120 / 123
廃墟
しおりを挟む仕事も恋愛もうまく行かなくって、愛車のスポーツカーで夜中にドライブに行った。
俺が住んでいる地方都市から2時間弱車を走らせると、周りは田んぼだらけの田舎の道に入った。
気がつくと、農道というのだろうか。車一台しか通ることができない様な一本道に入ってしまった。さすがに、どこかでUターンして、帰路につこうと考えた。
しばらく車を走らせると、ちょうどいい感じの空き地があった。どうやらそこは、民家の敷地の様だ。空き地だと思ったのは広い庭でその奥の方に小さな一階建ての家がある。よく見ると、窓ガラスは割れて玄関のドアがなく、古びたビニールテープを家中に張り巡らせていた。廃墟の様だ。
これは都合がいい。ここでUターンさせてもらおうと、車を頭から突っ込んだ。
車のヘッドライトに照らされた廃墟の一軒家の中。何か動いた気がした。
もちろん気のせいだと思った。
でも、その時の俺どうかしてて、廃墟探索をしてみたいと思った。
車を降りて、廃墟に進む。
割れた窓から難なく中に入れた。狭い家で、床にはボロボロの畳がところどころあるけど、畳の下の板が丸見えになってて、踏むとギシギシと嫌な音がした。
スマホの小さなライトの灯りでかろうじて、5メートルくらい前方は見える。
俺は、奥へ奥へと暗い中を進んだ。
床が、ギシリキシリと嫌な音を立てて軋む。
真っ暗な中、もし床が抜けたりでもしたら…。
嫌な想像で怖いと感じたが、今更後戻りする気もない。
ゆっくりとすり足で前に進んだ。
割れた窓ガラスから冷たい風が、廃墟の中を吹き抜けると、ちょっと焦げ臭い匂いがしてきた。
奥の方からだ。
なんだか至る所から匂いがしてきた。
鼻が曲がりそうな焦げ臭い匂い。
焦げた焼肉みたいな匂い。
家中が臭い気がしてきた。
「これ、台所的なやつか?」
スマホの弱々しいライトでははっきり見えないのだが、今いるところよりも一段低くなっている場所がある。
いわゆる、土間というやつだろうと思った。
いまだに、焦げた様な匂いがしていた。
しかし、別に燃えている様なものはなさそうだった。
(でも、どうやらここじゃないな。)
燃えている匂いはするのだが、こっちの方向じゃなかったみたいだ。
なんだか、もっと別のところから匂いがきてきた。
スマホのライトでぐるりと見回す。
蜘蛛の巣に埃がかぶっている。もはや、蜘蛛すら住んでいないみたいだ。
ふと、「何してるんだろう…。」と思い、早く帰りたくなった。
踵を返して、元の来た道を戻ることにした。
振り返る。
スマホのライトで照らした先に動く物があった。
黒い物体が動いている。
「ヒィぃぃぃっ」
急な出来事に、気が動転して動けなくなった。
驚いて、後ろに退く。
黒い物体が近づいてくる。
その黒さは、炭みたいだ。
動いている=生きてる、と感じた。
実際はどうかわからない。
1.5メートルくらいのそれは、ゆっくりゆっくり動いていた。
さっきまでいた場所に、あんな化け物がいる。その現実が受け入れれない。
気づかれない様に一歩一歩退く。
足音を立てない様に、床を軋ませない様に。
少しずつ進む。
「あっっっ!!」
やばいと思った時には、ダメだった。
足を踏み外して、土間に頭から…。
黒い物体が、音に反応してこちらに向かってきたのが見えた…。
************
気がつくと、周りがなんだか明るい。
廃墟の中にいると気がつくまでに時間がかかってしまった。
頭から痛い。
ひとまず起き上がると、頭を触っていみた。
頭からちょっとだけ血が出ていた。それに腫れている。
(土間に落ちちまったのか…。)
それになんだかまた、焦げ臭い。
自分から焦げ臭い匂いがした。
身体中に、灰色の物がついている。
「すみ…?」
どうやら、土間は炭だけでそれが身体中についたらしい。
いや、そう言えば昨日見た黒い物体。あれ、炭だったんじゃ無いか?
なんとなくそう思った。
ひとまず、逃げる様に廃墟を出た。
昨日は気が付かなかったが、この廃棄、火事があったのか所々が焼けこげている。
よく、崩れずに建ってられるな。
外に出るとかなり明るい。外観も焦げている。
意外と冷静だったのでさっさと車に乗り込んで逃げ帰った。
昨日見た黒い物体。
あれ、確実に炭だったよな。
焼けこげた、人間?
廃墟に住む幽霊?
廃墟の念が詰まった妖怪?
あの焼けこげた廃棄に住んでいるから、アレも焦げてるのか?
今思い出すと、色々な可能性があるが、あんまり思い出したく無い体験だ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
66
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる