75 / 122
近衛兵ギュールス=ボールド
出撃の後処理
しおりを挟む
夕刻の出撃で、ギュールスは生まれて初めて重傷と判定されるほどの傷を受けた。
魔族の体質で状態変化を繰り返しても、傷は治るが痛みは止まらず。
それでも、完治するという太鼓判を医者から押されたのは不幸中の幸いだった。
結果的に見れば、出撃の成果はおおむね好評だったが、ギュールスへの評価が微妙なものになっていた。
まず、ギュールスの行動を目の当たりにした第五部隊は、ギュールスの行動を批判した。
彼女らの視点からの主張は、現場の総指揮官であるロワーナへの救援要請をした。
そして誰も救援を望まない者が勝手に現れた。
第一部隊所属の者が勝手に第一部隊の担当の現場から離脱したとしか思えない。
かといって、こちらの指示通りに動かず、スケルトン三体しか倒せなかった。
その後体に損傷を起こし倒れた。
唐突に、何の脈絡もなくスケルトンの軍勢は自然消滅。
第五部隊は互いの現状を確認。その後総指揮官のロワーナに報告に向かった。今回の魔族の襲撃の黒幕と思われる魔術師を切り捨てていたロワーナと遭遇。
先に帰還を命じられ、元帥の下に報告に参上というものである。
第一部隊からは、林の中で林間部隊と共に林の中で待機していたと思われていたギュールス。
団長からの連絡で部隊から離脱し、救援要請が入ったロワーナの指示に従いギュールスの離脱を了承。
スケルトンの集団が分裂し、林の中に侵攻するがそれを止める手立てもなく、飛行部隊と共に、残留しているスケルトンの集団に応戦。
しばらくすると突然それらが壊滅。
その後林間部隊に応援に駆け付けるも、彼らも魔族の壊滅に戸惑っている。
その後ロワーナと合流に至る。
林間部隊からは、さらに打ち漏らしを許してしまい、草原の方に侵攻を許してしまう。
少しでも多く、林の中で足止めをするが、そのうちいきなり魔族が壊滅。
後は第一部隊の報告通り。
ロワーナからの報告は、各グループからは膠着状態と判断。
しかし第五部隊からの援軍要請で、第一部隊から了承を得てギュールスを第五部隊に行かせる。
しばらくしてからは海岸方面と野原方面の二方向からスケルトンの集団が自分の居場所目指してやってくる気配を感じる。
単独で一番戦力があると思われるギュールスへ連絡するも応答に不審を感じる。
スケルトンの二つの集団と応戦している最中にギュールスから指示が出る。
その通りに動くと所属不明で挙動不審の魔術師がおり、スケルトンを操っている者と判明。これを討ち取り襲撃事件は収束。
これらの報告を受けたエリアード元帥。誰の報告が信頼に足る者なのか判断がつかない。
そこに巡回部隊と歩兵部隊からの報告がくる。
とにかく傭兵部隊を魔族から遠ざけようと防戦するが、スケルトンの本来の動きではありえない行動の速さに愕然とするが、そうも言っていられない。
巡回部隊は歩兵部隊の加勢に心強く感じる。
しかし侵攻の勢いは強く、何体か後ろに逸らしてしまう。
それを全て討ち取った青い体の人物を目撃。彼を一目で、忌まわしい存在である『混族』であると判断するが、我々の味方になってくれるのなら誰でもいいと妥協する。
しかしその直後、守られるべき対象の傭兵部隊一人が彼に背後から切りかかる。
詳しくは分からないが、何かを罵り、続けて第五部隊からも罵りを受けているような言動が見受けられた。
彼は立ち上がりかかるが膝から崩れ落ちるような様子で地面に横たわる。
体の一部が崩れ、『混族』の不気味さを感じ取るが、それどころではない事態が訪れる。スケルトンの集団の壊滅である。
いつの間にか傭兵部隊の姿はなく、第五部隊は崩れた体のギュールスを置き去りにして、おそらくロワーナ団長の下に移動したと解釈。
『混族』は魔物の血が流れているという。しかしこちらの応援に駆け付けたわけだから、放置するのも気分が悪い。
恐る恐る近づくと、崩れたはずの彼の体は元に戻っているのが分かる。
持ち合わせの回復手段を全て彼に使うつもりで介抱していると、林の方からロワーナの一団が現れ、介抱を交代。
巡回部隊と歩兵部隊の全員からの証言をまとめられた内容が以上であった。
「ロワーナ……団長」
「はい……何でしょうか、エリアード元帥」
二人はそれぞれの立場の者として、エリアードの部屋で対面していた。
