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近衛兵ギュールス=ボールド
気が休まらない休養日 休養の終わりは突然訪れる
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それは唐突にやってきた。
深夜、通常勤務の者達は熟睡している時間帯。
駐留本部の中の、国軍兵達が滞留あるいは生活する居住区内に緊急出撃を通達するサイレンが鳴り響く。
ギュールスも自室で眠っていたがその音で目が覚める。
野宿だろうが布団の中だろうが、普段着のまま眠る習慣がある彼は、その音に目が覚めると布団から跳ね起きたる
いつものように防具を体にめり込ませる。
すると突然部屋のドアが開く。
「おいっ! 新人! ってもう出られるのか。団長室に急げ!」
顔を出したのはエノーラ。
告げられた集合場所に着くと、既に休暇中の第一部隊から第三部隊が揃っていた。
「あ……すいません。おく」
「よし! 全員揃ったな! 状況伝達する!」
誰もギュールスが最後に来たことを咎めない。
それどころではない。
事は一刻も早く終息させなければならないことはギュールスにも分かっていることだ。
「現在国外巡回中の第六部隊からの、魔族迎撃要請だ」
援軍要請ではない。
ということは、魔族とは開戦していない。
というと、のんびり事を構えている感じがするが、そうではない。
迎撃要請、つまり巡回中の部隊や周辺にいる軍事力では魔族を抑えられない。
現場でそう判断できるほど魔族に力があるということである。
しかも巡回地域からその存在を発見された。
住民達の命の危機でもある。
出撃が間に合わなかった場合はどうなるか。
答えは簡単である。
ギュールスのような思いをする者が増える。それだけである。
その、それだけのことは深刻な事態をもたらすことでもある。
早く駆け付けなければ。
そんな思いが強くなる。
しかしどこから要請が来たのか、どのように対処するのかが分からなければ動きようがない。
「ミニアムの西、海岸線から来る魔族だそうだ」
日中に聞いたばかりの話を思い出す。
レンドレスは魔族と深く関わりを持っている。
しかし今の巡回中の部隊からの報告では、レンドレス共和国が、オワサワール皇国と親密な関係にあるミニアム辺境国の東側にある国境線を越えたという話ではない
その逆、海岸線伝いに西に進んだ先。領土内の海岸から現れたという。
「自然発生した物か同かは不明。数は二体。視認した時点で判明した形状は魚類のようだ。魔族のランクを三級と判断した」
「三級?」
初めて聞く魔族のランク付けに、ギュールスは解釈が出来ない。
「傭兵達に任せられる相手の魔族は五級以下。今はそれで我慢して」
小声でささやく隣のエリンからの説明に、ギュールスは黙って頷いた。
「落ち着けば第六部隊だけで対処できるだろうが、夜間と遠目での判断、そして周囲に魔族はほかになしと判断。住民達と距離が離れている現場で、確実に殲滅する方針に従っての緊急要請ということだ。慌てる必要はない。無駄のない行動で準備を整えて竜車場に向かえ。部隊ごとに全員揃った時点で第六部隊待機地点に移動するように。以上!」
「ギュールス、準備が整ったら第一部隊の会議室に集合。分かった?」
ティルから続けてその後の行動の説明を受け、軽く頷く。
全員が順番に団長室からそれぞれの思う所に急ぐ。
出撃のために身に付ける物、所持する物はそれぞれ保管場所が違う。
自室に常備している者もいれば、倉庫で保管している者もいる。
ギュールスは自室にすべて置いている。
すべて一つの袋に収めているので手間取ることは全くなく、今度は集合場所に一番乗りを果たす。
間もなくして全員が揃う。
ロワーナは第一部隊隊長だが、その前に近衛兵師団の団長である。
三つの部隊を指揮する必要があるため、第一部隊にだけ気を配るわけにもいかない。
エノーラが副団長と呼ばれる所以はそこにある。
「でもそれって副隊長って言いませんか?」
「言葉の響きが、副団長の方がいいんだって」
私情を挟んでいた。
「全員忘れ物はないな? 竜車場から現場に移動するぞ」
