隠し事にしようよ

本野汐梨 Honno Siori

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先輩の家[有希]

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 急なお誘いだったけれど、僕は間髪入れずにオッケーしてしまった。

 先輩、なんのつもりだろう。単純に暇だったとか?優しいから?先輩と僕はまだお互いの家を行き来するような中じゃない。
 それに、よくよく考えたら父親になんて言えばいいだろう。
 
 色々考えているうちに今日の生徒会はたった30分で終わってしまった。

 たった、30分の会の間に、僕は色々なことを考えた。

 一番の問題は父親だけれど、それはなんとかしよう。
 それと、今日はバイトの日だ。バイトの後でもいいか先輩に聞かなくっちゃ。


 生徒会が終わるとすぐに、先輩は僕に話しかけてきた。

「このまますぐに来る?それとも、着替えとか取りに行く?」

「今日、バイトなんです。だから、着替えとか取りに帰って、19時くらいなら…。」

 父親には黙って出かけることに決めた。きっと殴られる。それで済めばいけれど…。

「じゃあ、19時に校門の前に集合でいいかな?」

「わかりました。19時に校門に向かいますね。」



 僕たちは一旦解散して、僕はそのままバイトに向かった。



 ************



 バイトを終えて、家に戻った。バイトさえなければ、もっと早く先輩の家に行けたのに。もっと長く先輩と一緒にいられるのに。

 バイトを早く終わらせるために、僕は全力でチラシ配達用の自転車を漕いだ。だから、いつもよりも早く配達が終わった。家に帰って、荒れた部屋をかき分けて、なるべく綺麗な下着とパジャマになりそうなシャツをカバンに詰めた。

 先輩の家で何するんだろう。
 ご飯とかどうするんだろう。

 今まで、誰かの家に泊まる経験なんてなかったから、何を持っていけばいいか分からない。
 適当に、タオルなんかもカバンに詰め込んだ。


 時間ぴったりに先輩は多分来ていた。
 僕はちょっと遅れてしまった。

 謝ると、気にしないで!と笑顔で言われた。
 先輩、優しいなぁ。





 学校からすぐ近くの場所に先輩が住んでいるアパートはあった。

 綺麗なワンルームの部屋に、小さいキッチンがあって、奥には参考書が並んだデスクに、低めのベッドが並んでいる。真ん中には小さなローテーブルもあった。シンプルな部屋の作りだった。

「そこ座って!」

 先輩に誘導されて、僕はローテーブルの前に座った。

「お腹空いたでしょ?カップラーメン好き?」

「好きです、カップラーメン」

 先輩が、キッチンの棚をガサゴソと漁りながら尋ねてきた。

「シーフードと、カレーと醤油、どれが好き?」

 そう言って、棚から取り出した3つのラーメンを見せてくれた。

 バイトにも行ったし、確かにお腹はペコペコだ。
 でも、ご馳走になっていいのかな?

「先輩、あんまり気を使ってもらわなくても大丈夫です。」

 先輩に迷惑かけたくない。

 僕は、最初にきっぱり断りを入れた。

「いいの!俺が君のこと大事にしたいんだよ?」

 大事?

 大事って何が?僕を?

 それってどういう意味なんだろうか…。

 先輩は、せっせと鍋に水を入れて、IHに火をつけてお湯を沸かし始めた。

 そして、先ほどカップラーメンを出した棚から今度はポテトチップスを取り出して袋を開いて、テーブルの上に広げた。

「これもどうぞ。」

 先輩に勧められるがまま僕はポテトチップスに手を伸ばした。

「実は今日はね、君に色々と言いたいことがあってさ。それでうちに呼んだんだよね。」

「言いたいこと、ですか?」

 戸惑いながら僕は尋ねる。聞きたいことならわかるけれど、言いたいことってなんだろう?
 僕、先輩になんかしたっけ?

「山田くんに言いたいこと、色々とあるんだよね。」

「はあ…。」

「うまく言えないけれど、辛いことあったりしない?腕の痣、どうしたの?」

 辛いことなんかいっぱいありすぎて、先輩が何を聞きたいのか分からなかった。
 僕がコミュ障だから、先輩は心配してくれているのかな?学校でいつもひとりぼっちだから、いじめられてるとか思われてるのかもしれない。

「先輩が何を言いたいか正直わかんないです。でも、そんなに辛いことはないかな。最近は、先輩が優しくしてくれますし。」

「本当に?」

「本当です…」

 たとえ本当に辛いことがあったとしても、先輩には言えないかな。
 だって、暗い人間だと思われたくない。
 先輩と同じように明るい人間だった思われたい、先輩に近づきたい。

「山田くん、親御さん達と暮らしてるんだよね?仲良いの?」

「母はいないので、父と一緒に暮らしてます。仲良しではないですけど。」

 ここで、僕は先輩が何を言いたいのかわかってしまった。

 たしかに僕は、体のあちこちに傷や痣がある。
そんなには目立たないけれど。
 この痣を見た先輩は、僕が親からDVを受けているんだと察したんだと思う。それは事実だし、心配してくれるのは嬉しいけど、高校生の僕らにどうしようもないことだ。


「先輩、心配してくれるのは嬉しいけど、先輩には関係のないことだし、心配しなくて大丈夫ですよ。僕、頑丈なんで。」

「ごめん…。余計なお世話だよね…。」

 しまった、先輩を落ち込ませてしまったみたいだ。
 でも、本当にどうしようもない。


「先輩、ありがとうございます。心配してくれたんですよね?」

「うん、本当に辛くないの?」

 先輩はなぜか目を潤ませて、その潤んだ目で僕の目を真っ直ぐ見ている。

「心配しないで…。」

 先輩のせいで僕も涙がちょっと出てきてしまった。

 本当は辛いよ。
 助けて欲しい。

 でも、ここに気づいてくれた人がいるだけで嬉しい。優しい声をかけてもらえただけで嬉しい。

 それに、今は、先輩が近くにいてくれるだけでとっても幸せなんだ。


 お湯が沸いていることに気がついた先輩はカップラーメンにお湯を注ぎ始めた。



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