短い怖い話 （怖い話、ホラー、短編集）

ぬりかべ

　もう30年ほど前に亡くなったおばあちゃんから聞いた話。



　おばちゃんが、まだ田舎の山の中に住んでいた子供の頃の話。


　おばあちゃんは、そのまたおばあちゃんと一緒に山の中で山菜採りをしていたそうなんだけど、山菜採りに夢中になっている間に、おばあちゃんのおばあちゃんとはぐれてしまったみたい。


　パニックになったおばあちゃんは、自分がどこにいるのか全くわからなくなってしまい、より、山の深い場所にどんどん入っていったしまったそうだ。


　1時間位、山の中を歩き続けていると、白い壁にぶつかった。

　視界いっぱいに広がる白い壁のせいで、おばちゃんはこれ以上先に進むことができないと思ったらしい。
　それと同時に、これがおばあちゃんの住んでいた地域でよく語られていた山の中に住む妖怪であることを察した。

　おばあちゃんは、この妖怪が【ぬりかべ】であるとすぐにわかったそうだ。

　おばあちゃんの住む地域にいる【ぬりかべ】という名前の妖怪は、その名の通り大きな壁の妖怪であまりにも大きいので全貌は見えない。

　そして、【ぬりかべ】は、人間達に大きな悪さをする事は無い。
　むしろ、人間が立ち入ってはならない、山の深い場所に行くのを防いでくれている、とおばあちゃんは、そのままおばあちゃんから聞かされていた。


　そこで、おばあちゃんは山のかなり深いところに来てしまっていると考えて、ぬりかべのよる方向と全く逆の方向に走り出した。


　2時間位フラフラと歩いていたら、遠くからおばあちゃんのおばあちゃんがおばあちゃんを呼ぶ声がしたそうだ。
　その声の方向に向かって歩いて行ったことによって、おばあちゃんはおばあちゃんと再会することができた。

　つまり、ぬりかべのおかげで、おばあちゃんは山で遭難することがなく、無事に生きて戻ることができたのだ。



　妖怪とは、悪さをするものだと思われがちだが、私はそう思わない。妖怪は、長い間、人間と共存してきたものだと思っている。