エリアードは全ての報告を受け、内輪での揉め事が深刻さを増していることを理解した。
つくづく他の部隊と一緒に派兵させたのは正解であったと自画自賛するが、喜んでいる場合ではない。
「彼の立ち位置を少し変える必要があるんじゃないか?」
「しかし、第一から第三部隊まではまだしも、他の部隊の実力強化のためには彼の存在は一つのバロメータにもなり、近衛兵師団の実力の向上にも一役買っています」
しかし同じ兵科の中で、これほど対応や評価が正反対の者はいない。
彼がいなければその兵科での調和は取れる。しかし戦力としては逸材である。
エリアードは渋い顔をしている。
しかしロワーナは、彼の苦悩の元はそればかりではないことを悟った。
「そこまで悩むほどの話ではないでしょう? 何か別の問題でも起きたのですか?」
エリアードの口は重い。
しかし他に話を打ち明ける相手がいないようで、その口をゆっくりと開いた。
「……お前が討ち取った魔術師のことだ」
魔術師の遺体は林間兵によって運ばれ、ロワーナ達と共に帰還。
しかるべき施設へ検死と調査のために運び込まれた。
「……我々が受けた救援では、スケルトン五十体。そしてお前達からの報告で、さらにスケルトン六十体。計百十体。まぁそれはいい」
腕組みをして、話を打ち明けながらも憶測を続けている。
「だがお前が魔術師一人を討ち取ったことで、スケルトンすべてが撃破あるいは消滅……ほとんどが消滅されたわけだが……」
「それが何か問題でも?」
エリアードはロワーナを真正面に見据える。
そして我ながら馬鹿馬鹿しいと思いつつも、敢えて真面目にロワーナにそんな質問をする。
「お前は本当は、十人くらい討ち取ってのではないか?」
ロワーナはエリアードの質問の意味が理解できない。しかし問われた質問には簡単に答えられる。たった一人きりだと。
だがその答えは、エリアードの表情をさらに暗くする。
「つまり、一人で百十体ものスケルトンを操っていた、ということになる」
ロワーナは事の重大さに気付く。
ただ召喚するばかりではなく、統率の取れた行動をさせ、有り得ない動きを取らせることが出来る魔術師ということになる。
「それは……ただの魔術師には無理です。魔導士並みの……」
「検死の結果、レンドレス共和国の魔導士と判明した」
ロワーナはエリアードからの報告の息をのむ。
戦争が近い。
そんな予想は誰にでも簡単にできる。
得体のしれない魔族も現れている。
その魔族と共闘して、反レンドレス同盟の国々に宣戦布告をするのだろうか。
たった一国が、結束を強めた七つほどの国の同盟に立ち向かおうとするのか。
勝算があるとするなら、一緒に組む魔族のレベルが相当高いと思われる。
果たして未知の魔族の集団に太刀打ちできるのだろうか。
そんな懸念を抱いてしまう。
「レンドレスは……我々の同盟国を崩し切れると踏んだのでしょうか?」
「読みが甘いぞ、ロワーナ」
エリアードの言葉に驚きの色を隠せない。
まだほかに何か別の事実があるというのか。
「それほどの魔力や魔術を有する者が、レンドレスにいるなど聞いたことがない。そして彼のことを『捨て石』などと言うが、彼よりも『捨て石』と呼ぶにふさわしい役割ではないか?」
彼とはまぎれもなくギュールスのことである。
彼は近衛兵として三度出撃して、すべて帰還している。
捨て石という形容は当てはまらない。
エリアードの言うとおりであるならば、むしろその魔術師が捨て石という呼称が当てはまる。
だがそこまで考えたロワーナも、それに気付く。
「魔導士と呼ばれるほどの力の持ち主を『捨て石』にする……? それほどの人材ならば、我々の国では優秀な部類ではないですか! ……向こうにとってはそれほどでもない、ということ?」
「と、俺も考えた。となると、そんな者達によって何等かの組織が編成出来なくもない。が、そんな話どころか根も葉もない噂話すら聞こえてこない。捨て石にするつもりがなく、向こうが油断して命を落としたというのなら、それならそれでいい。しかし……」
なぜレンドレス国側に潜ませず、より遠いミアニム辺境国内部に潜ませたのか。
レンドレス共和国の魔術師であることは間違いない。
ミアニム国にひそかに侵入したということになる。そしてスパイになって紛れ込もうということもありえない。レンドレスの者と分からないようにすることが前提だからである。
