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ご挨拶

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 私は固まっていた。


 だって、本当に本物がくるとか思わないじゃん。


*************************



 抽選結婚の結果を知らせるハガキが届いてから2日後に、相手の男性からメールが届いた。


 今月中に顔合わせをしませんか、という内容のメールだった。

 断る理由もなく、結婚しなきゃならないし、遅かれ早かれ顔を合わせることにはなるので、是非そうしましょう、と返信した。


 すると、来週の日曜の夜に私の住む街に来てくれるとの事だった。
 おばあちゃんにそのメールを見せると喜んで、家中どころか隣の家の草刈りまで始めた。昼食は、おばあちゃんと私が住む家で食べてもらって、夕食には街で一番高い寿司屋を予約した。おばあちゃんが。

 そのことを、メールすると「ご丁寧にありがとうございます。」と返信が来た。文面が丁寧で、結構いい人そうだと思い始めた。少しずつ安心し始めていた。


 1週間なんてあっという間なので、あっという間に日曜日になった。

 日曜日は、バイトのシフトが入っていたけど、おばあちゃんに休みなさいって言われて、店長とシフトを代わってもらった。



 おばあちゃんは、前日からウキウキで買い物に行ったり、料理の仕込みをしてた。

 私は、何をしていいか分からず、普通にバイトへ行った。

 バイト中もちょっとぼーっとしてしまって、事情を知っている同じく日勤でアルバイト勤務のおばちゃん達に冷やかされちゃった。


 そして、シフトが終わる時におばちゃん達が、花束をくれた。
一方の私は、もう不安しかなくって、「ありがとうございます、これからもバイト続けるのでよろしくお願いします。」としか言えなかった。
おばちゃんたちは、続けるの?寿退社じゃないの?って不思議そうだった。





 そして、ついにその日はやってきた。







 約束の10時が近づくにつれて胸がドキドキした。私は、居間でアナログの壁掛け時計を眺めながら、過ごした。一方のおばあちゃんはせかせかと忙しそうだった。


『ピーンポーン!!』

 私は、バタバタ慌てて玄関に走る。もちろんおばあちゃんも。

「どうぞ、入られてください。」
 私が声をかけると玄関の引き戸が、ガラガラ
 うるさい音を立てながら開いた。

 そして、紺色のスーツ姿の背の高い男性が立っていた。


 あれ?どこかで見たことある…。


「さ、どうぞどうぞ、お上がりくださいな。」
 おばあちゃんは、何も気づかずに家の中に通そうとする。

 いやいや、ちょっと待ってくれ。
 この人、元アイリッシュの柏木 和馬かしわぎ かずまじゃない!?

 アイリッシュは、15年くらい前に全盛期だった若い男性アイドルグループだ。
 今は、解散しちゃったけど。


 昔から田舎で流行りに乗らず、コソコソ暮らしていた私でも知ってる、柏木和馬。超有名人。
 今は確か、海外を拠点に俳優や音楽活動をしているはず…。
 もちろん、時々日本のテレビでも見る。


 そう、なんとなくどこかで見たくらいに思っていた、「柏木和馬」と言う名前。元アイドルの名前だったんだ。
 確信に変わった瞬間、心臓が変にドキドキし始めた。イケメンを目の前にして息が苦しい。


 あまりの動揺で手が震える。
 私は何も言えず固まっていた。

「初めまして。柏木和馬と申します。」
 こちらを見て丁寧に挨拶してくれるが、「こちらこそよろしくお願いします。」としか言えなかった。



 180センチくらいのいい感じに鍛えられた体格、白い肌、ぱっちり二重にツンと高い鼻、ゆるいウェーブの黒髪。

 イケメンすぎて、ダサいワンピースを着ている私が恥ずかしくなった…。

 え、これからこの人と一緒になるの!?


 私、大丈夫かな?



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