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食べ物[有希]
しおりを挟む体育祭。
なんて嫌な響きだろう。
友達のいない僕は、学校のイベントごとが大嫌い、大の苦手だ。
体育祭当日に学校に来るつもりはなかった。
それなのに、リレーに強制参加。
そんなの僕には絶対に無理だ!!
もちろん、僕はズル休みする気満々だ。
でも…。
先輩がいるから…。
悩ましい…。
もちろん、出るつもりは無いんだけど、先輩と一緒に走ってみたいとも思ったりし始めた。
**********
キーン、コーン、カーン、コーン
授業終了のチャイムが鳴り響く。
昼休みだ。
僕は、いつも通り生徒会室に向かった。
ガラガラと大きな音をたてながら、生徒会室の引き戸を開ける。
「やぁ、有希くん。待ってたよ。」
「あ、先輩。お疲れ様です。」
「今からご飯?」
「はい、そうです。先輩は?」
「有希くんを待ってたところ。」
僕を待っててくれる人がいるのか。
「どうしたんですか?」
体育祭が近づいてきているのもあって、僕は警戒している。
正直、既に僕が生徒会としてリレーに参加することは決定している。だから、今更逃げようなんて思ってはいないんだけど、やっぱり逃げたくなってしまうのだ。
僕だけ、生徒会で一年生だから2回走る様に頼まれる様な気がしててビビっているのだ。
「有希くん、実は、ちょっと話が…。」
そらきた。
「な、な、なんでしょう?」
ちょっと声が上擦った。
「体育祭、もう再来週でしょ。それで…」
「そ、それで?」
「体育祭の夜、うちに泊まらない?」
「あ、えっと。体育祭の夜、ですか…。」
体育祭は、土曜日。
僕が、もし体育祭に参加するのなら、その後バイト。
それに日曜日だってバイトがある…。
(バイトとか、忙しいし…。どうしよう。
それに、そんな約束しちゃったら体育祭に出ないといけなくなっちゃう…。)
「もちろん、泊まりたいです。でも、バイトとかあるし。ちょっと考えさせてください。」
何より、父親がその日は仕事が休みで多分家にいる。
「そっか。じゃあ、考えておいてね!」
先輩の笑顔が眩しい。
僕は、先輩の顔が見れない。
こんなに笑顔を向けられて、僕はどうしたらいいんだ。
「有希くん、とりあえずここに座らない?」
蓮也先輩が、自身が座っている隣の席を指差す。
「あ、そうしますね。」
「有希くんとお昼ご飯なんて嬉しいなぁ。初めてだね!」
「確かに、ご飯を一緒に食べたことはあるけどお昼ご飯を学校で一緒に食べるのは初めてですね~。先輩は、いつも教室で食べてるんですか?」
「うん。弁当買ってきた時はね。でも最近は、学食が多いかなぁ~。」
「学食かぁ。僕、まだ行ったこと無いです。」
「あ、そなの?今度連れてってあげるよ。カツ丼が美味しいんだぁ~。」
蓮也先輩は、ニコニコしている。
先輩が笑うと、僕も笑顔になる。
僕は、いつものメロンパンを一つ取り出した。3個入りのメロンパンを1日一つ食べているのだけど、今日はラスト一個。また、明日の分を買いに行かなきゃ。
「まって。有希くん。今日のお昼ご飯、なに?」
真剣な眼差しで、尋ねてくる。
「メロンパンですけど…。」
「それは見たらわかるよ。」
「じゃあ、なんで聞くんですか?」
「いや、それだけ?」
「はい。これだけ。」
「俺なんか、コンビニの日の丸弁当2個だよ。」
「蓮也先輩は、体が大きいから。僕は、チビだし…こんなもんです。」
本当は、いくらチビでも育ち盛りの男子高校生なので足りていない。
「そう言う問題?」
先輩が、心配してくれるのはありがたい。
でも、僕のバイト代だとこれが精一杯だし。
「いっぱい食べる様にしないと。明日から、リレーの練習するよ?」
「げっ…。」
突然の発表に僕から、変な音が出てしまった。
「やっぱり、いやなんだ。リレーに出るの。」
蓮也先輩には、お見通しだった様子。
「そ、そうです…。」
「あのね、嫌なのは分かってるんだ。でも、有希くんと一緒に走りたいな。有希くんにバトン、渡して欲しい。俺が渡してもいいけど。有希くんが体育祭に居てくれたら。本当に本当に嬉しいから。だから、、」
蓮也先輩が、僕の手を取った。
「無理はね、しなくていいよ。でも、良かったら一緒にリレー、走ろ?」
イケメンで優しくて、大好きな生徒会長が、単なる一年の書記係に向かって、こんなに真剣に話をしてくれてる。
「あ、、。あの。でます…。」
上ずる声で答える。
「でも、足遅いから。迷惑かも。」
「迷惑なわけない。」
「本当に、すっごくノロマなんですよ。僕。」
「構わない。大好き、有希くん。」
そういいながら、先輩が僕を抱きしめる。
僕は、手に持っていたメロンパンを落としそうになる。
「お礼に、タコさんウインナー、あげちゃう。」
僕から手を離した蓮也先輩が、コンビニ弁当に入っていたタコさんウインナーを摘んで、僕の口に放り込む。
「美味しい?」
「おいひい。」
「可愛い。」
僕は、答え方がわからなくってモグモグするだけ。
なにも言わない僕の顔を覗き込む先輩。
(あ、キス、される。)
そう思った時には、もう蓮也先輩の唇が僕の唇に覆い被さっていた。
「っっん。ちゅっっ…。」
ちょっとだけ深いキス。
先輩は、僕の知らないキスをたくさん知ってる。
「今日は、放課後、バイトないでしょ?」
「はい。今日は何もないです。」
「じゃあ、うちに来て。」
僕も同じことを考えていた。
だって、キスだけじゃ終わりたくない。
でも、もう昼休みは終わる。
「行きます。」
「続き、しようね。」
ドSな先輩が、ニヒルな笑みでそう言った。
ドMな僕は、恥ずかしくて頷くしかなかった。
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