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傷2[有希]
しおりを挟むアラームの音で目が覚めると、ベッドの上で先輩に抱きしめられていた。
こんなにたくさん眠ったのは久しぶりで、今まで怠くて仕方がなかった体も頭もスッキリしていて、なんだか気持ちが良い。
目の前には先輩がいて、どうやら先輩に抱きしめられながら寝ていた様だ。
アラームの音で先輩も目を開いた。
「寝ちゃってました…」
同じく目覚めたであろう先輩と目があったので、謝罪の意味で報告。
「いいよ。俺も寝てたんだ。」
そう言って先輩は、僕の頬を撫でた。
「お風呂入ろうか?明日も学校に行かなきゃだし。なんなら生徒総会だし。」
「入ります…。」
先輩に促されて、ベッドから起き上がった。
「お風呂、一緒に入る?」
急なお誘いに戸惑う。
「お互い好きなわけだし、裸の付き合いって大事でしょ?」
迷っている僕に先輩は追い討ちをかけてくる。
困ってしまって、僕は俯く。
僕の体には父親につけられた痣とか傷とか結構あるし、僕の中の理性が、頭の中で『やめておけ』と警告してくる。嫌われたらどうするんだ、とも警告してくる。
だけど、でも、本能が先輩も1秒たりとも離れたく無いって言ってる。
「僕の裸見て気持ち悪くなりませんか?」
はっきり言って、僕の裸は他人に見せられるようなものじゃない。
「何言ってるの?ならないよ。むしろ興奮する。すごく見たい。」
いつもの柔らかい笑顔で先輩は答えた。
先輩、意外と変態なんだな…。
見たいと言われると、先輩に笑顔を向けられてしまうと、もう全てがどうでもよくなった。
ちょっと怖いけれど見て欲しいと言う考えも頭に浮かんできた。
それに何よりも、先輩の体も見てみたい…。
僕も変態なのかもしれない。
「一緒に入ります…。」
僕の自信なさげな声だったけれど、先輩は嬉しそうにしていた。
先輩は何も言わずにもう一度僕を抱きしめ直した。
先輩に手を引かれてお風呂場に向かった。
僕は結構躊躇してしまったけれど、先輩は、するすると服を脱いでいった。
先輩の裸は綺麗だった。
胸筋も腹筋もモリモリな訳じゃないけれど、はっきり線が入るくらいにはついている。
体の部位をほんの少しでも動くたびに、かすかに筋肉が動いた。
後ろにも、背筋がついていて、太ももの筋肉がやたらと発達していた。
そういえば先輩、野球部だったな。それで綺麗な筋肉がついているのか。
僕もオドオドしながら、服を脱ぎ始めた。
そうか。僕、制服のまま寝ていたのか。
しわくちゃの制服のシャツのボタンに手をかけた。
一個ずつボタンを外していく。
(4日前くらいにお父さんに殴られたんだよな。お腹。ちょっと痣みたいになってるかも…。)
既に腕と痣はいつのまにか見られたけれど、お腹の痣なんか見せたら、先輩なんて言うかな?
「山田くん、なんでそんなにゆっくり脱ぐの?俺のこと焦らしてるの?」
そんなこと言ってる先輩はとっくに真っ裸。
見るつもりはないけれど、先輩の勃起した股間が嫌でも目に入る。
かく言う、僕も先輩の裸を見たせいか勃起していた。
僕の息子って結構ちっさいんだな…。
まともに他人の男性器なんて見たことなかったから、自分と内心比較してしまう。
「もう!焦ったいなあ。俺が脱がせてあげる。」
先輩が、僕のシャツに手をかけた。一つ一つ、ボタンを外していく。
長い指先がせかせか動く様子を眺めていた。
先輩に裸を見られてしまう恐怖もあるけれど、興奮したペニスをどうやったら隠せるか、とも考えていた。
シャツの中に着ていたタンクトップも「ばんざーい。」と言われて脱がされた。
先輩と違って、僕の体はガリガリで貧弱だ。
それに案の定、お腹にすでに黄色くなった痣があった。
先輩もきっとその痣は目に入っているはずなのに、何も言わない。
忘れていたけれど、小さい頃から付けられ続けた根性焼きの跡がたくさんあるんだった。
先輩はそれを見て何を思っているのか?
僕は先輩の顔を覗き込んだけれど、先輩は無表情だった。
「ね、いつからこんなことされてるの?」
いつからと言われても、いつからか覚えていない…。
「小さい頃からです。」
それが、精一杯の答えだった。
ついに、白状した。
「俺の大切な山田くんがこんなに傷ついてたなんて知らなかった。」
僕も忘れていた。うちの父親は、顔は殴らないけれど、それ以外の場所は殴ったり叩いたり、引っ掻いたりするんだった。
「背中にもいっぱい傷があるね。」
そうだったかもしれない。でも、正直どの傷の話しか分からない。
僕は、自分の傷のことなんてどうでもいい。
それよりも、気になることがある。
「先輩、僕の傷、見たりなんかして、気持ち悪くないんですか?」
「気持ち悪くなんかならないよ。だって、大好きだもん。」
そんなこと言ってくれる人が、この地球上にいたなんて信じられない。
「普通さ、こんなの学校とかが気づいて、児童相談所とか警察とかに通報されるもんじゃないの?」
「普通はそうかもしれないけど、僕は普通じゃないから。」
答えになっていないかもしれないが、事実だ。
学校の先生たちは、見てみぬふりだった。
何人かの優しい先生たちが色々と手を尽くそうとしてくれたこともあったけど、僕が拒否した。
もう、このまま死んでしまいたかったから。
それに、大事にしたくなかった。
でも、今は先輩がいる。
大事な人ができて、いつもの希死念慮は減ってきていた。
全く無くなった訳じゃないけど。
僕のベルトのバックルに手をかけた先輩は、悲しそうな顔に見えた。
頭の中で色々考える。
まず、勃ってるし。もちろん、股間やお尻にも傷はある。なんて思われるのか…。
そして、悲しそうな顔をしてくれる先輩。
多分、僕を大事に思ってくれたから、悲しそうな顔をしている。その事への感謝。
「先輩、今日はありがとうございます。あと、、先輩…。ほんとに、ほんとに、大好きです。」
少しでも感謝の気持ちが伝わるといいな。
「山田くん、大好き。」
いつのまにか僕のズボンを半分脱がせた先輩が、スクっと立ち上がって、僕のことを抱きしめてくれた。
「背中の傷、よく見ると新しいね。さっき触って大丈夫だった?」
「大丈夫です。あんまり痛覚ないんです、僕。」
実際に、僕はあまり痛みを感じない人間だった。
「俺の前では強がらないでね。弱音いっぱい吐いていいからね。」
先輩は本当に優しい。
僕は、上を見上げて先輩と目を合わせた。
その動きに悟った先輩は、僕に唇が深く重なるキスをしてくれた。
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