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彼女の二七日も、意外と賑やかに

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 二七日も、初七日ほどじゃないが同期の人達が集まっていた。
 だが、二週連続で見た顔は二、三人。
 平日だから、来たくても来れない人が多いんだろう。
 今週も、美香の母親に出迎えてもらい、そして祭壇の前には不機嫌そうな顔の美香がいる。
 それでも、初七日よりは幾分か機嫌がいい。
 お勤めが終わり、またもお茶の時間。

「にしても、まさか磯田と話をする間柄になるなんて思わなかったな」
「家が寺ってのは知ってたけどさ。美香んちも檀家とは思わなかったわよね」
「毎年、盆の時には来てたんだって? 美香の家ってのは知ってたのか? え? 知らなかった?」
「盆休みの時は、やっぱちょっと遠出したくなるからね」

 亡くなった日から二週間。
 日にちが経てば、時間が過ぎていけば、大事な人を失った悲しみも次第に癒されていく。
 いわゆる、立ち直っていくってことだ。
 いつまでも気落ちしてもらいたくはないが……。

(昭司君、人気者だねぇ)
(んなわきゃあるか。話題が、滅多に会えない人に関心があるってのに変わっただけだ)

 先週と同じく、俺の真横にいて顔を近づけている。
 が、疑問が一つ。

(えっと、美香さん?)
(なぁに? 昭司君)

 名前を呼び合う時のニュアンスが、なんかこう……。
 妙に親しげに思える。

(みんな、俺のことを苗字で言うんだ)
(うん、それで?)
(何で美香さんは、俺のことを名前で呼ぶんだ?)
(え? えーと……何でだろ? でも昭司君もあたしのこと、名前で呼ぶじゃない)
(当たり前だろ?)
(何で当たり前なのよ)
(三島さんって呼んでもいいけどさ、お前のお母さんも三島さんだぞ?)

 どう区別つけろと言うのか。

(あ……それもそうか)

 で、俺を名前で呼ぶ理由はいずこ?

(んー……じゃああたしも磯田君って呼ぼうか。でもお父さんも磯田さんよね)
(いや……お前……。そこは住職って言えよ)
(それはそうと昭司君)
(……天然かわざとなのか……)
(わざとだよ。名前の方が呼びやすい気がする)

 あーそうですか、はいはい。

「あ、あの、来週の事なんですが」

 おっと。
 美香との会話ばかりに夢中になるわけにはいかん。

「あ、はい。三七日ですね?」
「はい。仏送りの法要をお願いしたいと思います。埋骨もして、その後でお食事の用意も考えてるんですが……」
「あ、お気遣いありがとうございます。すると、お昼に近い時間の方がいいですね」
「よろしくお願いします。それと、三七日が終わった後の事なんですが」
「四七日ってことですよね」
「いえ、その前に、月命日が来るので、そのお勤めもお願いしようかと思ってます」

 あ、それがあるか。
 でも……あれ?

「いや、四七日は二十八日後ですから、その後ですね」
「あ、そうだったかしら? なんかいろいろバタバタしちゃって……」

 無理もない。
 同期の連中がこうしてことあるごとに集まってくれる。
 が、家の中のあれこれの手伝いをするまでには至らないだろう。
 ましてや一人暮らしだからな。

「なら、こちらもそのように予定に入れておきます。その日が近くなったら、改めて時間も一緒に確認することにしましょう。急に予定変更しても対応できるようにしときますね」
「ありがとうございます。みんなも来てくれてありがとうね」
「いえ。あいつには世話になったし、な、みんな」
「勉強もいろいろ手伝ってもらったしねぇ」

 耳が痛い、痛いっ。

「だからこっちでも、お別れ会みたいなの企画してるんですよ」
「あら、そうなの?」
「おばさんにも来てほしいんだけど……こっちにも顔を出すのって、大変そうよね」
「そうねぇ。せっかくそんな気を遣ってもらっちゃってアレだけど、遠慮させてもらうわね」
「いえいえ。じゃあ、もし次の機会があったらその時にでも」
「そうね、その時には甘えさせてもらおうかしら」

 とりあえず、来週、再来週とここにお邪魔する予定。そしてそれから三日後か? 月命日にもお邪魔するってことだな。

(だそうだ)
(何が?)
(四十九日まで毎週来る。その間に月命日がある。その時にも来る)
(じゃあその時は、七日も待たなくていいってことよね)
(そういうことだな)
(楽しみにしてるー)

