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二重に重なるお母さん
しおりを挟む幼い頃から私は、父方の祖父母と暮らしていた。
私が小学生に上がる頃から父方の祖母の足が悪くなり小学四年生になる頃には寝たきりになっていた。祖母は、元々私の母を嫌っており、また祖父も思ったことを全てオブラートに包まず口に出してしまう性格で、よく母に細かいことで嫌味を言っていた。
母は、祖母の介護と祖父の世話、旦那と私を含めた3人兄弟の世話をしながら週に3日ほどはスーパーでパートに出ていた。母は、疲弊して実年齢よりグッと老けていった。
そんなある日、私が学校から家に帰ると、母は台所で夕飯の支度をしていた。それは、いつもの事だった。味噌汁を作るために豆腐を掌で切っているのが見えた。そこまでわかるのにしかし、母がなんだかぼやけて見える気がしたり
「Aちゃん?お帰りなさい!学校は楽しかった?」
と、豆腐を切りながら母が振り向く。
やっぱりおかしい。母だけがぼやけて見える。
それから、1週間くらい経っただろうか。ぼやけて見えていた母がはっきり見えるようになった。だが、段々と母が二重に見えてきたのだ。しかも笑っている本体の母の右横にいつも睨みつけるような怒りの顔をした母がいる。ちなみに母以外のものの見え方は通常と変わらなかった。
私は、それを母に訴えた。母は、慌てて私を眼科などの病院を回った。忙しい中、私を病院に行く母は、余計に老けていったし段々と表情が険しくなっていった。
乱視などが疑われたが、結局原因は不明だった。
小学校4年生の1月くらいだった。それまで、二重に見えていた母が通常通り一重に見えだ事があった。
母が、父親の何が気に障ったのかわからないが酷いヒステリックを起こした。寝室で、私達兄弟は寝ていたのだが、母の叫び声で目が覚めました。母は、甲高い声で喚きながら父に向かって物を投げ、泣き叫んだ。祖父が何事かとドアを叩いて呼びかけるが、ドアに鍵を掛けていた。
その時、いつも二重に見えていた母が一人しか見えなかった。母の顔は、いつも二重に見えている方のようなとても険しく睨みつけるような顔をしていた。
その半月後くらいに母が倒れた。鬱と診断されしばらく大量の薬を飲んで、元気の良かった母は無気力にうなだれている事が多くなった。
私が5年生になってすぐ、祖母は肺炎で亡くなった。寝たきりになって長く体力がない上に、ここ2週間微熱が続いており医者には危ない状況と言われていた。
祖父も後を追うように交通事故で亡くなった。
母は、二人がいなくなった事で気苦労が減ったのか鬱がだんだん改善していった。二重に見えていた母は、通常に戻った。
なぜ、二重に見えていたのかわからない。
母の右横で、険しい表情をしていたもう一人の母は母の生き霊のような物で、私に辛さを訴えていたのかもしれないと今は考えている。
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