「……私には理解不能です。やはり捨て石にすることを前提に……いや、それも国の事情を考えれば……」
「考えたくもない条件が一つある。それで今回の事情は成立するはずだ」
ロワーナには辿り着けない結論に、エリアードは既に辿り着いている。
ロワーナは生唾を飲み、エリアードの言葉を待つ。
「ガーランド王国だが、その戦力のバランスが最もいい国だ。国レベルではレンドレスと国交断絶しているが、レンドレスの飛び地があるという噂もある」
「そんな……まさか我々を裏切っていると?」
「飛び地の存在はガーランドも調査をしているという。だがレンドレスからの一方的な地域の確保と隠蔽工作をしていたらガーランド王だって分かりはすまい」
「そんな状態でよくも同盟を組めたものです!」
「魔族との共存を利用して世界侵略を図るレンドレスだぞ? その技術を独り占めにするためだろうな。ガーランドとの国交断絶はレンドレスから一方的に宣告されたんだ」
つまりその噂話が本当なら、ガーランドはレンドレスの好きに振り回されているということである。
「その魔術に長けた人材をレンドレスに連れてきて、そこで魔族召喚と操縦のノウハウを身に付けさせて……」
「ある意味賢いやり方だよ。ガーランドに侵攻して支配する。そうして国力を蓄えるより、反体制の足並みを乱し続けたまま国力を蓄える。半同盟を一気に崩壊させることが出来るまでな」
「ならそうなる前にこちらから打って出るべきでは?! このままではレンドレスの都合のいい世界が出来上がってしまう! 魔族によっていたずらに命を奪われる地獄が出来上がってしまいます!」
「……ところがレンドレスの大統領は、魔族と共同もしくは単独での世界支配を否定している。こちらが先制するなら、向こうに大義名分が生まれる。その際に魔族との共闘が見られても、やむを得ない手段として公的に認められるだろうな」
泥沼の戦乱の時代に突入してしまう。
そして、恨みに恨みを重ねる歴史が出来上がり、和解成立が不可能な世界になってしまう恐れもある。
ロワーナが考えもしない事態が既に生じていた。
魔族の体質で状態変化を繰り返しても、傷は治るが痛みは止まらず。
それでも、完治するという太鼓判を医者から押されたのは不幸中の幸いだった。
結果的に見れば、出撃の成果はおおむね好評だったが、ギュールスへの評価が微妙なものになっていた。
まず、ギュールスの行動を目の当たりにした第五部隊は、ギュールスの行動を批判した。
彼女らの視点からの主張は、現場の総指揮官であるロワーナへの救援要請をした。
そして誰も救援を望まない者が勝手に現れた。
第一部隊所属の者が勝手に第一部隊の担当の現場から離脱したとしか思えない。
かといって、こちらの指示通りに動かず、スケルトン三体しか倒せなかった。
その後体に損傷を起こし倒れた。
唐突に、何の脈絡もなくスケルトンの軍勢は自然消滅。
第五部隊は互いの現状を確認。その後総指揮官のロワーナに報告に向かった。今回の魔族の襲撃の黒幕と思われる魔術師を切り捨てていたロワーナと遭遇。
先に帰還を命じられ、元帥の下に報告に参上というものである。
第一部隊からは、林の中で林間部隊と共に林の中で待機していたと思われていたギュールス。
団長からの連絡で部隊から離脱し、救援要請が入ったロワーナの指示に従いギュールスの離脱を了承。
スケルトンの集団が分裂し、林の中に侵攻するがそれを止める手立てもなく、飛行部隊と共に、残留しているスケルトンの集団に応戦。
しばらくすると突然それらが壊滅。
その後林間部隊に応援に駆け付けるも、彼らも魔族の壊滅に戸惑っている。
その後ロワーナと合流に至る。
林間部隊からは、さらに打ち漏らしを許してしまい、草原の方に侵攻を許してしまう。
少しでも多く、林の中で足止めをするが、そのうちいきなり魔族が壊滅。
後は第一部隊の報告通り。
ロワーナからの報告は、各グループからは膠着状態と判断。
しかし第五部隊からの援軍要請で、第一部隊から了承を得てギュールスを第五部隊に行かせる。
しばらくしてからは海岸方面と野原方面の二方向からスケルトンの集団が自分の居場所目指してやってくる気配を感じる。
単独で一番戦力があると思われるギュールスへ連絡するも応答に不審を感じる。