エノーラからの号令で全員が素早く移動。
館内の廊下をあちこち曲がったり階段を降りたりする手間はかけられない。
非常口から一気に外に出て竜車場へ急ぐ。
そこにはすでにロワーナがいた。
「第一部隊全員揃い、これから現場に向かいます!」
「第六部隊と合流後、出動した部隊が揃うまでその場で待機! 魔族の情報をその場から得られるだけ入手すること!」
「了解!」
第一部隊は指示を受け、竜車場で待機していた移送部隊の飛竜に乗り込んだ。
非常事態の緊急出動。
傭兵時代のギュールスは体験したことのない状況である。
「今回はどんな作戦になるんだろ?」
そういうことで感じた不安からではないだろうが、ギュールスはつい弱気のような言葉を出す。
「こんな出撃の仕方は、傭兵時代には無かったろう?」
エノーラがギュールスの思いを見透かすようなことを言う。
傭兵も、夜間の討伐参加に登録することは出来るが、突然の出動要請はまったくない。
しかし不安に思うところは、第一部隊の全員が予想していることとは違っていた。
「……魔族の存在を先に察知してから、そいつらの移動先の予想を確定させて、そこから俺の考えた作戦を実行するんです」
「一昨日の初出撃の時みたいなことだよね? 戦場になるところに仕掛けして」
アイミの言葉に頷いて、ギュールスは話を続けた。
「はい。ですが今回は既に現場に先に到着してる形だから、戦場に前もって仕掛けを用意することは出来ない」
「すると……どうするのかな? なにも打つ手はありませんでは、近衛兵どころか傭兵部隊だってあまり存在の価値はないぞ? まぁそれにランクを考えると傭兵部隊はお呼びではない。だからこそ国軍だけで殲滅しなければならないところだ」
「……先回りされたことなら、それなら数多く体験してます。傭兵時代の俺なら喜んで捨て石覚悟で」
「却下。お前も仲間だ。我々は見捨てる気はない」
期待は意外と足枷になる。
傭兵時代の思考から切り替える必要はある。
そしてその現場。
砂地での討伐も経験はあるものの、海は見ること自体初めてとなる。
「……理想は、魔族が移動しないこと。そして襲撃の能力を発揮させないこと」
見方を変えたギュールスの理論には、全員が興味深く耳を傾ける。
「飛行能力がなければ、砂地は有効に活用できる。海の魚の能力は分かりませんが、川魚と似たものであるならば、砂地に埋めてから事に当たるというのは有効かと」
エノーラは、ほう、と言いながら感心する。
弱気な発言はするが、それでも前向きな検討は止まらない。
「砂地での戦いは、いつも気温が高かった。日に焼けてたせいか、砂地の熱に手を焼いた。今はそんな状態ではないから気にする必要はないけど、魔族の性質に飛んだり跳ねたりするという力がなければそれを再現したい」
戦いづらい環境を準備したい。
つまりはそういうことである。
そんなギュールスの望みに全員が頭をかしげる。
「肉体を持つ魔族なら、極端な温度に弱いはず。その温度に包まれたら、出撃の目的は果たすことが出来るはず」
「うん。それは悪くない」
「しかし」
ギュールスの思考の内容は、第一部隊の士気を高めた。
しかしその本人が士気に水を差す。
「そのための仕掛けの作業が出来ません。相手にばれないように仕掛けるから効果があるんです。戦場を移動させようとしても、自分の動きがばれない場所は、おそらくない……」
「いや、そのアイデアだけで十分だ」
そう言うエノーラの表情は明るい。
「力はある。そう聞いていたのだが、それよりも先に知恵が回る。機転が利く。それだけでも十分心強い人材だ。だがその実力も遺憾なく発揮してほしい。我々第一部隊のみでその作戦で一体仕留めようではないか。もう一体を他の二部隊と巡回の第六部隊に任せよう。ちなみにギュールス。まだ我々と連携がうまく取れない。もう一体の討伐の手伝いに回れるか?」
ギュールスが頷くのをみて、エノーラは全員を見渡すように言う。
「よし、まず砂浜に奴らを静める。そして砂浜を熱に晒して伝導した熱でダメージを与える。生物ならばあとは視覚を奪って確実に仕留める。そういう手順の提案をする。できれば採用までされたいものだが」
