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リラックス[蓮也]
しおりを挟むガチャガチャと鍵を開けてアパートの重いドアを開ける。
「今日は散らかってるんだよね。」
一応、進学クラスなので結構勉強が忙しい。
それを言い訳にして、部屋中をゴミだらけにしていた。
この前ちょっと頑張ったから、幻滅されちゃうかもしれない。
「蓮也先輩もそんなところがあるんですね。」
有希くんが、俺の部屋を舐め回すようにみている。
1週間でこのゴミの量は不味かったか?
「あるよ~。俺結構ズボラなんだよね~」
「そうなんですね。意外です。」
汚い部屋を見て、嫌いになっちゃうかな?
「でも、うちより全然マシです。うちもっとひどいです。」
「そうなの?」
「父が、食べ散らかすし、タバコとかそのままなんで。いつも僕、タバコ臭くないですか?」
「うん…。そういえば、ちょっと臭いかも…。」
しまった、と思った時には遅かった。
はっきり言ってしまったら、落ち込んじゃうかな?
有希くんを見下ろすと、案の定下を向いて悲しそうにしている。
「でも、俺の好きな有希くんの匂いだから。匂いも大好き。」
それを聞いた瞬間、かわいい目を潤ませて、俺の方を見上げる。
(かわいい!!)
俺は、腕を伸ばして思いっきり有希くんを抱きしめた。
(そうか。有希くんはいつもタバコと酒の匂いに耐えてるのか。)
柔らかい黒髪に似つかない、きついタバコの匂い。
厳しい環境を今も生き抜いている彼の全部を抱きしめたい。
全部大切にしたい。
「有希くんの全部大好き。」
「先輩…。苦しい…。」
「あ、ごめん。好きすぎて力込めすぎた。」
「絞め殺されるかと思いました。」
真面目な顔で有希くんが言うから、おかしくって顔を見合わせて笑った。
有希くんはあんまり笑わない。
いつも暗い表情で口をギュッと結んで黙ってることがほとんど。
それが、俺の前ではたまに、こんなにかわいい顔で笑うんだもん。
「ずっと笑っててね。」
「ん?ずっと?」
「そう、ずっと。有希くんが笑ってるのかわいいから。」
有希くんの頭を撫でながらお願いする。
ずっと、有希くんが笑えるように俺も頑張らなきゃ。
「さっさとシャワー浴びようか。汚れちゃってるし。」
このままだと、また興奮して有希くんを襲ってしまいそう。
「俺、お湯溜めたりするから、ちょっと座って待ってて。」
「あ、ありがとうございます。」
有希くんを中に入るように促して、俺はお風呂のお湯を溜めたり、タオルの準備を始めた。
有希くんは、リビングのテーブルの前に正座してお行儀よく座っている。
…ギュルギュルギュル
有希くんの方から音がした。
「お腹空いてるの?」
顔を赤くして恥ずかしそうに俯いている。
「ちょっと…。」
「早くいいなよ~。コンビニに寄ってくればよかった。」
「すみません。気にしないでください。」
「そんなわけにはいかないよ。食べ盛りの男の子がお腹空かせてるんだもん。」
「いやいや。お気になさらず…。」
消え入りそうな声でお腹をさすりながら、恥ずかしそうに俯く。
「おかゆ、食べる?パウチのがあるんだけど。」
すぐに出せるお菓子とか買っておけばよかったけれど、今日はおかゆかカップラーメンしかない。
受験勉強が忙しくて、自炊をしていないから。
おかゆは、近所のスーパーで夜食用として定期的に買っている。
こんな時に役立つなんて。過去の自分、天才だ。
「じゃあ、すみません。もらってもいいですか?」
と申し訳なさそうに有希くんは俯いたままで答えた。
「すぐできるから。」
パウチのおかゆを器に移して、ラップをしてレンジで加熱。
2分もすれば、加熱が終わる。
「どうぞ。」
有希くんの目の前のテーブルの上にスプーンも一緒に置く。
「ありがとうございます。」
小さい声で呟く有希くん。
申し訳なさそうだ。
器のラップを外して、スプーンでおかゆを掬う。
ふぅーっと息を吹きかけて、おかゆを冷ましてから口に運ぶ。
「おいひいです!!」
有希くんが、パッと笑顔になって、次々におかゆを口に運ぶ。
(なんて可愛いんだろうか。まるでお腹を空かせた仔犬が喜んでご飯を食べるみたい。)
「それならよかった。いっぱい食べてね。」
有希くんは、おかゆをペロリと食べ終えてしまった。
「そんなにお腹空いてたの?」
「はい…。」
照れた有希くん。
頬が桜色に染まっている。
「んじゃ、そろそろお湯が溜まるからお風呂に入ろっか。」
「そうします…。」
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