ekleipsis

f78vh

文字の大きさ
上 下
2 / 9
一章

02 Vside

しおりを挟む
Vside

――ペルセフォネ国グシオン村から東へ歩き、二日かけて登ったハデス山の頂上。
そこにぽつんと佇む今にも崩れそうなボロ小屋。
ここに住んでいるであろう住人を訪ねてやってきたが、
来た事をもう何度目か分からない後悔が襲う。

魔法が使えるのが当たり前のこの国において
このハデス山は普段の魔力の半分も出せない上、魔法威力も半分以下になる。
磁場が狂っているやら地下に魔力を無効化する何かがあるやら諸説あるが
理由ははっきりと分かっていない。
まあ簡単に言えば不気味な山だ。
それだけでもこの山に近寄りたがる者は居ないが
更に悪い事に人間の干渉が無い為動植物が繁殖し放題となり
ベア種やウルフ種等危険な動物がウヨウヨ居るという訳だ。

仕事じゃなかったら絶対来ないだろう場所である。
……仕事でも来たくなかったが。

そんな危険な山を弱体化した状態で登り、文字通り死ぬ思いで目的地に辿り着いたが
そこで待ち受けていたのは、見晴らしの良い景色でも、澄んだ空気でもなかった。
鬱蒼とした背の高い草を掻き分け、住人が整地したのであろう
小屋周辺の開けた場所まで辿り着き、ここ数日中で一番の後悔をした。

「……地獄か、ここは。」

小屋の周囲には何やら獣の毛皮や肉が何十枚も干され
動物の頭がそこらじゅうに転がっている。
小屋の隣にある畑では土の下で何かが蠢いており
そこから身の毛もよだつ様な不気味な声が聞こえるが、
畑を囲むように設置されたこれまた不気味な人形達によって動けないでいるようだった。

……俺の勘違いでなければ、畑は何かを封じる為の場所では無いはずだ。
まだ小屋の主人との対面も済んでいないが
血と獣の臭いとこの光景で気分も体調も最悪だ。早々に帰りたい。
更にとどめとばかりに小屋の扉には三つ首の鹿の頭が飾られていた。

「一体どんな野蛮人が住んでるんだ……。」

地獄の様な光景を生み出した根源、このボロ小屋に住んでいるであろう住人を思い
深く溜息をついた。

「はあ……。いつまでもこうしていても仕方ない……。
 さっさと済ませるか。」

そう一人ごち、気合いを入れドアノブに手をかけた瞬間
遠くからズン、と何かが倒れるような音がして
反射的にそちらの気配を探った。

気配を探る程度の簡単な探索魔法なら
この山で制限された魔力でも然程負担にならずに使える。
この二日、獣に出くわさない為に魔力を節約調整しながら何度も使用した魔法だ。

――ここから五百メートル程西に、生物が一体倒れているのが分かった。
かなりの大きさだ。三メートルはあるだろう。
何かの獣だとは思うが……まさか、この小屋の住人ではないだろうな。

身長が三メートルもある人間なんて未だかつて見た事もないが
こんな山奥のこんな野性的で不気味な小屋を住みかにしている奴だ、
どんなに人間離れした奴が出てきても驚きはしない。

残念ながら、ついでに探った小屋の中に人の気配は無かった。
やはり、あまり気は進まないが音のした方へ行ってみるか。

そう考え重い脚を踏み出した瞬間、あっという間にその生物の気配が消えた。
それと同時に生物がいた方向から、物凄い速さで茂みを掻き分ける音が
あたりに不気味に響き渡る。
気配は無い。ただ、『何か得体の知れないモノ』が此方へ向かって来ている。

そう判断し、踏み出した脚に重心をかけた。
そのまま地面へ叩きつける様に跳躍し、小屋の陰に身を潜める。
普段の半分以下とは言え、高レベル魔法を使えば
ある程度のダメージは与えられるはずだ。
息を詰め魔力を高めながら、訪れるであろう『何か』を待つ。
二呼吸、時間にして三十秒程の後、ザッ、と『何か』が茂みを抜けた。

「よし、半分はシチューで半分はステーキにしよう」

「…………はあ?」

聞こえてきたのはこの雰囲気のどこにも似合わない、
市場の帰りに献立を考える母親の様なのんびりした台詞だ。
あんまりにも間の抜けた台詞に、思わず呆れた声が出てしまうのも仕方ないだろう。
しかしその声は当然女性のものではない。
色気と甘さを多分に含み、少しかすれて響く低音。

その声の主は、小屋の陰で呆然としている俺を見つけ、こう言った。


「……どっ……ドロボー!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

生徒会会長と会計は王道から逃げたい

玲翔
BL
生徒会長 皇晴舞(すめらぎはるま) 生徒会会計 如月莉琉(きさらぎりる) 王道学園に入学した2人… 晴舞と莉琉は昔からの幼馴染、そして腐男子。 慣れ行きで生徒会に入ってしまったため、王道学園で必要な俺様とチャラ男を演じることにしたのだが… アンチ転校生がやってきて!? 風紀委員長×生徒会長 親衛隊隊長×生徒会会計 投稿ゆったり進めていきます!

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。 ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。 「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。 ◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC) ※「*」がついている回は性描写が含まれております。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

BlueRose

雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会 しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。 その直紘には色々なウワサがあり…? アンチ王道気味です。 加筆&修正しました。 話思いついたら追加します。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

処理中です...