短い怖い話 （怖い話、ホラー、短編集）

棺桶の中にいたのは…

　中学時代からの親友の旦那さんが亡くなったときの話です。まだ35歳でした。

　親友と旦那さんは同い年で、2人がまだ23歳の頃に結婚した、その直後に旦那さんにがんが見つかり、10年近く2人闘病生活をしてていました。ですので、親友は悲しくて泣きつつ、これ以上病気で苦しまずに旦那さんが楽になれてよかった、と言っていました。
　私も、親友の旦那さんをよく知っており親友のその言葉に大変共感しました。
　というのも、親友の旦那さんが亡くなる直前まで親友宅に訪れて、自宅療養していた旦那さんの介護に追われる親友を手伝ったりしていました。
　つまり何が言いたいかと言うと、私は生前の旦那さんがどんな人だったか、どんな顔だったか本当に亡くなるほんの2日前までの顔を見ているので、旦那さんの顔を見間違うことなんて絶対にない自信があるってことです。






　お葬式の日。昨日のお通夜にも参加しましたが、私自身も旦那さんと仲良くさせてもらっていましたので、亡くなった顔を見るのが辛いのでお通夜の日は棺桶に近づくこともほとんどせずにおりました。
　ですがいざお別れとなり、さすがにこのまま顔も見ずに感謝を伝えずにいるのはよろしくないと思い、出棺の前にしばらく時間があったので、旦那さんの顔見ることにしたんです。

　私は、棺桶の周りに人がいない時を見計らって棺桶の窓から旦那さんの家を覗いたんです。そこには、旦那さんが眠っているはずだったんですが……。






　単刀直入に言うと、そこには見知らぬお年寄り(80歳位? )の男性の顔がありました。

　正直ヒヤリとしました。本当に全く知らない人の顔があったんです。旦那さんとは似ても似つかないようなまったくの別人の顔が…。

　確かに、親友の旦那さんは病気に苦しんだせいで、髪を抜け落ちガリガリに痩せて色も白く、正直35歳には見えないような見た目になっていました。

　でも、棺桶の中に眠っていたのは、浅黒い肌の白髪がうっすら生えて、顔も健康的なくらいの痩せ加減で旦那さんのように頬がこけてはいません。
　うまい例えがありませんが、田舎で畑仕事を元気にしている軽トラの乗りのおじいちゃんみたいな見た目の人がそこに眠っていたんです。
「え……？」
私は思わず固まってしまいました。


　直後に親友が来て、私と同じように棺桶の窓を覗き込みました。
「結構安らかに眠っているでしょう? 」
と、親友が私に話しかけてきました。

　(いや、人が違うんだけど…。)

　私は何も言えずに黙っていました。私はそっと顔をあげましたか、親友はずっと家を家の窓から顔覗いていました。

(もしかして気づいていない? )

　私は親友に、何も言えずにいました。

　もしかしたら私がおかしいだけかもしれない、きっと気のせいだろう、葬式の時にあまり変なことを言って騒ぐのはよろしくだろうと考えました。
　「ほんとに安らかな顔だね」親友になんとか声をかけて、その場を離れました。
　その後、出棺までに2・3回ほど、今度は他の人と同時に覗き込みました。
　私にはやっぱり見知らぬ80歳位の男性が眠っているように見えましたが、他の人は、気づいていないというか、普通に旦那さんの顔に見えているようでした。


やがて、棺桶の中は見知らぬ男性のまま、やがて出棺し葬式は終わりました。



　あれから3年が経ちました。

　まだあれが何だったのか全く意味不明ですし、誰にもこんなこと話せないでいます。