短い怖い話 （怖い話、ホラー、短編集）

ぶら下がり健康器

　

　みなさんご存知であろう、全国チェーンの中古ショップで、ぶら下がり健康器を購入しました。


　前々から試しては見たかったのですが、新品だとちょっと高過ぎるので中古で試してみることにしました。


　最初は、デスクワークの疲れが吹き飛んで、肩こりの調子がよくなってきて感動していました。

　けれど、購入してから時間が経つうちに、家内が夜中にぶら下がり健康器から「うーうー」といったような奇妙な音がすると言うのです。

　私には全く聞こえませんでしたが…

　家内が言うには、夜になると、頻繁に音が聞こえると話していました。
　気味が悪い音だから、処分して欲しいと催促されていましたが、私にはとっても素敵な健康器具にしか見えていませんでしたので、手放してしまうつもりなんて全く有りませんでした。

　私には全く聞こえませんでしたが…
　

　でも、このぶら下がり健康器を購入して結構時間が経った頃でした。多分、半年くらい経っていた頃かと思います。

　家内は、音が段々と大きくなっていると私に訴えてきていました。
　この頃には、私もごく稀に音が聞こえることが有りました。
　私は、音が聞こえても、きっと、金属が擦れ合って音がなっているだけだと思っていました。
　だから、のちにあんなことになるなんて思っても見なかったのです。
　
　音に耐えかねた我々は、そのうち耳栓をしてぶら下がり健康器からは遠い部屋に寝るようになってから、音がしなくなったと言っていました。私も、音がしなくなっていたので、ぶら下がり健康器から声が聞こえていたことなんて、いつの間にか忘れていました。

　
　そして、ぶら下がり健康器を購入してから、やがて一年がたとうとしていた頃でした。
　ぶら下がり健康器を処分することになったきっかけの出来事が起こりました。
　事件が起きたと言っても過言ではないでしょう。


　その日も、仕事が終わって帰宅した私は、ぶら下がり健康器の上部の棒をしっかりと両手で掴んで、体を脱力させて、ぶら下がっていました。いつもの肩こり解消のための動きです。

　しかし、突然私は首をぎゅうっと締め付けられて息ができなくなりました。
　喉に、何かが詰まった時とは全く異なる感覚でした。
　明らかに喉の部分に、外部から圧力をかけて締められている感覚だったのです。

　驚いた私は、健康器から手を離してしまし、受け身が取れずに、そのまま床に落下してしまったんです。

　落ちてしまってからも、息をすることができずに、首を掻きむしりました。
　掻いても掻いても、首を何かに締め上げられて、息ができません。

　大きな音に気がついて駆けつけてきた妻が言うには、私は首を掻きむしりながら、床をのたうち回っていたそうです。

　私は、次第に意識を失ってしまいました。
　意識を失った私が、次に目を覚ましたのは、病院でした。
　
　救急車で運ばれた私は、腰を激しく打ってしまって、数日起き上がれないような状態でした。
　それ以上に、首にひどい傷ができてしまいました。

　私は、突然首を締め付けられるなんて、ひどい病気ではないかと思いました。
　私は、なんとかして原因を突き止めようと病院で色々な検査を受けました。

　しかし、妻は違いました。

　「私、あなたが幽霊に首を締められているのを見たの。きっと、あのうめき声の人よ。」
　こういって聞かなかったのです。
　妻は、明らかに生身の人間では無いとわかる男に、首を締められている様子をはっきり見たと言うのです。

　病院では、なんの異常もなかったので　妻の意見を取り入れることにしました。
　私は、原因を突き止めたい思い出必死でした。

　妻は、巷で有名な霊能者を連れてきました。

　霊能者は、うちに来てすぐに私と妻を交互に見ながらこう言いました。
　「自殺した男の霊が、ご主人を殺したがっています。その霊は旦那さんと、霊が恨んでいる人物と重ね合わせているんです。だから、ご主人を狙っているのです。今すぐに除霊が必要です」

　そう言って、「あの部屋に幽霊はいます。」そう言ってぶら下がり健康器のある部屋を指さしました。

　妻が、霊能者をその部屋に案内しました。

　霊能者は、「この器具で男が首を括って死んでいます。それも、かなり強い恨みの気持ちを持ちながら。」

　妻は、不安そうに霊能者に、ぶら下がり健康器をどうすればいいのか、と尋ねました。

　すると、「この札を貼って捨てなさい」と言って神社で売ってそうな紙札が、を取り出して言いました。

　私は、ぶら下がり健康器から落ちたことがトラウマで、すでに使っていなかったので、翌日には引き取り業者を呼んで、すぐに処分しました。

　それ以降、私たち夫婦は健康に過ごしています。私は霊能者が来た後も、しばらくは病気では無いかと疑っていましたが、あの時以降息が苦しくなるなんてことも有りません。
　本当に、幽霊に殺されかけたのかもしれません。