第一部隊は討伐の意見をまとめあげた。あとは現場に到着する時間を待つばかりである。
深夜、通常勤務の者達は熟睡している時間帯。
駐留本部の中の、国軍兵達が滞留あるいは生活する居住区内に緊急出撃を通達するサイレンが鳴り響く。
ギュールスも自室で眠っていたがその音で目が覚める。
野宿だろうが布団の中だろうが、普段着のまま眠る習慣がある彼は、その音に目が覚めると布団から跳ね起きたる
いつものように防具を体にめり込ませる。
すると突然部屋のドアが開く。
「おいっ! 新人! ってもう出られるのか。団長室に急げ!」
顔を出したのはエノーラ。
告げられた集合場所に着くと、既に休暇中の第一部隊から第三部隊が揃っていた。
「あ……すいません。おく」
「よし! 全員揃ったな! 状況伝達する!」
誰もギュールスが最後に来たことを咎めない。
それどころではない。
事は一刻も早く終息させなければならないことはギュールスにも分かっていることだ。
「現在国外巡回中の第六部隊からの、魔族迎撃要請だ」
援軍要請ではない。
ということは、魔族とは開戦していない。
というと、のんびり事を構えている感じがするが、そうではない。
迎撃要請、つまり巡回中の部隊や周辺にいる軍事力では魔族を抑えられない。
現場でそう判断できるほど魔族に力があるということである。
しかも巡回地域からその存在を発見された。
住民達の命の危機でもある。
出撃が間に合わなかった場合はどうなるか。
答えは簡単である。
ギュールスのような思いをする者が増える。それだけである。
その、それだけのことは深刻な事態をもたらすことでもある。
早く駆け付けなければ。
そんな思いが強くなる。
しかしどこから要請が来たのか、どのように対処するのかが分からなければ動きようがない。
「ミニアムの西、海岸線から来る魔族だそうだ」
日中に聞いたばかりの話を思い出す。
レンドレスは魔族と深く関わりを持っている。
しかし今の巡回中の部隊からの報告では、レンドレス共和国が、オワサワール皇国と親密な関係にあるミニアム辺境国の東側にある国境線を越えたという話ではない
その逆、海岸線伝いに西に進んだ先。領土内の海岸から現れたという。
「自然発生した物か同かは不明。数は二体。視認した時点で判明した形状は魚類のようだ。魔族のランクを三級と判断した」
「三級?」
初めて聞く魔族のランク付けに、ギュールスは解釈が出来ない。
「傭兵達に任せられる相手の魔族は五級以下。今はそれで我慢して」
小声でささやく隣のエリンからの説明に、ギュールスは黙って頷いた。
「落ち着けば第六部隊だけで対処できるだろうが、夜間と遠目での判断、そして周囲に魔族はほかになしと判断。住民達と距離が離れている現場で、確実に殲滅する方針に従っての緊急要請ということだ。慌てる必要はない。無駄のない行動で準備を整えて竜車場に向かえ。部隊ごとに全員揃った時点で第六部隊待機地点に移動するように。以上!」
「ギュールス、準備が整ったら第一部隊の会議室に集合。分かった?」
ティルから続けてその後の行動の説明を受け、軽く頷く。
全員が順番に団長室からそれぞれの思う所に急ぐ。
出撃のために身に付ける物、所持する物はそれぞれ保管場所が違う。
自室に常備している者もいれば、倉庫で保管している者もいる。
ギュールスは自室にすべて置いている。
すべて一つの袋に収めているので手間取ることは全くなく、今度は集合場所に一番乗りを果たす。
間もなくして全員が揃う。
ロワーナは第一部隊隊長だが、その前に近衛兵師団の団長である。
三つの部隊を指揮する必要があるため、第一部隊にだけ気を配るわけにもいかない。
エノーラが副団長と呼ばれる所以はそこにある。
「でもそれって副隊長って言いませんか?」
「言葉の響きが、副団長の方がいいんだって」
私情を挟んでいた。
「全員忘れ物はないな? 竜車場から現場に移動するぞ」
エノーラからの号令で全員が素早く移動。
館内の廊下をあちこち曲がったり階段を降りたりする手間はかけられない。
非常口から一気に外に出て竜車場へ急ぐ。
そこにはすでにロワーナがいた。
