隠し事にしようよ

本野汐梨 Honno Siori

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帰宅3【有希】

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 頭がボーッとする。
 タクシーの振動が気持ち悪い。

 心臓がバクバクしているのがわかる。

 僕は、天涯孤独ってやつになったのか?
 脳内でこれからの事を考えなければならないと思うけど、何も思い浮かばない。

 蓮也先輩も何も言わない。
 ただ、暗い表情をしている。
 もちろん、僕も何も言葉が出てこない。

 僕は、ポケットの中に手を入れて、女に渡された紙を触る。

 父親が死んだ事よりも、あの女に何をされるのか…。僕はそっちの方が心配だった。父親が死んだのに自分の保身を考えるとは、なんて薄情なやつだろう、と自己嫌悪する。

 タクシーだとあっという間に蓮也先輩の家に着いた。
 無言のまま2人でタクシーを降りて、部屋に入った。

 蓮也先輩の部屋に入って気づいた。
 僕、タバコ臭い。

「有希くん、大丈夫?」

 何が大丈夫なのだろうか、とは聞けなかった。


「大丈夫です。意外とダメージ無いです。元々、あんまり好きじゃ無かったから。」


 強かっているわけじゃ無い。本心だ。


「えっと…。とりあえず、なんか食べる?もう夕方だし。お腹空かない?お昼ご飯も食べてないでしょ。」

 確かに、アルバイトが終わってそのまま蓮也先輩と家に帰ったから、お昼ご飯を食べていない。


「食べたいです。」

 そういうと、蓮也先輩は笑顔になってくれた。僕もつられて笑顔になる。


「何食べたいかな?」


「甘いもの、食べたい。」

「そっか、コンビニ行こうか。」

 僕は頷く。

 すぐにコンビニに行って、たくさんコンビニスイーツを買ってもらった。

 いつものローテーブルにたくさんの甘いものを並べて夢中で食べた。


「しんどい時は甘いものが1番だよね。」

「そうなんですか?なんか無性に食べたくなりました。」

「あのね、辛かったら泣いてもいいし、これからは俺と住めばいいと思う…。」

 真面目な事をさらりと言ってもらえて、気が楽になった。そうか、これからは蓮也先輩と一緒に暮らせばいいのか。

「一緒にいてください。」

 そうは言いつつ、ポケットの中の紙を思い出した。

 何も知らない蓮也先輩は、嬉しそうに僕を抱きしめた。
 僕よりも暖かい体温が伝わってくる。
 服越しに触れた背中の筋肉に安心する。
 この人なら、僕を守ってくれる気がした。

 あの女曰く、父親は借金があるって言ってた。しかも、タチが悪そうな人に。

 その借金を返すとなると、僕はろくな目に遭わないかもしれない。

 それでも、今は大好きな人に甘えていたい。
 何も考えずに。

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