22 / 122
近衛兵ギュールス=ボールド
兵たちに広がる動揺
しおりを挟む
「……さて、みんなも食事は大概終わったか? ナルア、彼の様子を見に行ってくれないか? 食事が終わっていたら彼に付き添ってやってくれ。食料の調達をしたいんだそうだ」
料理長に任せるの方が早いのでは?
そんな質問が部下から飛んでくるが、自分の臨戦態勢を万全にするために必要なこととしているギュールスからの訴えを、その処遇と引き換えのような形で受け入れたロワーナはそのことを全員に説明した。
ナルアは命じられた通りギュールスの様子を見に行く。
待機室のドアをノックして中に入ると、ギュールスはやはり床の上にいた。
だがナルアが見た彼の姿は仰向け。
「ど、どうした。な、何か体の具合が悪いのか? ……昼食にも手を付けていないではないか」
仰向けのままナルアの方を見たギュールス。
「え? これ、あの人のじゃないんですか?」
ギュールスはどうやら団長のロワーナのことを言っているらしい。
「団長は我々と一緒に食事をしたぞ。これは貴様の物だ」
ナルアの返事を聞いてギュールスはしばらく沈黙。
彼が何も言わないので、ナルアも特に何も言わない。
「……俺の物、とは言われませんでしたので、手を付けられませんでした」
「何から何まで指示されないと何もできないのか? 貴様は」
ナルアは呆れかえる。
これまでの報告は第一近衛兵隊も耳にしている。ナルアも当然ギュールスのことを聞いているが、まさかここまで普通の人の感覚からずれているとは思わなかった。
「食べ始めるところで後頭部から蹴りつけられたら、掃除も何もできませんから。雑巾とかここには見当たらないし」
「……普段からそんなことされてたのか? 貴様……」
「それが普通ですが? だからこれは俺のじゃないと……」
「じゃあここで待っててやるから、急いで食え」
「どうやって?」
「どうやってって、お前……」
「右手で食べるんですか? それとも左手? 背くとその手の骨折られかねませんから」
ギュールスの話にはナルアもドン引きである。
普通の食事も許されなかったという。
理由はもちろん『混族』だからなのだろう。
「何も手出しは……」
ナルアはそこまで言いかけて止める。
そのことも恐らく何度も言われ続けてきたのだろう。
「ならお前はどうやって食事をするんだ?」
「手掴みですね。しかもこんな立派な料理じゃないです。これからの予定は食料採集ですからそのついでです。そこで昼飯にしますよ」
ナルアはギュールスの言っている意味が理解できなかった。
しかしこのままでは埒が明かない。
食事係を呼び出し、事の次第を説明したナルアはその料理をそのまま戻すように命じた。
そしてギュールスの食糧調達に付き添う。
本部の建物を出てそのまま街に出かけるのかと思いきや、本部の中庭の案内をギュールスに頼まれる。
「あぁ、思った通りたくさんありますね。有り難いです」
中庭についたギュールスが、そこを一望して最初の一言がそれだった。
ナルアには何のことか分からない。
「お、おい、草むしりでもするつもりか?」
ギュールスはその場でしゃがみ、生えている草を摘み始める。
「味はどうでもいいんですがね。栄養はあるっぽいんですよ、この種類。あぁ、心配無用です。お勧めしませんから。俺の食料が減ってしまいますんで」
「だ、誰が食うか! って言うか、その草、食べられるのか?」
しばらく考え込むギュールス。
「……死にはしないので食べられるかと」
「遠慮しとこうか」
ギュールスの草摘みが終わるまでの三十分ほど、ナルアはなるべく近づかずただ見ているだけにした。
料理長に任せるの方が早いのでは?
そんな質問が部下から飛んでくるが、自分の臨戦態勢を万全にするために必要なこととしているギュールスからの訴えを、その処遇と引き換えのような形で受け入れたロワーナはそのことを全員に説明した。
ナルアは命じられた通りギュールスの様子を見に行く。
待機室のドアをノックして中に入ると、ギュールスはやはり床の上にいた。
だがナルアが見た彼の姿は仰向け。
「ど、どうした。な、何か体の具合が悪いのか? ……昼食にも手を付けていないではないか」
仰向けのままナルアの方を見たギュールス。
「え? これ、あの人のじゃないんですか?」
ギュールスはどうやら団長のロワーナのことを言っているらしい。
「団長は我々と一緒に食事をしたぞ。これは貴様の物だ」
ナルアの返事を聞いてギュールスはしばらく沈黙。
彼が何も言わないので、ナルアも特に何も言わない。
「……俺の物、とは言われませんでしたので、手を付けられませんでした」
「何から何まで指示されないと何もできないのか? 貴様は」
ナルアは呆れかえる。
これまでの報告は第一近衛兵隊も耳にしている。ナルアも当然ギュールスのことを聞いているが、まさかここまで普通の人の感覚からずれているとは思わなかった。
「食べ始めるところで後頭部から蹴りつけられたら、掃除も何もできませんから。雑巾とかここには見当たらないし」
「……普段からそんなことされてたのか? 貴様……」
「それが普通ですが? だからこれは俺のじゃないと……」
「じゃあここで待っててやるから、急いで食え」
「どうやって?」
「どうやってって、お前……」
「右手で食べるんですか? それとも左手? 背くとその手の骨折られかねませんから」
ギュールスの話にはナルアもドン引きである。
普通の食事も許されなかったという。
理由はもちろん『混族』だからなのだろう。
「何も手出しは……」
ナルアはそこまで言いかけて止める。
そのことも恐らく何度も言われ続けてきたのだろう。
「ならお前はどうやって食事をするんだ?」
「手掴みですね。しかもこんな立派な料理じゃないです。これからの予定は食料採集ですからそのついでです。そこで昼飯にしますよ」
ナルアはギュールスの言っている意味が理解できなかった。
しかしこのままでは埒が明かない。
食事係を呼び出し、事の次第を説明したナルアはその料理をそのまま戻すように命じた。
そしてギュールスの食糧調達に付き添う。
本部の建物を出てそのまま街に出かけるのかと思いきや、本部の中庭の案内をギュールスに頼まれる。