 ここに留まること決定なのかよ。

(でも来週、埋骨するらしいぞ?)
(埋骨……って……)

 知らないのか?
 読んで字のごとくだが。

(祭壇にお前の骨、あるだろ?)
(あ、あの箱の中身? そういえば、骨を拾って袋に入れて、その袋をあの箱の中に入れてたわね)
(その袋をお墓の中に納めるんだ。お墓がどこにあるかくらいは分かるだろ?)
(昭司君とこの寺の境内よね。毎年お盆と彼岸にはお参りしてる)
(うん。お勤めが終わった後、お骨をお墓に納めて、納骨のお勤めを墓の前でするんだ)
(……すると、あたし、どうなっちゃうの?)
(知らない。少なくとも火葬の時と同じように、肉体や骨と同じ扱いを受けることはないんじゃないかな?)
(そんな適当な……。お勤めしたんなら、その責任取ってよ!)

 責任取れって、何の責任だよ!

(不純異性交遊して、失敗して赤ちゃんができた、みたいなこと言うな!)
(昭司君……ひどいっ! 遊びだったのねっ!)
(いえ、お勤めは遊びじゃなく仕事なんですが)

 つか、おふざけも大概にしてくれ。

(……でも、あたし、ホントにどうなっちゃうのかな……)
(いや……俺も分からん。だって、幽霊見たの初めてだし……)
(ひょっとしてあたし、成仏とかってのができてないの?)

 ……お念仏唱えると、即得往生ってのが定義なんだがなぁ。

(お葬式した後もこうしてここにいるのって……昭司君の仕事の信頼性が疑われるんじゃない?)
(葬儀の導師は俺じゃないもんっ)
(じゃあ昭司君のお寺の仕事が怪しいってことになるわよね)

 ちょっと待てっ!
 俺は真面目に読経してたはずだ!
 変なこと、言いふらされても困るんだが?!

(……いろいろと勘弁してほしいんだが。というか、ほんと勘弁してください)
(んじゃ、もっと短いペースであたしに会いに来て、話し相手になりなさい)
(それもそれで、いろいろ問題が起きる気がするんだが)
(……ふふ)

 何だよ、急に笑って。
 ……笑った顔も……何となく綺麗に見えるが……。

(何だよ)
(んー……高校時代はあまり会話しなかったのに、何かいきなり会話の回数が多くなったなぁって)
(あーはいはい。他に会話する相手がいないからだろ。あいつらがお前の姿が見えて、話も聞こえてりゃ、俺よりもあいつらと会話してただろ)

 接点がない奴よりも、接点どころか思い出がたくさんある奴との会話の方が盛り上がるに決まってる。

(でも、こんな風に会話してくれるって分かってたら、高校時代、もう少し交流があってもおかしくなかったはずなのにね)

 止めてくれ。
 俺の黒歴史に触れてくれるな。
 つか……学生生活自体、あまりいい思い出はなかったからな。

(あ、でも、昭司君を名前で呼ぶ理由が分かったよ)
(ほう?)
(みんなのことは、名前で呼ぶ人もいるけど、渾名で呼んでるつもりだから。昭司君は渾名じゃなくて名前で呼んでるつもりだから)

 なるほど。
 納得だが、そんな大した理由じゃなかったな。

(すごくどうでもいい理由だったな。ま、でもまぁ腑に落ちた理由を聞かせてもらえたから、そろそろ帰るかな)
(……ねぇ)
(ん?)
(埋骨が済んだら……あたし、どうなるのかな)
(まだ残ってて今と変わらないなら話し相手になってもいい。そうでなければ……)
(そうでなければ?)

 不安そうな顔になってるが、そんなに心配するなよ。

(話し相手がもっとたくさんいる、仏様もいる極楽浄土にいるんじゃないかな?)
(え? えぇっと……)
(お前、お父さんを先に亡くしてるだろ)
(あ……うん……)
(お父さんに存分に甘えられるってこと。どっちにせよ、お前が不安になる必要はなかろ?)
(それも……そうね……)

 なんか、元気がないな。
 ……元気が有り余ってる幽霊って……想像しにくいんだが。
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