「第一部隊全員揃い、これから現場に向かいます!」
「第六部隊と合流後、出動した部隊が揃うまでその場で待機! 魔族の情報をその場から得られるだけ入手すること!」
「了解!」
第一部隊は指示を受け、竜車場で待機していた移送部隊の飛竜に乗り込んだ。
非常事態の緊急出動。
傭兵時代のギュールスは体験したことのない状況である。
「今回はどんな作戦になるんだろ?」
そういうことで感じた不安からではないだろうが、ギュールスはつい弱気のような言葉を出す。
「こんな出撃の仕方は、傭兵時代には無かったろう?」
エノーラがギュールスの思いを見透かすようなことを言う。
傭兵も、夜間の討伐参加に登録することは出来るが、突然の出動要請はまったくない。
しかし不安に思うところは、第一部隊の全員が予想していることとは違っていた。
「……魔族の存在を先に察知してから、そいつらの移動先の予想を確定させて、そこから俺の考えた作戦を実行するんです」
「一昨日の初出撃の時みたいなことだよね? 戦場になるところに仕掛けして」
アイミの言葉に頷いて、ギュールスは話を続けた。
「はい。ですが今回は既に現場に先に到着してる形だから、戦場に前もって仕掛けを用意することは出来ない」
「すると……どうするのかな? なにも打つ手はありませんでは、近衛兵どころか傭兵部隊だってあまり存在の価値はないぞ? まぁそれにランクを考えると傭兵部隊はお呼びではない。だからこそ国軍だけで殲滅しなければならないところだ」
「……先回りされたことなら、それなら数多く体験してます。傭兵時代の俺なら喜んで捨て石覚悟で」
「却下。お前も仲間だ。我々は見捨てる気はない」
期待は意外と足枷になる。
傭兵時代の思考から切り替える必要はある。
そしてその現場。
砂地での討伐も経験はあるものの、海は見ること自体初めてとなる。
「……理想は、魔族が移動しないこと。そして襲撃の能力を発揮させないこと」
見方を変えたギュールスの理論には、全員が興味深く耳を傾ける。
「飛行能力がなければ、砂地は有効に活用できる。海の魚の能力は分かりませんが、川魚と似たものであるならば、砂地に埋めてから事に当たるというのは有効かと」
エノーラは、ほう、と言いながら感心する。
弱気な発言はするが、それでも前向きな検討は止まらない。
「砂地での戦いは、いつも気温が高かった。日に焼けてたせいか、砂地の熱に手を焼いた。今はそんな状態ではないから気にする必要はないけど、魔族の性質に飛んだり跳ねたりするという力がなければそれを再現したい」
戦いづらい環境を準備したい。
つまりはそういうことである。
そんなギュールスの望みに全員が頭をかしげる。
「肉体を持つ魔族なら、極端な温度に弱いはず。その温度に包まれたら、出撃の目的は果たすことが出来るはず」
「うん。それは悪くない」
「しかし」
ギュールスの思考の内容は、第一部隊の士気を高めた。
しかしその本人が士気に水を差す。
「そのための仕掛けの作業が出来ません。相手にばれないように仕掛けるから効果があるんです。戦場を移動させようとしても、自分の動きがばれない場所は、おそらくない……」
「いや、そのアイデアだけで十分だ」
そう言うエノーラの表情は明るい。
「力はある。そう聞いていたのだが、それよりも先に知恵が回る。機転が利く。それだけでも十分心強い人材だ。だがその実力も遺憾なく発揮してほしい。我々第一部隊のみでその作戦で一体仕留めようではないか。もう一体を他の二部隊と巡回の第六部隊に任せよう。ちなみにギュールス。まだ我々と連携がうまく取れない。もう一体の討伐の手伝いに回れるか?」
ギュールスが頷くのをみて、エノーラは全員を見渡すように言う。
「よし、まず砂浜に奴らを静める。そして砂浜を熱に晒して伝導した熱でダメージを与える。生物ならばあとは視覚を奪って確実に仕留める。そういう手順の提案をする。できれば採用までされたいものだが」
第一部隊は討伐の意見をまとめあげた。あとは現場に到着する時間を待つばかりである。
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