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本音を言えばこのまま…【蓮也】
しおりを挟むある日、有希くんが学校に来なかった。
父親に虐待されて動けないとか?
最悪の場合…。
想像すればする程、良くない思考になる。
心配でたまらない。
想像するだけで息が苦しくなった。
実の親に殴られ、傷つけられて、慰み者にされる、そんな姿を想像するだけで虫唾が走る。
俺が有希くんを助けないと、誰が助けに行く?
有希くんは、人との関わりを拒否してしまう一面がある。
知る限り、友達もいない。有希くんの担任も情けない。親戚がいても親しくないだろう。
学校が終わるまで待った。
もしかしたら、登校してきてくれるかもって考えたのだ。
でも、甘かった。
昼休みのうちに、住所を調べた。
田舎の公立高校で、言っちゃ悪いが、有希くんのクラスの担任は子どもの目線で見てもポンコツ。すぐに、個人情報を見る事ができた。
スマホで検索して家に向かった。
マップの写真を見る限り、木造2階建てのアパート。
高校からそんなに遠くはなかった。
結果的に、体調を崩していただけだった。
でも、父親の姿は無く1人だったところを見ると、ネグレクトを受けているのだと感じた。
タクシーを呼んで、自分の住む部屋に有希くんを連れて帰った。
いくら家に閉じ込めて看病したからってだからって、単なる学生の身分の自分には何もできない。その場しのぎに過ぎない。有希くんが抱える問題は何も解決出来ないのだ。
体育祭の日。
過呼吸で辛そうな姿と今日の吐き気で苦しむ姿が脳内で重なる。それから、沢山の傷跡。特に、痛々しい根性焼きの後と背中の引っ掻き傷は、一生体に残り続けるのだと思う。
もうこのまま一生、俺と住めばいいのに。
俺の部屋で安心して眠る可愛い恋人を、このまま閉じ込めておきたい。
もう、この人を苦しい目に遭わせるのは嫌だ。絶対に守りたい。
そんな風に思うのだった。
*****
翌日。
有希くんは、学校を休んだ。
俺も休んだ。
学校をサボるなんて初めてだった。
離れたくなかったのだ。
こんなに愛おしい気持ちは初めてだった。
それから、自分の力ではどうにもできない気持ちも初めてだった。
野球を辞めた時は、怪我をして、部内でのいざこざも有り、無力感が無かったと言うと嘘になる。でも、「向いてなかったんだな」くらいに気持ちにケジメをつけることができたので、結構あっさり辞めることができた。
でも、今は違う。
何もできないのだ。
「有希くん。幸せにするから、一生一緒にいようよ。」
まだ寝ている横顔に声を掛けた。
返事はない。
「幸せにするから、ね?」
どうしても、有希くんと離れたくない。
辛い目に合わせたくない。
どんなに自分の我儘だったとしても。
愛おしく思う気持ちと、無力感とで、感情がぐちゃぐちゃだった。
胸が苦しくて、なんだか心臓が痒くて、息苦しかった。
有希くんと俺と、この世界に2人だけならばならきっと幸せなのに。
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