隠し事にしようよ

本野汐梨 Honno Siori

文字の大きさ
上 下
45 / 66

体育祭当日2【有希】

しおりを挟む
 リレーなんてあっという間に終わる種目だ。
 先輩だって居てくれる。

 それなのに、気持ちがこんなに重たい。
逃げ出したくてたまらない。そもそも、中学時代は体育祭当日は必ず欠席してたから、久しぶりに体育祭の雰囲気を味わう。僕は、この雰囲気に完全に飲まれていた。

 いよいよリレー本番の自覚が芽生えて、緊張し出した僕は胸が苦しくて呼吸が荒くなった。
 苦手な事をする時、よくこんな感じになる。

(やばい…。しんどい…。)

 心臓がバクバク音を出している。

「午前中最後の種目は、部活動対抗リレーです。どの部活が速いのか、皆様ご注目ください。それでは、選手入場です。」

 放送部のアナウンスが流れる。
 緊張で頭がクラクラした。

 必死に顔を上げて、蓮也先輩の背中にくっついて選手入場した。

 1番目の走者が位置につく。
 ピストルの音が鳴り響き、リレーがスタートしてしまった。

 グラウンドに声援が響き渡った。
 午前中最後で、花の種目かもしれない。
 この種目の走者は、運動部の3年生ばかりだ。

 生徒会の隣には、野球部が並んでいた。

「蓮也、お前には負けないから。」

 低い声で坊主頭の3年生が、蓮也先輩に話しかけている。仲が良さそうではない。

「うん、そうだね。俺も負けないから。」

 蓮也先輩は、話しかけた3年生に暗い声で返事した。

 表情が見えない。怖い。

 蓮也先輩は、元々野球部だった。
 なにか、因縁の相手なのだろうか。

「生徒会、結構強いから。」

 蓮也先輩が、もう一言返した。

「へー、でも怪我くらいで部活辞めちゃうような奴がリーダーだからなぁ~。ヤワな奴だよな~。」

 嫌味ったらしく3年生が答えた。

 重い空気、僕は息が絶え絶えになってきた。

 重い空気を纏ったままの蓮也先輩が、1回目のスタート位置についた。

 さっき話していた3年生の順番が同じみたい。

 生徒会の、たぶん現役バスケ部の2年生が野球部より、少しだけリードして蓮也先輩へバトンを渡した。

(先輩…。負けないで…。)

 野球部で蓮也先輩に何があったのか、僕は知らない。
 でも、あんな嫌味を言うような人に蓮也先輩が負けるはずはない。そう、信じていた。

 野球部も生徒会と僅差でバトンを渡した。

 僕も、スタート位置についた。

「大丈夫、練習したから。」

 小声で自分に言い聞かせた。


「有希くん!」

 グラウンドを一周回った蓮也先輩が、野球部を僅かに引き離して戻ってきた。

 僕は、震える手でバトンを受け取った。

(せめて、野球部に抜かれないようにしないと。)

 呼吸が苦しい。

 足がうまく動かない。

 必死に足を動かしているけど、前に進んでいるのかどうかよくわからない。

 口いっぱいに、鉄の味が広がった。

 砂埃が顔に当たる。
 背後に人の気配がした。

(やばい…!抜かれちゃう!!)

 僕はもっと必死に足を動かす。

 先輩が待ってるから…。
 野球部の3年生と話していた蓮也先輩の顔が思い浮かぶ。
 きっと、蓮也先輩は野球部で嫌な思いをしたに違いないと思った。

 息が苦しい。
 でも、、、

 もうちょっと…。


 僕は、ギリギリ、野球部からのリードを守りながら蓮也先輩にバトンを渡すことができた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

処理中です...