「あぁ、思った通りたくさんありますね。有り難いです」
中庭についたギュールスが、そこを一望して最初の一言がそれだった。
ナルアには何のことか分からない。
「お、おい、草むしりでもするつもりか?」
ギュールスはその場でしゃがみ、生えている草を摘み始める。
「味はどうでもいいんですがね。栄養はあるっぽいんですよ、この種類。あぁ、心配無用です。お勧めしませんから。俺の食料が減ってしまいますんで」
「だ、誰が食うか! って言うか、その草、食べられるのか?」
しばらく考え込むギュールス。
「……死にはしないので食べられるかと」
「遠慮しとこうか」
ギュールスの草摘みが終わるまでの三十分ほど、ナルアはなるべく近づかずただ見ているだけにした。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
人と希望を伝えて転生したのに竜人という最強種族だったんですが?〜世界はもう救われてるので美少女たちとのんびり旅をします〜
犬型大
ファンタジー
神様にいっぱい希望を出したら意思疎通のズレから竜人になりました。
異世界を救ってほしい。
そんな神様からのお願いは異世界に行った時点でクリア⁉
異世界を救ったお礼に好きなように転生させてくれるっていうからお酒を飲みながらいろいろ希望を出した。
転生しても人がいい……そんな希望を出したのに生まれてみたら頭に角がありますけど?
人がいいって言ったのに。
竜人族?
竜人族も人だって確かにそうだけど人間以外に人と言われている種族がいるなんて聞いてないよ!
それ以外はおおよそ希望通りだけど……
転生する世界の神様には旅をしてくれって言われるし。
まあ自由に世界を見て回ることは夢だったからそうしますか。
もう世界は救ったからあとはのんびり第二の人生を生きます。
竜人に転生したリュードが行く、のんびり異世界記ここに始まれり。
まもののおいしゃさん
陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
まもののおいしゃさん〜役立たずと追い出されたオッサン冒険者、豊富な魔物の知識を活かし世界で唯一の魔物専門医として娘とのんびりスローライフを楽しんでいるのでもう放っておいてくれませんか〜
長年Sランクパーティー獣の檻に所属していたテイマーのアスガルドは、より深いダンジョンに潜るのに、足手まといと切り捨てられる。
失意の中故郷に戻ると、娘と村の人たちが優しく出迎えてくれたが、村は魔物の被害に苦しんでいた。
貧乏な村には、ギルドに魔物討伐を依頼する金もない。
──って、いやいや、それ、討伐しなくとも、何とかなるぞ?
魔物と人の共存方法の提案、6次産業の商品を次々と開発し、貧乏だった村は潤っていく。
噂を聞きつけた他の地域からも、どんどん声がかかり、民衆は「魔物を守れ!討伐よりも共存を!」と言い出した。
魔物を狩れなくなった冒険者たちは次々と廃業を余儀なくされ、ついには王宮から声がかかる。
いやいや、娘とのんびり暮らせれば充分なんで、もう放っておいてくれませんか?
※魔物は有名なものより、オリジナルなことが多いです。
一切バトルしませんが、そういうのが
お好きな方に読んでいただけると
嬉しいです。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
死を約束されたデスゲームの悪役令嬢に転生したので、登場人物を皆殺しにして生き残りを目指すことにした ~なのにヒロインがグイグイと迫ってきて~
アトハ
ファンタジー
私(ティアナ)は、6人で互いに勝利条件の達成を目指して争う『デスゲーム』の悪役令嬢に転生してしまう。勝利条件は【自分以外の全プレイヤーの死亡】という、他の参加者とは決して相容れないものだった。
「生き残るためには、登場人物を皆殺しにするしかない」
私はそう決意する。幸いにしてここは、私が前世で遊んだゲームの世界だ。前世の知識を使って有利に立ち回れる上に、ゲームでラスボスとして君臨していたため、圧倒的な戦闘力を誇っている。
こうして決意を固めたものの――
「ティアナちゃん! 助けてくれてありがとう」
ひょんな偶然から、私は殺されかけているヒロインを助けることになる。ヒロインは私のことをすっかり信じきってしまい、グイグイと距離を縮めようとする。
(せいぜい利用させてもらいましょう。こんな能天気な女、いつでも殺せるわ)
そんな判断のもと、私はヒロインと共に行動することに。共に過ごすうちに「登場人物を皆殺しにする」という決意と裏腹に、私はヒロインを大切に思う自らの気持ちに気が付いてしまう。
自らが生き残るためには、ヒロインも殺さねばならない。葛藤する私は、やがて1つの答えにたどり着く。
※ ほかサイトにも投稿中です
異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~
蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。
中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。
役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。
転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。
黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる
異世界でゆるゆる生活を満喫す
葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。
もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。
家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。
ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる