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二章

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死んでない?……でも、俺は確かに……。

「驚くのも無理はありません。飛び降りた瞬間、陛下のいらした国と 
 この国とを繋ぐ大いなる力によって、陛下はこちらへ召喚されたのです。」

「大いなる力…?」

「はい。……と言ってもそれが何であるのかは誰にも分かりません。
 伝承にはこの国の危機に終わりの魔王が異界から召喚されるとだけしか
 記されていないのです。」

全くわからないが、とりあえず不思議な力で異世界にきてしまった……。
そういうことだろう。細かいことなんかどうでもいい。

「そういえば森で…えと、アネモス?さんから人間からこの国を
 救ってほしいと聞いたのですが、具体的には何をすれば?」

「はい……。申し訳ありません陛下。陛下と同じ種族の者たちと対立させてしまう
 結果になってしまった事、お詫びのしようもございません。」

「いえ、それは良いんですけど。」

アネモスにしろゲヴィタにしろ、いちいち回りくどい。
さっさと教えてくれないだろうか。

「陛下には、我らアクラシエル魔国に攻め入ってきている人間達から
 この国を守って頂きたいのです。
 まだ人間国との戦争には至っていませんが、やつらは我らの国に入り込み、
 女子供を攫い奴隷として売り払ったり魔族達の住む村や街を
 荒らしまわっているのです。」

全く野蛮なことだ。いっそ人間の国全部を焦土にしてしまえばいいんじゃないのか。

「……ですので、まずはこの国の領土全域に陛下の魔法で結界を張り、これ以上
 人間が入り込まないようにして頂く。その次に国内に潜入している人間達の
 掃討がさしあたっての急務となります。」

なるほど。じゃあさっさと全部片付けてしまおう。
……と、考えてから一つの懸念に思い当たる。

「ところで魔法ってどうやって使うんですか。」

そう言った瞬間、ゲヴィタが大きく目を見開いた。

「……ま、まさか陛下は魔法を使ったことが……。」

「無いです。というか、俺のいた世界では魔法なんてありませんでした。」

「……なんと……。信じられない…。」

絶句、といった感じで驚いてから暫く考え込み、何か思いついたのか
にっこりと笑って手をぽんと叩いた。

「…では陛下。まずは魔法の練習から始めねばなりませんね。」






笑顔のゲヴィタに連れてこられたのは城の一階。
大きな扉を開けると、テニスコート二つ分くらいの広さがある部屋だった。

「さあ、こちらへ。」

促されて室内へ。部屋の中には家具も窓も何もない。
魔法を練習すると言っていたが、ここで一体何をするんだろうか。

「では陛下。まずは御手を前に突き出して下さい。」

言われた通り右手を突き出す。

「では次に、掌に身体中のエネルギーを集めるイメージで力を込めて下さい。
 するとこのように……。」

言いながら、ゲヴィタの手のひらにバチバチと火花を散らす光の玉が現れた。
凄い。手品のようだ。

「さあ、陛下も。」

「はい…。」

今まで二十年以上生きてきてそんなのできた試しがないので
少し不安だが、やってみることにする。
手のひらにエネルギーを………って、いや、全然分からない。
エネルギーの集め方がまず分からない。

「…ゲヴィタ、エネルギーってどうやって集めるんですか?」

「……そうですね…。掌から力を放出するような感じと言いますか…。
 身体中の熱を集めるような感覚と言えばいいのか…。」

説明が難しいのか言い淀んでいる。
ふむ、手の平から放出する感じか…。かめはめ波みたいなものだろうか。
とりあえずかめはめ波をイメージしながら出ろ、出ろと
頭の中で念じてみた。

「っ……!」

ゲヴィタが目に見えないくらいの速さで横へ飛び跳ねた。当然だろう。
俺の手のひらから物凄いかめはめ波が出たからだ。
かめはめ波は地鳴りがするくらい大きな音を立てて、正面に立っていた
ゲヴィタのすぐ横をまっすぐ通り部屋の壁にぶつかった。
ガラガラと大きな音を立てて崩れる壁。
そこで威力が落ちるかと思った俺のかめはめ波は止まるところを知らず
壁を突き破って更に奥の部屋へ、更に奥の部屋へと一直線に風穴を開けていった。

「………陛下…………!」

「はひ、すみません。」

あまりのことに謝るしかない。なんだ今のは。今まであんなもの出た事ない。
なんで急に出たんだ。ぐるぐると頭を回るのは何故という言葉。
それに壁まであんなに壊してしまったし、もし弁償なんてことになったら
通帳もクレジットカードも屋上に放置してある鞄の中だ。
今の俺には一文も無い。

「…………っ素晴らしいです陛下!ほんの少し魔力を練っただけで…!
 私感動致しました!」

「…え?」

いっそ全てを破壊し尽くして証拠を隠滅しようかと思い始めた頃
ゲヴィタが涙目で俺の手を握ってぴょんぴょんと飛び跳ね出した。
存外力が強くて肩までガクガク揺れる。

「今のは魔力を光線に変えて打ち出すスカハという攻撃魔法です。
 威力が低い初級魔法であの威力……陛下は本当に素晴らしいお力の持ち主です!」

さっきのはかめはめ波じゃなくてスカハというらしい。
初級魔法と言っているが本当にそうなのか?明らかにラスボスが放つ
最後の大技みたいな威力だったんだが。

「…ありがとうございます。でも、俺今まで魔法なんて使えなかったのに…。」

「そうですね……。仮説ですが、陛下のいらした世界ではそもそも
 体内のエネルギーを魔法という形で体外に放出する際にそれを具現化するための
 元素や分子が無かったのかも知れません。ですので……」

「あっ、もう大丈夫です。」

難しい話になりそうだったので、すぐに切り上げさせてもらった。
とにかく不思議な力が突然使えるようになった。それで良いだろう。

「そうですか?…それでは陛下、明日から結界魔法の練習に入りましょう。
 これだけのお力があれば、すぐにでも結界を張って頂く事も可能でしょう!」

嬉しくてたまらないと言った様子のグヴィタ。
日本ではこんなに俺に期待してくれる人も、ルナノワのように一途に
俺を思ってくれる人もいなかったからとても嬉しい。
また涙が溢れそうになったので笑顔でごまかす。

「はい。よろしくお願いします。」

「…………っ陛下ぁ……!なんと麗しい微笑み……!私、恐悦至極でございます…!!」

グヴィタはその場に跪くというより崩れ落ちてしまった。
やっぱり魔族はリアクションがでかい。

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