隠し事にしようよ

本野汐梨 Honno Siori

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体育祭練習1[有希]

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 練習初日の昼休み。
 いつも通り、生徒会室に向かった。

 蓮也先輩はまだ来ていない。

 最近はいつも、昼休みは2人で生徒会室にで過ごしている。

 蓮也先輩はもう3年生だし、僕もバイトがあったりするので、2人で過ごす時間は長くない。
 昼休みは、貴重な2人の時間なのだ。


「有希くん。」

 生徒会のドアから蓮也先輩が顔を出す。

「今日は早かったね。」

「はい、今日は授業が早かったです。先輩はいつも早いですよね。」

「うん、もうほとんど授業って感じではなくって。自習が多いから、だいたいの授業が時間通りに終わるんだよね。」

「へー、先輩、進学クラスだからみっちり授業してると思ってました。」

「そんなことないよ。普通クラスより逆に緩いかも。」

「僕、普通クラスだけど結構授業ギチギチで…。あんまりついていけてないです…。進学クラスの人たち、尊敬します。」

 蓮也先輩は、学年トップレベルの成績だと有名だ。だから、生徒会長を任されてるのかもしれない。

 きっと、都会の偏差値が高い大学に行っちゃうんだろうな、なんて妄想してしまう。 親御さんもお金持ちそうだし。
 僕は、度々、蓮也先輩と離れ離れになる悲劇的な未来を自分勝手に想像して、ちょっと涙が出そうになる事がある。
 その妄想には続きがあって、蓮也先輩と同じ大学に進学する。それで、大学で2人は再会を果たすんだ。大学は、4年あるから最低でも2年は一緒に居られる計算だ。
 まぁ、僕は進学はできないから、あり得ない妄想だけど。

「へー。真面目そうなのにね。バイトとかで忙しいから勉強できてないんでしょ?今度、一緒に勉強しよ。勉強デート。」

「勉強デート。そんなの初めて聞きました。」

「え?学生の定番じゃない?」

 そうか、僕はあまりにも人と関わりがないから知らなかった。

「あ、じゃあ、したいです、勉強デート。」

「うん。しようね、勉強デート。体育祭が終わってからね。」

「わかりました。楽しみにしてます。」

 蓮也先輩に励まされると自然と笑みが溢れる。

「体育祭、頑張ろうね。リレー。」

「はい。先輩がいるから…。今日から練習ですよね?」

「そうだよ~。気合い入っちゃうね!」

 僕は、正直気合いは無い。
 でも、終わったら蓮也先輩と勉強デート!!

「僕、運動苦手だけど、皆さんに迷惑掛からないように頑張ります!」

「うん、走る順番、もう3年で考えてあるんだけど。有希くんは、俺の後で俺の前。」

「????後で、前?」

「そう。人数足りないから、俺2回走るの。スタートして戻って来て、もう一回スタート位置に着いたら効率いいでしょ。」

「え、でも疲れませんか?」

「うん、大丈夫!俺、こう見えても元運動部だし。体力有り余ってるから!
 あとね、有希くんにバトン渡したかったし、誰にも渡させたくなかった。バトン貰うのもね。誰にもさせたくなかった。」

「えっと、それって、どう言う…?」

「端的に言うとね、嫉妬してるの。あと、有希くんを独り占めしようと思って。生徒会長権限で。」

 蓮也先輩、意外と嫉妬とかするんだ…。
 皆んなからの人気者なのに。

 嫉妬は、僕みたいな卑しい貧しい人間がする事だと思ってた。

 僕は、嫉妬してもらえるのは嬉しい。

 それに、同じ生徒会とはいえ、殆どの人を知らない。
 見知らぬ人と少しでもコミュニケーションを減らせるのは、心の負担が少なくなってとてもありがたいのだ。

「ちなみに、今日の放課後練習ね。体育服で中庭の水道前に集合ね。」

「わかりました。先輩も、もちろん来ますよね?」

「うん、もちろん。休まず参加する。有希くんは?」

「バイトがあるので、月曜と木曜は不参加で…。」

「そっかそっか。全然大丈夫。だって、対して練習する事ないもん!」

 もう、今日の放課後には練習。
 何ならもう、週末は本番…。

 僕、大丈夫かな?

「有希くん、無理しないでね。」

 そう言って、蓮也先輩がキスをしてくれた。

 僕の不安が伝わったのかもしれない。

「放課後練習だし。メロンパンじゃお腹空くからこれあげる。」

 そう言って、蓮也先輩がくれたのはお弁当の卵焼きだった。

 口移しで渡された卵焼きは、ちょっとだけ蓮也先輩のキスの味がした。
 ついでにタコさんウインナーも口に捩じ込まれた。


「頑張ろうね。」

 そう言われて、僕は頷くしかなかった。

 気づけばもう、昼休みは終わりの時間を迎えていた。
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