隠し事にしようよ

本野汐梨 Honno Siori

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体育祭練習2【有希】

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 やがて、放課後になった。

「蓮也先輩…。本当に、僕、足が遅いんです。」

 僕は、不安を蓮也先輩にぶつける。
 走行順で校庭の真ん中に僕たちは並んだ。

 1番走者だけがスタート位置についている。

 ついにリレーの練習が始まったのだ。

 初練習だが、本番まで時間がないので少しピリついた雰囲気だ。

「大丈夫。俺も実はそんなに早くない。野球部だったし。」

「え?本当ですか?野球部って足早そうだけど…。でも、2回走るんですよね?」

「うん…。俺、ほんとは走るの苦手。実は、ちょっと失敗したかなって思ってるよ。普通に陸上部現役の2年生とかに頼めばよかった。」

 蓮也先輩が僕から目を逸らした。

「え…。」

「それに、生徒会がリレーをする事で体育祭を盛り上げることが目的だから、勝つことはそんなに重要じゃない。」

「えっと…。じゃあ、何が重要ですか?」

「有希くんと走った記憶を作ること。」

 遠くを見つめる先輩は、どこか寂しそうだ。

「記憶…。ですか…。」

「そう。だって、もうそのうち、卒業だし。こうやって、学校で有希くんと会えなくなる。」

「そ、うですね。」

 そうだ。2個違いの先輩と僕はもう数ヶ月後には、お別れの時が来てしまう。
 今まで、この事を考えていなかったわけでは無い。

 でも、なんだか実感が湧かなくて、この問題から僕は逃げ続けていた。

 だって、蓮也先輩が居ない世界でどうやって生きていけばいい?
 先輩がそばにしていくれるから、今生きてるだけ。もしも、離れ離れになってしまったら…。


 僕は、もう生きていく事をやめるだろう。


「せんぱい…」


「ん?どうしたの?」

 僕の覇気の無い小さなことでも蓮也先輩は聞き取ってくれる。


「ずっと一緒にいる事ってできないですか?」

 僕の願望。
 そして、ワガママ。


「あのね。有希くん。」

 小さい子供に話しかけるような優しい声。


「俺が、卒業して、大学に入って、そしたら、一緒に暮らそう。」


「え…??」


 唐突な話に僕は困惑した。


「最近、有希くんが辛く無い人生を送る為の方法を考えてたんだよね。それで、思いついたの。俺が一生懸命、有希くんの事を幸せにするから、俺と一緒に暮らして欲しいなって。ずっと一緒の人生を送りたいなって。」


 僕は、先輩を見上げた。
 自然に視線が絡み合う。


「有希くん、俺と一生、一緒に居てね。」


 僕は、溢れる涙を必死に堪えながら頷いた。


「でもね、学生時代の思い出って今しか作れないでしょ。だから、楽しい思い出、作ろうね。」

 太陽に照らされた蓮也先輩の笑顔が眩しい。

「さて、もう俺の番だ。」

 そう言って、蓮也先輩がスタート位置に着く。

 僕も、蓮也先輩の為に頑張らねば。
 先輩の嬉しい告白が、僕に勇気をくれた。


 なんだか、体育祭が、そしてこれからの未来が楽しみになってきた気がした。


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