スケルトンの二つの集団と応戦している最中にギュールスから指示が出る。
その通りに動くと所属不明で挙動不審の魔術師がおり、スケルトンを操っている者と判明。これを討ち取り襲撃事件は収束。
これらの報告を受けたエリアード元帥。誰の報告が信頼に足る者なのか判断がつかない。
そこに巡回部隊と歩兵部隊からの報告がくる。
とにかく傭兵部隊を魔族から遠ざけようと防戦するが、スケルトンの本来の動きではありえない行動の速さに愕然とするが、そうも言っていられない。
巡回部隊は歩兵部隊の加勢に心強く感じる。
しかし侵攻の勢いは強く、何体か後ろに逸らしてしまう。
それを全て討ち取った青い体の人物を目撃。彼を一目で、忌まわしい存在である『混族』であると判断するが、我々の味方になってくれるのなら誰でもいいと妥協する。
しかしその直後、守られるべき対象の傭兵部隊一人が彼に背後から切りかかる。
詳しくは分からないが、何かを罵り、続けて第五部隊からも罵りを受けているような言動が見受けられた。
彼は立ち上がりかかるが膝から崩れ落ちるような様子で地面に横たわる。
体の一部が崩れ、『混族』の不気味さを感じ取るが、それどころではない事態が訪れる。スケルトンの集団の壊滅である。
いつの間にか傭兵部隊の姿はなく、第五部隊は崩れた体のギュールスを置き去りにして、おそらくロワーナ団長の下に移動したと解釈。
『混族』は魔物の血が流れているという。しかしこちらの応援に駆け付けたわけだから、放置するのも気分が悪い。
恐る恐る近づくと、崩れたはずの彼の体は元に戻っているのが分かる。
持ち合わせの回復手段を全て彼に使うつもりで介抱していると、林の方からロワーナの一団が現れ、介抱を交代。
巡回部隊と歩兵部隊の全員からの証言をまとめられた内容が以上であった。
「ロワーナ……団長」
「はい……何でしょうか、エリアード元帥」
二人はそれぞれの立場の者として、エリアードの部屋で対面していた。
エリアードは全ての報告を受け、内輪での揉め事が深刻さを増していることを理解した。
つくづく他の部隊と一緒に派兵させたのは正解であったと自画自賛するが、喜んでいる場合ではない。
「彼の立ち位置を少し変える必要があるんじゃないか?」
「しかし、第一から第三部隊まではまだしも、他の部隊の実力強化のためには彼の存在は一つのバロメータにもなり、近衛兵師団の実力の向上にも一役買っています」
しかし同じ兵科の中で、これほど対応や評価が正反対の者はいない。
彼がいなければその兵科での調和は取れる。しかし戦力としては逸材である。
エリアードは渋い顔をしている。
しかしロワーナは、彼の苦悩の元はそればかりではないことを悟った。
「そこまで悩むほどの話ではないでしょう? 何か別の問題でも起きたのですか?」
エリアードの口は重い。
しかし他に話を打ち明ける相手がいないようで、その口をゆっくりと開いた。
「……お前が討ち取った魔術師のことだ」
魔術師の遺体は林間兵によって運ばれ、ロワーナ達と共に帰還。
しかるべき施設へ検死と調査のために運び込まれた。
「……我々が受けた救援では、スケルトン五十体。そしてお前達からの報告で、さらにスケルトン六十体。計百十体。まぁそれはいい」
腕組みをして、話を打ち明けながらも憶測を続けている。
「だがお前が魔術師一人を討ち取ったことで、スケルトンすべてが撃破あるいは消滅……ほとんどが消滅されたわけだが……」
「それが何か問題でも?」
エリアードはロワーナを真正面に見据える。
そして我ながら馬鹿馬鹿しいと思いつつも、敢えて真面目にロワーナにそんな質問をする。
「お前は本当は、十人くらい討ち取ってのではないか?」
ロワーナはエリアードの質問の意味が理解できない。しかし問われた質問には簡単に答えられる。たった一人きりだと。
だがその答えは、エリアードの表情をさらに暗くする。
「つまり、一人で百十体ものスケルトンを操っていた、ということになる」
ロワーナは事の重大さに気付く。
ただ召喚するばかりではなく、統率の取れた行動をさせ、有り得ない動きを取らせることが出来る魔術師ということになる。
「それは……ただの魔術師には無理です。魔導士並みの……」
「検死の結果、レンドレス共和国の魔導士と判明した」
ロワーナはエリアードからの報告の息をのむ。
戦争が近い。
そんな予想は誰にでも簡単にできる。
得体のしれない魔族も現れている。
その魔族と共闘して、反レンドレス同盟の国々に宣戦布告をするのだろうか。
たった一国が、結束を強めた七つほどの国の同盟に立ち向かおうとするのか。
勝算があるとするなら、一緒に組む魔族のレベルが相当高いと思われる。
果たして未知の魔族の集団に太刀打ちできるのだろうか。
そんな懸念を抱いてしまう。
「レンドレスは……我々の同盟国を崩し切れると踏んだのでしょうか?」
「読みが甘いぞ、ロワーナ」
エリアードの言葉に驚きの色を隠せない。
まだほかに何か別の事実があるというのか。
「それほどの魔力や魔術を有する者が、レンドレスにいるなど聞いたことがない。そして彼のことを『捨て石』などと言うが、彼よりも『捨て石』と呼ぶにふさわしい役割ではないか?」
彼とはまぎれもなくギュールスのことである。
彼は近衛兵として三度出撃して、すべて帰還している。
捨て石という形容は当てはまらない。
エリアードの言うとおりであるならば、むしろその魔術師が捨て石という呼称が当てはまる。
だがそこまで考えたロワーナも、それに気付く。
「魔導士と呼ばれるほどの力の持ち主を『捨て石』にする……? それほどの人材ならば、我々の国では優秀な部類ではないですか! ……向こうにとってはそれほどでもない、ということ?」
「と、俺も考えた。となると、そんな者達によって何等かの組織が編成出来なくもない。が、そんな話どころか根も葉もない噂話すら聞こえてこない。捨て石にするつもりがなく、向こうが油断して命を落としたというのなら、それならそれでいい。しかし……」
なぜレンドレス国側に潜ませず、より遠いミアニム辺境国内部に潜ませたのか。
レンドレス共和国の魔術師であることは間違いない。
ミアニム国にひそかに侵入したということになる。そしてスパイになって紛れ込もうということもありえない。レンドレスの者と分からないようにすることが前提だからである。
「……私には理解不能です。やはり捨て石にすることを前提に……いや、それも国の事情を考えれば……」
「考えたくもない条件が一つある。それで今回の事情は成立するはずだ」
ロワーナには辿り着けない結論に、エリアードは既に辿り着いている。
ロワーナは生唾を飲み、エリアードの言葉を待つ。
「ガーランド王国だが、その戦力のバランスが最もいい国だ。国レベルではレンドレスと国交断絶しているが、レンドレスの飛び地があるという噂もある」
「そんな……まさか我々を裏切っていると?」
「飛び地の存在はガーランドも調査をしているという。だがレンドレスからの一方的な地域の確保と隠蔽工作をしていたらガーランド王だって分かりはすまい」
「そんな状態でよくも同盟を組めたものです!」
「魔族との共存を利用して世界侵略を図るレンドレスだぞ? その技術を独り占めにするためだろうな。ガーランドとの国交断絶はレンドレスから一方的に宣告されたんだ」
つまりその噂話が本当なら、ガーランドはレンドレスの好きに振り回されているということである。
「その魔術に長けた人材をレンドレスに連れてきて、そこで魔族召喚と操縦のノウハウを身に付けさせて……」
「ある意味賢いやり方だよ。ガーランドに侵攻して支配する。そうして国力を蓄えるより、反体制の足並みを乱し続けたまま国力を蓄える。半同盟を一気に崩壊させることが出来るまでな」
「ならそうなる前にこちらから打って出るべきでは?! このままではレンドレスの都合のいい世界が出来上がってしまう! 魔族によっていたずらに命を奪われる地獄が出来上がってしまいます!」
「……ところがレンドレスの大統領は、魔族と共同もしくは単独での世界支配を否定している。こちらが先制するなら、向こうに大義名分が生まれる。その際に魔族との共闘が見られても、やむを得ない手段として公的に認められるだろうな」
泥沼の戦乱の時代に突入してしまう。
そして、恨みに恨みを重ねる歴史が出来上がり、和解成立が不可能な世界になってしまう恐れもある。
ロワーナが考えもしない事態が既に生じていた。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる