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続き[蓮也]
しおりを挟むその日の放課後。
有希くんを、教室まで迎えに行く。
3年が急に来たからか教室が、ちょっとだけ騒つく。
生徒会長だよ、とか、元野球部の人、とか、一年生が色々と話す声が聞こえる。
それとどこからか、「生徒会長って元エースらしいよ、野球部の。プロになれるくらいうまかったらしい」「え、でも野球部じゃなくない、今は」「なんか怪我したんだって」「えー、かわいそー。」そんな声が聞こえていた。
一年生も知ってるのか、そんなこと。
「山田 有希くん、いますか?」
教室をぐるりと見渡したけれど、肝心の山田くんの姿が見当たらない。
(まさか、先に帰ったりしちゃったりしてないよね!?)
内心、焦り始める。
出入り口の近くにいた女の子達に尋ねてみる。
俺の問いかけに、笑顔の女の子達だが、有希くんの行方は知らない様子。
すると、教室の奥から慌てて、「蓮也先輩!ここにいます!」と声がする。
教室の奥に、大好きな有希くんの姿が見えた。
「あ、いた。有希くん、早く帰ろ!」
スクールバッグを握りしめた有希くんが教室の人混みを掻き分けてこちらに向かってくる。
俺は、笑顔で手を振った。
「慌てないで、転んじゃうよ。」
有希くんは後ろから、「あの人の声、初めて聞いたわ」とか言われている。
知っていたけど、有希くんは本当に誰にも心を開いていない様子。このクラスでも例外はない様だ。
まぁ、あんな家庭じゃ、ね。
人間なんて怖くてたまらないよね。
でも、俺にはこうやって懐いてくれている。
その特別感がまた唆るのだ。
「蓮也先輩、早かったですね。」
「うん、待ちきれなくて。早く帰ろ。」
純粋な有希くんにこんな感情押し付けたくは無いんだけど、正直、やりたくてやりたくてしょうがない。
もう、サックスの事しか頭にない。
2人で並んで学校を出た。
学校を出てしまえば、目的地はすぐそこだ。
学校が遠のいていく。
有希くんの小さな歩幅に合わせて歩く。
有希くんの、なんと言うか、トボトボ、みたいな感じの歩き方が可愛らしい。
「ごめんね、急がせちゃって。」
「いいんです。僕も早くって、思ってたから。」
「やりたかった?」
ど直球に聞いてみる。
ちょっと顔がニヤけてしまう。
直球の問いかけに困惑した様子の有希くんが、俺の顔を見上げる。
「うん…。」
うるうるの、子犬みたいな瞳で俺の顔を覗き込む。
そっかそっか。やりたかったか。
だって、俺ら、ピッチピチの男子高校生だもんな。
性欲なんて売って回る程に有り余っている。
「今日は、痛く無いようにローション買っておいたから。楽しみにしてていいよ。」
学校から、そこまで遠いわけじゃ無いけど、人影の無い路地に入ったのでさりげなく有希くんの手を取る。
もう夏が近いのに、手が冷たい。
優しく握った手のひらを、有希くんがギュッと握り返してくれた。
恋人繋ぎにした。
指と指が自然に絡み合ったのだ。
「それって、イイヤツですか?」
「イイヤツってどう言う事?」
「あの、なんて言うか、それ、僕、知らないです。あんまりそう言うの詳しくないから…。」
イイヤツの意味は、わからなかったけど、ローションを知らないらしかった。
「イイヤツかどうかは知らないけど、挿れた時にお尻が痛く無いようにする液体だよ。
この前、無理やり挿れて痛そうだったから。」
「あ、痛く無いですよ。大丈夫です。」
お気遣いありがとうございます、と有希くんが続けた。
気遣いと言うか、当たり前のことなんだよなぁ。
処女じゃ無いのに、そんなことも知らないのか。まぁ、強姦されてるだけだから仕方ないのかも。
「俺もそんなに使ったこと無いけど、効果は抜群のはず。」
「へぇ…。そんな凄いんですね。」
身も蓋もない会話を続けているうちに、家に着いてしまった。
玄関のドアを開けて、有希くんを先に中に入れる。
「荷物その辺に置いて。俺、暑くて汗かいたから、ちょっとシャワー浴びてくる。」
「あ、僕も。綺麗じゃないから、入りたい…かも…。」
有希くんのはっきりしない物言い。
「んじゃ、一緒に入ろ。」
1分1秒が惜しい。
俺は風呂場に行き、制服をさっさと脱いで裸になる。
後をついて来た有希くんは、脱ぐのが恥ずかしいのかもたついている。
そのもたつきが、なんともエロティックで男心をくすぐる。
でもごめん、今日はもう待てない。
「脱がせてあげる。」
有希くんに代わって、制服を脱がせる。
下着も、全部。
「傷、減らないね。」
有希くんの体の傷は減らない。
それどころか、胸元に根性焼きが増えている。
「プールとかどうするの?」
「えっと…。休む…。とか?休んでなんとかして来たんで。今まで。」
俯いて答える。
「無理しないで。俺に甘えて。」
色々言いたいことは有る。
でも、どんなに酷くても、有希くんにとっては唯一の肉親。
俺は、今はどうすることもできない。
2人で一緒にシャワーを浴びるのは2回目か。
ぬるめのお湯を有希くんにそっとかける。
「湯加減はどーですか?」
「ちょ、ちょうどいいです。」
気持ちよさそうに目を細めて答える姿に、勃起した。
細身の裸に、生々しい傷跡。
胸元の根性焼き。背中の引っ掻き傷。
ヘソの真下の痣。
傷の周りの小さいペニス。
俺、傷跡フェチだったりしないよな。
「傷に染みない?」
「それは、全然大丈夫です。」
有希くんと自分と交互にシャワーでお湯をかける。
「嫌なこと聞いていい?」
「なんですか?」
「有希くんさ、何回くらい、お父さんに犯されてるの?」
シャワーの水音が響く。
汚い、嫌な事を聞いてしまった。
でも聞かずにいられない。
こんな痛いけな少年を傷だらけにする様な男に、俺は今、嫉妬している。
例えば、年下の女の子に経験人数を尋ねたいとき。気になって仕方がない、嫉妬してしまう、そんな自分に嫌悪感を抱く。なんて言うか、そんな感じ。
「回数は、わかんないです。うちの父親、かなり性欲強くて。僕の他にも女の人ともよくセックスしてます。」
「そうなんだ。毎日、とかじゃないよね。」
「うん。僕は、週2とか。女の人はよく来てる。」
週2もしてるのか。
俺より随分多いじゃないか。
「へー、女もいるんだ。お父さん、モテるんだ。」
「うん、汚いし、お金ないのに。」
有希くんを暗い顔にさせてしまった。
有希くんにモコモコに泡立てたボディソープをくっつけて、優しく洗う。
傷に染みない様に、優しく優しく…。
「あのね。有希くん。」
「なんですか?」
「後で合鍵渡す。辛いときは、いつでもうちにおいで。高校卒業しても近場の大学に行くつもりだから。このまま住み続けるから。」
「え…?」
突然の誘いに困惑している様子。
「有希くんが、大切だから。」
「あ、あ、あの…。ありがとう…。ございます。」
途切れ途切れのお礼。
困惑しているみたいだ。
体についたモコモコのボディソープをお湯で綺麗に洗い流す。
自分も有希くんも綺麗になった。
さぁ、昼休みの続きをしよう。
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