隠し事にしようよ

本野汐梨 Honno Siori

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放課後の2人【有希】

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 これほどまでに、授業の終わりを待ち望んだことは無い。


 先輩からの置き手紙を見て、僕は先輩の事ばかりを考えて過ごした。


 蓮也先輩は、僕を待っててくれるみたい。

 あんなに冷たくしちゃったのに。


 先輩の事で胸がいっぱい…。
 もう、息をするのも苦しいくらい。



 放課後になるとすぐに、生徒会室に走って行った。



 他の学年に比べたら1年生の校舎からは、1番近いはずなのに、ものすっごく遠く感じた。


 もちろん、先輩より早く、生徒会室に着いてしまった。




 生徒会室には、もちろん誰もいない。

 僕は、中で待ってられなくって、ドアの前で、キョロキョロしながら先輩を待った。

 階段が2ヶ所あるから交互に見て、先輩の姿を探す。

 それから、階段を登ってくる足音がしないか耳を澄ませていた。



 1階に部活動生がきているなら、昼休みに比べるとかなり騒がしい。


 それでも3階まで登ってくるような変人はいない。



 気づけば、20分くらい経っていた。




 トン、トン、トン、トン…




 無機質なコンクリートの校舎に響き渡る。
 誰かの足音だ。


「先輩!」


 僕は、音のする方向の階段に走っていって、階段を上から覗いた。


 もう先輩はすぐそこまできていた。


 僕は階段を駆け降りる。


 先輩は、両手を広げて待ってくれていた。

 僕は、迷う事なく、先輩の胸へと飛び込んだ。


 先輩の広い胸が、僕の小さい体を包み込んでくれる。


 誰も居ないのをいいことに、先輩はそのまま僕を抱えて残りの階段を登る。


「山田くん、会いたかったよ。」


「先輩、僕も会いたかったです…。」


「蓮也って、呼んでよ。たまにはさ。この前、ちょっと呼んでくれたでしょ?ね?」

 僕は頷く。


「蓮也先輩、会いたかった。」



 蓮也先輩の胸に顔を埋めたまま、僕は先輩の言葉に答える。


 恥ずかしくって、ほとんど名前も呼んだこと無かったな。


「先輩、大好き。」

「『蓮也』、先輩でしょ?」


「蓮也先輩、会いたかった…。」


「俺も会いたかったよ。」


 結局、僕は蓮也先輩に抱っこされたままで、生徒会室に入った。


 誰も居ない教室で、蓮也先輩はギュッと僕を抱く腕に力を込めた。僕も蓮也先輩に抱きついている腕に力を込めた。

 蓮也先輩が、僕を抱えたままで、生徒会室のドアの内側から鍵をかけた。

 ガシャン、と大きな音が教室に響き渡った。

 これで本当に2人っきりだ。

「山田くん、きてくれてありがとうね。」


「蓮也先輩も、置き手紙してくれてありがとうございました。」


 本当は、もう会うつもりはなかった。

 その一方で会いたくて会いたくてたまらなかった。



 僕を、抱き抱えたまま、蓮也先輩は教室の端っこに向かう。

 屈んで、僕を床に下ろす。
 すぐに蓮也先輩自身も覆い被さってきた。


 この角度ならば、もし廊下を通る人がいたとしても絶対に見つからない。


 僕たちは、そっとキスをした。



 そっと触れるキスを、長く長く続けた。


 先輩の温かい唇が、僕の唇を優しく温めるように、少しずつ角度を変えながらキスをしてくれた。


 やがて、キスは少しずつ深くなる…。
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