隠し事にしようよ

本野汐梨 Honno Siori

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バイト中にも考えてます…[有希]

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 先輩の住む場所。
 胸が高鳴る。

 先輩、もしもこの建物の中にいるのならば、出てきて。
 ひと目でいいから会いたいよ…。
 先輩、大好き…。

 先輩は、今何をしているんだろう?

 急いで仕事を終わらせないといけないのに、ポスティングする手に力が入らない。


 いつの間にか汗でぐっしょり濡れた額を手の甲で拭いながら、集合ポストの奥にある階段をチラッと見てみる。

 もちろん、誰もいない。

 その代わり、初夏の日差しが、どこからか漏れて僕を照らしていた。

 もうすぐ夏になるんだなぁ、と今更ながら思った。
 もう、6月に入ろうとしているのに。
 僕は夏の気配に気づきもしなかった。

 きっとこの夏は、先輩と最後に過ごす夏になるんだろう。

 もっと、最初っから、先輩と一緒にいる時間を作っておくべきだった。
 時間を大切にしておきたかった。

 先輩が卒業したらもう会えないのに…。


「先輩が降りてきたらいいのに。」


 集中できていない僕は、気がつけばポスティングしている手を止めて階段を見つめていた。



 僕の知らない先輩。
 知らないことの方が多い。

 先輩の事もっと知りたいなぁ。


 今日は、先輩の事で頭がいっぱい。
 胸も苦しくて、息がしずらい。
 これが、恋してる時の症状か…。

 こんなに辛い病気なら罹りたくなかった。

 なんて事考えて、先輩の住む部屋のポストにもちゃんとチラシを入れた。

 エントランスを出てから、もう一度だけ階段を見て、先輩が降りきていないか見てみたけど、そんなに虫のいい話はなかった。

 あーあ、もし僕が恋愛ドラマの主人公だったら、今この瞬間に先輩がひょっこり現れるだろうに。

 現実世界の辛さに打ちひしがれながら、僕はバイトに戻った。



 そこから1時間ほどして、やっとポスティングが終わった。


 もっとサクッと終わらせる予定だったのに。


 僕は、終了の連絡を事務所に入れて、学校から3キロほどの距離がある自宅に直帰した。


 窓を閉め切っている部屋の中は蒸し暑かった。
 とりあえず、窓を開けてみると、北向きの部屋だから、初夏なのに冷たい風が入ってきた。

 僕は服を着替えて、ご飯を買いに行くつもりだったけど、そんな気力はもう残っていない。


 服を脱ぎ捨てて、散らかった部屋の畳に寝っ転がる。
 北からの風が冷たくて涼しい。

 
「先輩、会いたいです。また、シテ、欲しい。」


 どうしても、先輩の家での出来事が忘れられない。

 忘れようとしているけれど、忘れたいけれど。忘れようと意識すればするほど、余計に先輩の事を思い出して恋しくなる。


 外気温で高くなっていた体温が、風に晒されて汗でどんどん冷めていく。

 それなのに、一部だけ、熱を持ち始めた部分があった。


 触ってもいないのに、体の中心にある棒がそそり立ってしまう。

 先輩の事を考えていただけで。

 僕は、そんな自分が気持ち悪くて仕方がなかった。


 でも…



 そそり立つ棒をそのままにする事もできずに右手を伸ばす。


 ズボンの上から上下に撫でるように擦る。

 布が擦れて気持ちが良かった。

「はぁ…。先輩…。好き。」

 吐息混じりに先輩を呼ぶ。

 届かないと知っていても。

「蓮也先輩、好きです…。」


 僕は、先輩への想いを吐き出すのと同じように、トランクスの中に、白い液を吐き出した。

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