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本野汐梨 Honno Siori

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先生に受験戦争は関係ない

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 僕は、志望していた私立大学をAO入試で受けることになった。
 地元だし、実家から通えるし。
 あと、実は先生の住んでいる家の近くでもある。

 自分の進みたい学部に関する事で、特に興味があることを調べてまとめて発表する。僕は、悩んだけど農学部に進学する予定だ。


 さほど難しく無い内容だったが、人前で話すなんてあんまり経験がないから、僕は一生懸命練習することにした。

 もちろん、先生に練習を見てもらう。

 2人で生物室に引き篭もって練習する。

 発表用のメモ用紙をできるだけ見ないようにして、喋る。


「先生、どう?」

「君の割にはハキハキしていい感じ。」

 これは褒められたのか?《君の割には》という苦言に引っかかる。

「先生、本当に褒めてる…?」

「褒めてるって。」

(本当はあんまり褒めてないな、、)


 先生は、物事を良くも悪くもはっきり言ってしまうタイプだ。
 僕の割には良いというのは、本当なのだろう。つまり、一般的に見れば悪いってことだ。


 自分でも正直悪いのはわかっている。
 せめて、人前で喋る時にモゴモゴする癖をなんとかしなきゃ。

「先生、どうすればいい…?」

 実はもう、試験まで時間がない。
 ここは、この世で1番、僕にハッキリと物事を言ってくれる上に信頼できる上に大好きな先生に教えを乞うしかない。


「どうってね…。」

 先生は、肘を机について手のひらに自らの顎を乗せた。
 考えているポーズ。


「うん、どうすればいい?もう、時間ないし。正直、僕の学力じゃあ一般入試では入れないし。」

「別の大学にすれば?君なら県内でも文系の私立で入れるところあるじゃない。もう、そっちにしちゃいなよ。大変でしょ?こんなことするの。」

 あ、出た。先生の悪いところ。
 僕、ちょっと傷ついちゃった。

「そんな…。身も蓋もないじゃないですかぁ…。」

 実は、先生は生徒の学歴に興味がない。
 これは、僕も例外ではない。

 先生は、教えるのが楽しいから教師になったらしい。だから、自分から教える側であればそれでいい。
 教師をクビにならなければ、それでいいのだ。


「先生。そんなこと言ってたら出世できないですよ!僕を農学部に入れてくださいな!」

「君だって他力本願すぎるよ。もっと努力しなよ~」

「だって~」

 僕はもう何をどうすればわからないのだ。
 先生を甘えた目で見つめてみる。
 先生は、僕に興味がなさそう。
 考えてはいるみたいだけど。

 沈黙が続く。

「とりあえず、練習しますね。だから、付き合ってください。」

 どうしようもないみたいだから、僕は練習の続きを始めようとした。

 すると…


「あ、一つあるよ。」

「え!なになに!なんかあるんですか?」

「メンタルだね。」

「メンタル?」

「そう、合格できるって信じたり、念じたり、思うこと。絶対できるって。まぁ、ポジティブ?前向き?に考えたらいいのよ。」

「はぁ。そうですか。」

 何を言ってくれるかと思ったら、そんな適当なアドバイスだったなんて。
 ちょっとがっかり。というか、呆れ。

「あ、バカにしたね。」

 僕の残念そうな顔を見て、先生はちょっと怒った様な顔をして見せた。

「本当に、メンタルって大事だから。信じてみなよ。」

「まぁ、わかりました。」

 先生が言うなら仕方がない。

 僕は、「できる、できる」って念じてみることにした。
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