隠し事にしようよ

本野汐梨 Honno Siori

文字の大きさ
上 下
3 / 66

一目惚れ[有希]

しおりを挟む
「俺、三年の川中 蓮也かわなか れんや一応生徒会長してるから、よろしく」
 イケメンが爽やかにおしゃべりを始めた。
 僕は、目の前のイケメンに気を取られて、何にもしゃべれずにいた。もともと、コミュ障なのでしゃべるのとか苦手なんだけど。




 僕は、なんか上手く言えないけれどキラキラしている人が苦手だ。例えば、目の前にいるこの生徒会長。それなのに、胸がいつもと違うざわつきを感じていた。





 僕は、この感覚を知らなかった。けれど、直感で『この人のこと好きだ。』って思った。そして、悟った。一目惚れというやつなんだろう、と。



 




 どうすればいいのか、全くわからない。しかし、この無言の気まずい雰囲気を打破しなければならない。
 そもそも、先輩が自ら自己紹介をしてくださったにも関わらず、僕はまだ自己紹介が済んでいない。自己紹介くらいしなきゃ。いきなり感じが悪くないか?


「はじめまして…」


 いくらコミュ障だからって自己紹介くらいいつもできるのに。心臓がバクバクしすぎて、上手く声が出なくて、変な声が出てしまった。


「名前は?なんて言うのか教えてよ。」


「あ、、、、。あの…。僕、山田 有希やまだ ゆうきって言います…」

「そうか。じゃあ、山田くんね。
これから短い間だけど、よろしくね!!」

 親しげな笑顔でこちらを見てくる。顔が熱くなった。

 もっとこの人と親しくなりたい、そう思うのに上手く言葉が出てこない。そんな自分が嫌いだ…。

「今日は、特に席とか決まってないから、ここに座らない?」


 自分が座っている席の隣を示しながら声をかけてくれる。

 本当は隅っこに座っておくつもりだったけど、仕方がない。
 僕は、それに従うしかなくって、その人の横に座った。

「山田くんは、どこ中の出身?」

「僕、第二です」

 僕の住んでいる地域は、第一から第四まで中学校がある。ここの高校に通っているのは、ほとんど4つのどこかの中学校の出身者だ。
 そして、第二が1番ここから近いので1番人数も多い。

「へぇー、じゃあ1番近いとこだ!俺、離島出身なんだよね。近いの羨ましいわぁ。」

 僕のクラスにも、自己紹介で離島の出身ですって人がいたな。ここは、近隣の離島から1番近い公立高校だから、離島出身の人数も多いのか。
 

 そう。
 ちなみに、よく都会では私立が優遇されると聞くけれど、地方では公立高校至上主義的なところがある。少なくとも僕の地域は。
 そして、離島も例外ない。

「島に高校はないんですか?」

 少し場の空気に馴染んできたのか、ちょっとだけ声を出すことができた。

 急に自分に自信が湧いてくる。このまま上手い事、言葉を発することができたら、この場を乗り切ることができるかもしれない。


「島にもあるけど、普通科じゃないんだよね。親に普通科に行って大学に進学しろって言われててさ。」


 そうか、この人は大学に行くとつもりなのか。まだ、出会って数分だけど、好意を寄せている人のことがちょびっとだけ知れた気がした。素敵な御両親の元でスクスク育った事が、こぼれ出る笑顔から容易に想像できた。



「君さ、ちょっと書記とかに興味ない?」


「書記…ですか…?」



「そう。次の生徒総会の書記。1年か2年生に頼もうと思ってたんだけど。俺が忙しくってまだ頼む人が決まってないんだよね。」

 急すぎる…。

 いやだ。
 とは言えない…。


「係になると、総会前日の設営とかもしてもらわなきゃなんだけど。部活とかやってなければ頼めないかな?部活やってる?」


「部活、してないです。」




 そうか、みんな部活が忙しいのか。それなら、部活をしていない僕にはぴったりだ。
 この人と、ほんの少し時間を共有したくって、「大丈夫です。できます。」とだけ答えた。

「助かる!!!!ありがとう!」

 にっこり素敵なスマイルで笑いかけてくれた。少しは、この人のためになれたかな?


「ちなみに、今後も色々と話し合いがあるんだけどさ。書記、お願いできる?」

 僕はもう頷くしかなかった。

 今後、僕は書記として働くことが決定してしまったらしい。


 その後、続々と人が集まって生徒総会の議題について話し合った。
 生徒会に所属している僕らはもちろん、各学級の委員長なんかも集まった。結構な人数になっていた。

 みんな、話し合いには積極的で、学校の課題が色々と発言されて議題になりそうなことが無限に出てきた。
 けれど、みんな話し合いが得意で最終的には議題はいくつかに収まった。


 僕は、始終黙っていた。

 それでも、先輩は「お疲れさま。ありがとうね。」と柔らかい笑顔で微笑んでくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

星蘭学園、腐男子くん!

Rimia
BL
⚠️⚠️加筆&修正するところが沢山あったので再投稿してますすみません!!!!!!!!⚠️⚠️ 他のタグは・・・ 腐男子、無自覚美形、巻き込まれ、アルビノetc..... 読めばわかる!巻き込まれ系王道学園!! とある依頼をこなせば王道BL学園に入学させてもらえることになった為、生BLが見たい腐男子の主人公は依頼を見事こなし、入学する。 王道な生徒会にチワワたん達…。ニヨニヨして見ていたが、ある事件をきっかけに生徒会に目をつけられ…?? 自身を平凡だと思っている無自覚美形腐男子受け!! ※誤字脱字、話が矛盾しているなどがありましたら教えて下さると幸いです! ⚠️衝動書きだということもあり、超絶亀更新です。話を思いついたら更新します。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...