隠し事にしようよ

本野汐梨 Honno Siori

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帰宅【有希】

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 週末。
 久しぶりに自宅に戻ってきた。

 鍵を開けると、ものすごい熱気と濃縮されたタバコの香り。

 久しぶりに見た我が家の風景になんとなく違和感。

 人の気配がする。


(帰ってきてたのか…?)


 奥に人がいるのがわかる。
 



「あっ…。」


 向こうも僕を見ていた。

 父親じゃない。
 でも知っている。

「ガキ。やっと帰ってきたね。」

 酒焼けした女の声。

 名前は知らない。
 顔だけ、知ってる。


「あんたの親父ね、死んだよ。急に。」


 女は唐突に口を開いて、訳のわからないことを言っている。


「心不全ってやつね。不摂生だったし。まだ若かったのにね。あ、もう、焼いてあるから。」


 そう言って、テーブルに無造作に置かれた白い瓶みたいな石みたいな容器を指差した。

(何言ってるの…?)


 話の内容を頭に入れたくないものの、少しずつ理性が受け入れてきて、息が上がってくる。
 僕は何も言えなかった。

「それでさ、あんたの父親に金貸したりしてんのよ。」

 女はわざわざ僕の前まで来て、話を続けた。
 僕が聞いているかどうかを確かめたのかもしれない。

 僕より背が高い女の人だった。
 それに家の中でもピンヒールを履いてる。

(あー、死んだのか。これからどうしようかな。ずっと先輩と住んでいいってことかな?いや、もう僕も死んだ方がいいのかな?本当に生活できないし。高校も通えない。)

 現実逃避に走る。
 いろんな思考が脳内を駆け巡った。

「あんたに金返して貰いたいから、来週の日曜日に此処に来なさいね。クソガキ。」

 吐き捨てる様に言って、僕に折り畳まれた紙を握らせた。

 紙を広げてみる。

 この町で1番の繁華街のとあるビルの住所の様だった。

「来ないとどうなるか、わかってるよね?」と言い残して、女は僕と言葉を交わさずに部屋を出て行った。

 あの女、ヤクザ関係って父親が言ってたのを聞いたことある。危ない人なのだろうか?

 僕、どうなるんだろう?

 金を返せと言われたものの、高校生に金なんてない。

 僕は、部屋の中に入る。

 女が指差していた容器の蓋を開ける。
 灰色の塊と粉が中に入っていた。
 

 なんだこれ。



 僕は蓋を閉じた。

 ポケットに女に貰った紙を入れた。
 
 泣くこともできず、ただ茫然と考えた。

(もう、終わりたい。死にたい。)

 父親を大切に思ったことなんて無かったけど、喪失感というのだろうか。胸がつかえて息ができない。死にたい感情だけが僕を覆い尽くした。
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