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2人の時間【有希】
しおりを挟む夏休みが残り1週間になった頃。
僕は、蓮也先輩の家に居座ることが当たり前になりすぎて、もう元の生活に戻れないんじゃないかと心配していた。
それに、流石に父親も帰宅するのではないかと思う。
こんなに長い期間帰ってこないことは初めてだった。今までも、帰ってこないことはあったけどこんなに長い期間帰ってこない事は初めてだった。もはや、生きているのかどうかもわからない。
(このまま帰ってこなかったらどうしよう。)
別に帰ってきて欲しいとは思わないけれど、生活費も貰えず、学費も貰えず過ごすとなると困る。一応、唯一血が繋がっている家族でもあるし。
いつまでも蓮也先輩のお世話になるのも申し訳ない。
不安はあるものの、今は蓮也先輩との毎日が楽しくて仕方がない。
蓮也先輩のおかげで、課題は既に終わって、今は夏休み明けのテストに向けて勉強している。
「蓮也先輩…。」
「ん?どうした?」
蓮也先輩も夏休み明けは模試を受けるとかで、忙しそうに勉強している。
「今、大丈夫ですか?」
「うん、いいよ。」
「こことここ。全然わからなくて。」
数学も苦手だが、英語も苦手だ。
英語の長文問題を蓮也先輩に質問する。
蓮也先輩は、子どもの頃から英会話を習っていたとかで英語の問題は得意らしい。
どこまで完璧なんだ。この人は。
毎日、丁寧に勉強を教えてもらっているおかげで、夏休み明けのテストはかなり成績が良くなっていそうな気がする。
自分でも、問題を前よりも解けるようになっているのがわかる。
蓮也先輩が学校の先生だったらいいのに。
「これは、ここをこうだから…。」
蓮也先輩が、どれだけ大切に育てられてきたか分かる。だから、こんなに人に丁寧に接する事ができるんだろうな。
そんなこんなで、勉強したりしてたらまた夜になった。
「ご飯にしよっか。お腹空いてきた~!」
「僕もです。」
今日も、なんだかんだで結構長時間勉強していた。中学生の頃も、家にいても何もする事が無くて、夏休みは図書館で本を読んだり勉強してたりしてたな。
あの頃は、毎日辛くて死にたくて、毎日現実に絶望する毎日だった。
でも、あの時ちょっとだけ勉強してたから、学科は違うけど、蓮也先輩と同じ高校に入れたのかも。
あの時の自分に今は感謝している。
だって、今はこんなに好きな人と一緒に時間を過ごせている。
不安はあれども、今が幸せ。
「僕、幸せ。」
「どうしたの、急に。」
突然、妙な事を喋り出してしまったので、蓮也先輩が驚いている。
「前は、毎日毎日、死にたくて消えたくて仕方なかったんです。」
言葉が止まらない。
蓮也先輩は、何も言わない。
「でも、蓮也先輩が居てくださるから。幸せなんです。最近、死にたいって感情すら忘れてました。すごく大事に扱ってもらってるから。」
「俺も。有希くんと一緒にいる時間が幸せ。だってこんなに素直で可愛いんだもん。」
「おいで。」と言いながら、両手を広げる先輩の胸に飛び込んだ。
抱きしめて頭を撫でられる。
「ずっと、ずっと一緒に居てください。」
「もちろん。」
幸せって、こう言う感情なんだ。
高校生になって初めて学んだ感情だった。
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