隠し事にしようよ

本野汐梨 Honno Siori

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帰宅2【蓮也】

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(遅い。もう何分経った?)

 有希くんが家に戻るのに、俺はいつも付いていく。もし、父親が帰っていたりしたらと思うと、心配だからだ。

 時計を見ていなかったから何分だったのかわからない。
 でも確実に10分は経った、と思う。

 いつもは、部屋をのぞくだけで終わりだから1分も経たないで戻ってくるのに。

 此処からだとちょうど有希くんの様子が見えない。部屋のドアも閉まっているから音もしない。


(見に行ってみるか…。)


 そう思った時、有希くんの部屋から誰か出てきた。


 年不相応のミニスカに乱れたロングヘアー、背が高い。顔は整っているが汚い化粧でめちゃくちゃ。俺を威嚇する様にピンヒールをカツカツ鳴らして歩く、女。

(誰だ??)


 俺が女を見ていたからかもしれないが、女も俺の方を睨んでいた。


 何か話しかけようと思ったが、何も言えなかった。

 それより、有希くんが心配だ。

 有希くんが居るはずの部屋のドアを開ける。

「有希くん!」

 狭い2DKの散らかったアパート。
 真夏に換気をしていないから、嫌な匂いが立ち込めている。
 タバコと酒、人間の匂い。

 汚れた畳の部屋でチョコンと座る有希くんの姿が見えた。
 声を掛けたのに反応がない。


「有希くん?」

 靴を脱いで有希くんの元に駆け寄る。

「有希くん、大丈夫?どうした?」

 虚な目のまま俺を見上げる。

「女の人出てきたけど。」

「…あれは、父親の彼女です。多分1番長い人。」


 そうか。外に女が居ると聞いた事あったな。

「あの女だけ此処にいたの?なんか言われた?」

「えっと…。父親が死んだって…。」

 その一言で脳内がハテナで埋め尽くされた。


「ん?どういう事?」

「心不全で死んだんだって。」

「えっと…。それで…?」

 有希くんも何もわかってないだろうに。

 俺は何を聞けばいいのかも分からず、オドオドしてしまう。

「多分、これ。」

 有希くんが目の前の白い容器を指差す。

「これ?」

 俺は知っていた。親戚が亡くなったことがあったから。

 これ、骨壷だ。


「これが、有希くんのお父さんってこと?」


「そう。」


 いつも以上に気力のなさそうな声で有希くんが答えた。

「これから、僕、どうするんだろう?何すればいい?僕の人生、もう、終わり?」

 掠れた声で話す有希くんの言葉が重い。
 普通、そんな事あるか?

 いやいや、有希くんが置かれている状況はこれまでも普通ではなかった。
 酒とタバコと女に溺れて、実の息子にも手を出すような人間。
 相当、不摂生だっただろうし、病気を持っていたかもしれない。
 心不全なんて誰にでも起こり得るわけだし。


「有希くん、おいで。」


 俺は両手を広げて有希くんを抱きしめる事しかできなかった。
 何も言えなかった。


「とりあえず、帰ろうか。」

「うん。」

 状況を理解できていないのか、ぼんやりとした表情で焦点があっていない気がする。

「タクシー、呼ぶから。」

 これからどうしてあげたらいいんだ?

 いや、そもそも本当に有希くんの父親は死んだのか?


 震える手でスマホを取り出してタクシーを呼んだ。


「大丈夫、俺と暮らせばいいから。大丈夫、大丈夫。」


 そう言いながら頭を撫でることしかできなかった。


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