5 / 66
先輩の家[有希]
しおりを挟む急なお誘いだったけれど、僕は間髪入れずにオッケーしてしまった。
先輩、なんのつもりだろう。単純に暇だったとか?優しいから?先輩と僕はまだお互いの家を行き来するような中じゃない。
それに、よくよく考えたら父親になんて言えばいいだろう。
色々考えているうちに今日の生徒会はたった30分で終わってしまった。
たった、30分の会の間に、僕は色々なことを考えた。
一番の問題は父親だけれど、それはなんとかしよう。
それと、今日はバイトの日だ。バイトの後でもいいか先輩に聞かなくっちゃ。
生徒会が終わるとすぐに、先輩は僕に話しかけてきた。
「このまますぐに来る?それとも、着替えとか取りに行く?」
「今日、バイトなんです。だから、着替えとか取りに帰って、19時くらいなら…。」
父親には黙って出かけることに決めた。きっと殴られる。それで済めばいけれど…。
「じゃあ、19時に校門の前に集合でいいかな?」
「わかりました。19時に校門に向かいますね。」
僕たちは一旦解散して、僕はそのままバイトに向かった。
************
バイトを終えて、家に戻った。バイトさえなければ、もっと早く先輩の家に行けたのに。もっと長く先輩と一緒にいられるのに。
バイトを早く終わらせるために、僕は全力でチラシ配達用の自転車を漕いだ。だから、いつもよりも早く配達が終わった。家に帰って、荒れた部屋をかき分けて、なるべく綺麗な下着とパジャマになりそうなシャツをカバンに詰めた。
先輩の家で何するんだろう。
ご飯とかどうするんだろう。
今まで、誰かの家に泊まる経験なんてなかったから、何を持っていけばいいか分からない。
適当に、タオルなんかもカバンに詰め込んだ。
時間ぴったりに先輩は多分来ていた。
僕はちょっと遅れてしまった。
謝ると、気にしないで!と笑顔で言われた。
先輩、優しいなぁ。
学校からすぐ近くの場所に先輩が住んでいるアパートはあった。
綺麗なワンルームの部屋に、小さいキッチンがあって、奥には参考書が並んだデスクに、低めのベッドが並んでいる。真ん中には小さなローテーブルもあった。シンプルな部屋の作りだった。
「そこ座って!」
先輩に誘導されて、僕はローテーブルの前に座った。
「お腹空いたでしょ?カップラーメン好き?」
「好きです、カップラーメン」
先輩が、キッチンの棚をガサゴソと漁りながら尋ねてきた。
「シーフードと、カレーと醤油、どれが好き?」
そう言って、棚から取り出した3つのラーメンを見せてくれた。
バイトにも行ったし、確かにお腹はペコペコだ。
でも、ご馳走になっていいのかな?
「先輩、あんまり気を使ってもらわなくても大丈夫です。」
先輩に迷惑かけたくない。
僕は、最初にきっぱり断りを入れた。
「いいの!俺が君のこと大事にしたいんだよ?」
大事?
大事って何が?僕を?
それってどういう意味なんだろうか…。
先輩は、せっせと鍋に水を入れて、IHに火をつけてお湯を沸かし始めた。
そして、先ほどカップラーメンを出した棚から今度はポテトチップスを取り出して袋を開いて、テーブルの上に広げた。
「これもどうぞ。」
先輩に勧められるがまま僕はポテトチップスに手を伸ばした。
「実は今日はね、君に色々と言いたいことがあってさ。それでうちに呼んだんだよね。」
「言いたいこと、ですか?」
戸惑いながら僕は尋ねる。聞きたいことならわかるけれど、言いたいことってなんだろう?
僕、先輩になんかしたっけ?
「山田くんに言いたいこと、色々とあるんだよね。」
「はあ…。」
「うまく言えないけれど、辛いことあったりしない?腕の痣、どうしたの?」
辛いことなんかいっぱいありすぎて、先輩が何を聞きたいのか分からなかった。
僕がコミュ障だから、先輩は心配してくれているのかな?学校でいつもひとりぼっちだから、いじめられてるとか思われてるのかもしれない。
「先輩が何を言いたいか正直わかんないです。でも、そんなに辛いことはないかな。最近は、先輩が優しくしてくれますし。」
「本当に?」
「本当です…」
たとえ本当に辛いことがあったとしても、先輩には言えないかな。
だって、暗い人間だと思われたくない。
先輩と同じように明るい人間だった思われたい、先輩に近づきたい。
「山田くん、親御さん達と暮らしてるんだよね?仲良いの?」
「母はいないので、父と一緒に暮らしてます。仲良しではないですけど。」
ここで、僕は先輩が何を言いたいのかわかってしまった。
たしかに僕は、体のあちこちに傷や痣がある。
そんなには目立たないけれど。
この痣を見た先輩は、僕が親からDVを受けているんだと察したんだと思う。それは事実だし、心配してくれるのは嬉しいけど、高校生の僕らにどうしようもないことだ。
「先輩、心配してくれるのは嬉しいけど、先輩には関係のないことだし、心配しなくて大丈夫ですよ。僕、頑丈なんで。」
「ごめん…。余計なお世話だよね…。」
しまった、先輩を落ち込ませてしまったみたいだ。
でも、本当にどうしようもない。
「先輩、ありがとうございます。心配してくれたんですよね?」
「うん、本当に辛くないの?」
先輩はなぜか目を潤ませて、その潤んだ目で僕の目を真っ直ぐ見ている。
「心配しないで…。」
先輩のせいで僕も涙がちょっと出てきてしまった。
本当は辛いよ。
助けて欲しい。
でも、ここに気づいてくれた人がいるだけで嬉しい。優しい声をかけてもらえただけで嬉しい。
それに、今は、先輩が近くにいてくれるだけでとっても幸せなんだ。
お湯が沸いていることに気がついた先輩はカップラーメンにお湯を注ぎ始めた。
2
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。

いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.

風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる