63 / 66
帰宅【有希】
しおりを挟む週末。
久しぶりに自宅に戻ってきた。
鍵を開けると、ものすごい熱気と濃縮されたタバコの香り。
久しぶりに見た我が家の風景になんとなく違和感。
人の気配がする。
(帰ってきてたのか…?)
奥に人がいるのがわかる。
「あっ…。」
向こうも僕を見ていた。
父親じゃない。
でも知っている。
「ガキ。やっと帰ってきたね。」
酒焼けした女の声。
名前は知らない。
顔だけ、知ってる。
「あんたの親父ね、死んだよ。急に。」
女は唐突に口を開いて、訳のわからないことを言っている。
「心不全ってやつね。不摂生だったし。まだ若かったのにね。あ、もう、焼いてあるから。」
そう言って、テーブルに無造作に置かれた白い瓶みたいな石みたいな容器を指差した。
(何言ってるの…?)
話の内容を頭に入れたくないものの、少しずつ理性が受け入れてきて、息が上がってくる。
僕は何も言えなかった。
「それでさ、あんたの父親に金貸したりしてんのよ。」
女はわざわざ僕の前まで来て、話を続けた。
僕が聞いているかどうかを確かめたのかもしれない。
僕より背が高い女の人だった。
それに家の中でもピンヒールを履いてる。
(あー、死んだのか。これからどうしようかな。ずっと先輩と住んでいいってことかな?いや、もう僕も死んだ方がいいのかな?本当に生活できないし。高校も通えない。)
現実逃避に走る。
いろんな思考が脳内を駆け巡った。
「あんたに金返して貰いたいから、来週の日曜日に此処に来なさいね。クソガキ。」
吐き捨てる様に言って、僕に折り畳まれた紙を握らせた。
紙を広げてみる。
この町で1番の繁華街のとあるビルの住所の様だった。
「来ないとどうなるか、わかってるよね?」と言い残して、女は僕と言葉を交わさずに部屋を出て行った。
あの女、ヤクザ関係って父親が言ってたのを聞いたことある。危ない人なのだろうか?
僕、どうなるんだろう?
金を返せと言われたものの、高校生に金なんてない。
僕は、部屋の中に入る。
女が指差していた容器の蓋を開ける。
灰色の塊と粉が中に入っていた。
なんだこれ。
僕は蓋を閉じた。
ポケットに女に貰った紙を入れた。
泣くこともできず、ただ茫然と考えた。
(もう、終わりたい。死にたい。)
父親を大切に思ったことなんて無かったけど、喪失感というのだろうか。胸がつかえて息ができない。死にたい感情だけが僕を覆い尽くした。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
彼氏未満
茉莉花 香乃
BL
『俺ら、終わりにしない?』そんなセリフで呆気なく離れる僕と彼。この数ヶ月の夢のような時間は…本当に夢だったのかもしれない。
そんな簡単な言葉で僕を振ったはずなのに、彼の態度は……
ハッピーエンド
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる