短い怖い話 （怖い話、ホラー、短編集）

包丁

　兄の話です。

　兄は、元々元気いっぱいおしゃべり大好き！って感じの人でした。人懐っこい性格で、高校卒業後に就職した工場でも上司にいろんな物を奢ってもらったりお下がりで貰ったりしていて、職場ではとても好かれている様子がよくわかりました。


　しかし、工場で働き始めて10年以上の月日がたった頃、徐々に頭がおかしくなっていきました。

　精神科で統合失調症と診断されたのです。


　私も兄も、高卒で働き始めましたが、就職先が実家の近くだったので、実家暮らしを続けていました。


　そして、ある日。

　何の気なしに、リビングに行きました。うちは、普通の一戸建てでキッチンとリビングはつながっています。


　兄は、キッチンで私の方に背を向けてインスタントコーヒーを作っていました。ティファールでお湯を沸かしながら、瓶を傾けて粉をマグカップに注いでいます。


　「あ、そういえばさ」

　と普通な感じで話しかけてきた兄。

　振り向くと、おでこに果物ナイフが刺さっていました。


　まるで、おでこからナイフが生えているかの様。

　しかし、兄は平然と私に話しかけてくるんです…

　「この前がした漫画返してくれない？俺も読みたいんだけど。」

　痛みを感じないのか？
　そもそも、何故おでこに果物ナイフを刺したのか？

　精神を壊す事ほど恐ろしいものは有りません。