験に協力することをその取引の条件にしていた。
ロワーナが研究室に案内される前に既に一回経験しており、反レンドレス同盟国がレンドレスに踏み込むまでに一回。計三回、その実験を経験していた。
「……三回目の時だったか。魔族の性質が強くなったみたいで」
「な……なんて、ことを……」
「どうして……どうして止めなかったの?!」
現れると同時に住民達の命を蹂躙する行為に出る魔族。
その本能のようなものが、月日が経つにつれ強まってきている気がするという。
それと同時に、仲間の元に引き寄せられる気が次第に強くなってきていると語る。
二人がそんなことを思うのも当然だろう。
「ニューロス達を無抵抗化する力な。あれ、その実験の結果得た物だったから。こちらに何の被害も与えずにあいつらを拘束するには、あいつらの知らない力を魔族から得るしかなかった」
「……捨て石にしないようにって……約束したじゃない! ……どうして・……どうしてっ!」
ロワーナの悔やむ思いはミラノスも感じていた。
そして、彼の心の中で常にその本能と戦っていることに全く気付かなかった自分へのふがいなさへの怒りも感じていた。
「……あなたが……あなたじゃなくなってしまうっていうこと? いえ、それは大した問題じゃない。魔族の血に、魔族の性質にあなたが乗っ取られたら、それこそみんながあなたのことを……っ」
迫害どころでは済まされない。
そうなったら、世界各国からギュールスを討伐するために軍を派遣するだろう。
今まで自分が受けた被害については何一つ文句を言わない。しかも彼自身は誰にも害を与えたわけでもない。
それがこの症状が進行すると、世界中が彼を責めることは間違いない。
「……今まで俺を責めてた理由が、正当なものに変わるだけ」
「馬鹿な事言わないのっ! 何度言わせれば気が済むの!」
ロワーナは部屋の外まで響きそうな、悲壮な叫び声をあげる。
「……まさか……魔族と契約する方法……なんてあるわけないよね……」
あり得ないことをミラノスは口にする。
もしそんな方法があるのなら、今頃は魔族を使い魔にする者達で世の中は溢れかえっているはずである。
「……ある……と思う」
二人の目は、絶望から希望に満ち溢れた色に変わる。
「あるの?!」
「でもそれって……ギュールスを……手駒にするってことじゃない?」
二人はその答えをせびる。
しかしなかなか答えようとしないギュールス。
それでも彼から答えが出ることを信じてじっと待つ二人。
そのうち、青い彼の顔が次第に紫になっていく。
「……どう、したの? 具合悪いの?」
ミラノスは心配する。
普通皮膚が紫色になると、皮膚の下で出血が起きたりすることが多い。
しかし、その顔色を見たことがあるロワーナはそんな彼女を安心させる。
「大丈夫。ギュールスの、特に顔がこんな色になる時は……。ひょっとして……かな?」
ギュールスは黙って頷く。
そんな二人を見てやきもきするミラノス。
その答えを待ちきれない。
「……えーっと……。家族を、増やす、とか、かな」
途切れ途切れのギュールスの答えに、やっぱりそうかという顔をするロワーナ。
しばらく固まり、ギュールスからうつったかのように顔に赤みが増していくミラノス。
「かか、家族を増やす……って……」
「勿論魔族の性質に乗っ取られる前だから。魔族になり切ってしまったら……俺の母さんの様になりかねないから……」
そこでまた沈むギュールス。
その肩をポンと叩くロワーナ。
何か用があるのかと、ギュールスは彼女に目を合わせる。
ロワーナはギュールスに微笑みかける。
「うん。それならそれでも構わない」
今度はギュールスが驚いてそのまま固まる。
「家族、増やそうっ。ね?」
「ちょっ……。わ、私もっ!」
「ほぇっ?!」
続けてミラノスからの言葉に、ギュールスの声がひっくり返った。
「……それで、魔族が現れる前から、その場所を言い当てられていたの……?」
ミラノスの問いに黙って頷くギュールス。
ロワーナは思いもしない現実に、驚きのあまり口を押えている。
予兆は、ロワーナがレンドレスの魔族の研究室に案内されたとき。
ギュールスはロワーナが見ている前で、自分の体質を利用してランク上位の魔族を取り込んでから。
