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藻
しおりを挟む彼女と海に行った時の話です。
それは、蒸し暑さが残る八月のある日のこと。
その日は、ドライブデートで日中にいろんなところに行ったんです。道の駅でアイスを食べたり、お気に入りのパン屋さんに行ったり、パワースポットの神社に行ったり…最後は、地元から車で1時間半ほどの場所に有る小洒落たカフェで夕食を食べました。そのまま解散でもよかったのだけど、まだ付き合いたてで、お互いに離れるのが惜しいのでカフェから近い海岸に行くことにしました。
2人で砂浜に体育座りしてお喋りを続けてたんです。気がつけば、話が尽きずもう1時間程砂浜にいました。
「そろそろ帰らなきゃね。」
彼女がポツリとつぶやきました。
僕も同意見でしたので、さっさと帰ることになぜなら、彼女は実家暮らしで日付が変わる前には帰らないといけなかったんです。彼女の両親はかなり門限に厳しいらしく、少し前に門限に間に合わず、彼女の父親に僕もかなり絞られたのです。
それに、結婚するつもりの真剣な付き合いだったので、彼女の両親に認めてもらうために、今は門限を守っておこうと考えていました。
僕らは、駐車場のある港に向かって歩いていました。港と言っても小さな小さな田舎の港です。たまに釣り人がいますが、今日は船も釣り人もいませんでした。
砂に足を取られながら2人でゆっくりと歩いてやがて、港につきました。海の方に頭を向けて車を停めていたので、運転席に乗り込む時に自然と海が目に入りました。
すると港からテトラポッドが海に向かって伸びているんですが、そのテトラポッドの先に何かが蠢いているのが見えたんです。
それは、モゾモゾと言った様な感じで蠢いています。思わず見入ってしまいました。
「なんかあそこにあるんだけど」
僕は、屈んで車を覗く様な格好になり、既に助手席に乗り込んでいる彼女に声を掛けました。
好奇心旺盛の彼女は「なになにー?機械系?」と言いながら助手席から降りてきました。
彼女は前屈みになり、その蠢く謎のものをじっくりみている様でした。
「なんか人形なんだけど。」
その言葉を受けた僕もより一層目を凝らしました。
確かに頭がある様に見えます。それに手が2本ある様にも見えました。
でも、人にしてはもじゃもじゃと何か生えている様に見えます。それにまるで踊っているかの様に手を横に伸ばして、その伸ばした手をクネクネとさせています。その手は少しモコモコしているような膨らみを感じました。手だけが体に対して大きかった様な気がします。
気持ちが悪いので僕は、逃げたくなりました。好奇心もないわけではないですが、気持ち悪さが勝ってきたので僕は、車に入ってエンジンをかけました。時間もないのでさっさと帰ってしまいたかったんです。
でも、彼女は違いました。車を降りてドアを閉めて蠢く何かに向かって歩いていってしまったんです。
仕方なく、僕もついていきました。
でも、途中で彼女を呼び止めました。
無理やり肩を掴んで「戻ろう」とだけ声をかけて車に戻り、そのまま帰りました。
だって、その蠢くものはこちらに少しずつ向かってきてたんです。
しかもそれは、はっきり人間でした。
てっきり機械だと思ってたのでゾワゾワっと背筋に虫唾が走りました。
微かにひかる街灯というのでしょうか。港に設置された複数の淡い光を放つライトに照らされてそれが何かわかったんです。
人間が、藻を腕に巻いて腕を横に伸ばしクネクネとダンスをする様な動きをしていたんですが…
しかもこちらに向かって少しずつ、少しずつ、こちらに向かって歩いてきていました。
地味な話ですが、不気味で怖かった話です。
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