国民ばかりではなく、王族すらも気付かれなかった魔族の研究。
まだ王族の仲間入りにはなっていない婚約中の身の時から、それが行われている研究室に出入り自由を許されていたギュールス。
自分の体を使った実験に協力することをその取引の条件にしていた。
ロワーナが研究室に案内される前に既に一回経験しており、反レンドレス同盟国がレンドレスに踏み込むまでに一回。計三回、その実験を経験していた。
「……三回目の時だったか。魔族の性質が強くなったみたいで」
「な……なんて、ことを……」
「どうして……どうして止めなかったの?!」
現れると同時に住民達の命を蹂躙する行為に出る魔族。
その本能のようなものが、月日が経つにつれ強まってきている気がするという。
それと同時に、仲間の元に引き寄せられる気が次第に強くなってきていると語る。
二人がそんなことを思うのも当然だろう。
「ニューロス達を無抵抗化する力な。あれ、その実験の結果得た物だったから。こちらに何の被害も与えずにあいつらを拘束するには、あいつらの知らない力を魔族から得るしかなかった」
「……捨て石にしないようにって……約束したじゃない! ……どうして・……どうしてっ!」
ロワーナの悔やむ思いはミラノスも感じていた。
そして、彼の心の中で常にその本能と戦っていることに全く気付かなかった自分へのふがいなさへの怒りも感じていた。
「……あなたが……あなたじゃなくなってしまうっていうこと? いえ、それは大した問題じゃない。魔族の血に、魔族の性質にあなたが乗っ取られたら、それこそみんながあなたのことを……っ」
迫害どころでは済まされない。
そうなったら、世界各国からギュールスを討伐するために軍を派遣するだろう。
今まで自分が受けた被害については何一つ文句を言わない。しかも彼自身は誰にも害を与えたわけでもない。
それがこの症状が進行すると、世界中が彼を責めることは間違いない。
「……今まで俺を責めてた理由が、正当なものに変わるだけ」
「馬鹿な事言わないのっ! 何度言わせれば気が済むの!」
ロワーナは部屋の外まで響きそうな、悲壮な叫び声をあげる。
「……まさか……魔族と契約する方法……なんてあるわけないよね……」
あり得ないことをミラノスは口にする。
もしそんな方法があるのなら、今頃は魔族を使い魔にする者達で世の中は溢れかえっているはずである。
「……ある……と思う」
二人の目は、絶望から希望に満ち溢れた色に変わる。
「あるの?!」
「でもそれって……ギュールスを……手駒にするってことじゃない?」
二人はその答えをせびる。
しかしなかなか答えようとしないギュールス。
それでも彼から答えが出ることを信じてじっと待つ二人。
そのうち、青い彼の顔が次第に紫になっていく。
「……どう、したの? 具合悪いの?」
ミラノスは心配する。
普通皮膚が紫色になると、皮膚の下で出血が起きたりすることが多い。
しかし、その顔色を見たことがあるロワーナはそんな彼女を安心させる。
「大丈夫。ギュールスの、特に顔がこんな色になる時は……。ひょっとして……かな?」
ギュールスは黙って頷く。
そんな二人を見てやきもきするミラノス。
その答えを待ちきれない。
「……えーっと……。家族を、増やす、とか、かな」
途切れ途切れのギュールスの答えに、やっぱりそうかという顔をするロワーナ。
しばらく固まり、ギュールスからうつったかのように顔に赤みが増していくミラノス。
「かか、家族を増やす……って……」
「勿論魔族の性質に乗っ取られる前だから。魔族になり切ってしまったら……俺の母さんの様になりかねないから……」
そこでまた沈むギュールス。
その肩をポンと叩くロワーナ。
何か用があるのかと、ギュールスは彼女に目を合わせる。
ロワーナはギュールスに微笑みかける。
「うん。それならそれでも構わない」
今度はギュールスが驚いてそのまま固まる。
「家族、増やそうっ。ね?」
「ちょっ……。わ、私もっ!」
「ほぇっ?!」
続けてミラノスからの言葉に、ギュールスの声がひっくり返った。
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