夢で出会った変態パンダは、夢をなおす修理屋でした。

からした火南

文字の大きさ
上 下
3 / 5

第3話 窓枠のゆがんだサッシはまともに開かない

しおりを挟む
     ◇

 朝日のまぶしさに目がさめる。カーテンの開け放たれたサッシから差し込む朝日が、アタシの顔を直撃している。
 覚めきらぬ目をこすりながら布団から這いだして、畳の上で伸びをする。早くに寝たはずなのに、体がだるい。寝汗でパジャマが、ぐっしょりと濡れていた。
 夢を見ていたような気がする。けれども、何の夢だったのか思いだすことができなかった。何だかとても大切な夢だったような気がするのだけれど、思いだせないのだから仕方がない。忘れてしまうくらいなのだから、きっと大した夢ではないのだろう……。
 天気が良い。窓の外を見て、まぶしさに目を細める。たまにはサッシを開けて、部屋に新鮮な空気でも取り込もうと思ったのだけどやめた。きっとガタピシと引っかかるばかりで、窓枠のゆがんだサッシはまともに開かないのだろうから。
 隣のキッチンに、人の気配がある。きっとママが帰ってきている。顔を合わせるのは、三日ぶりだろうか。またあの不機嫌な顔を見なければならないのかと思うと、気が滅入った。
 部屋とキッチンを仕切るふすまを開けると、予想通り険しい表情で下着姿のママがスマートフォンをにらんでいた。アタシの顔をチラリと見やると、興味なさそうにまたスマートフォンに視線をもどした。くわえたタバコから、灰が落ちそうになっている。キッチン全体が、白く煙っていた。
 なるべく息を吸い込まないようにガスコンロの前までたどり着くと、こみよがしに大きな音を立てて換気扇のスイッチを引っぱった。異音混じりにノロノロと動き出した換気扇は徐々に回転を上げ、十秒ほど経ってようやく部屋の空気を吸いだし始めた。
 背後から舌うちが聞こえた。振り返ってみると飲みかけのチューハイの缶に、ママがタバコを放りこむところだった。チュンと音を立てて、缶の中でタバコの火が消えた。
 大きくため息をついて立ち上がると、ママは隣の部屋へと消えた。後ろ手に閉められたふすまが、ピシャリと殊のほか大きな音を立てた。
 ママと言葉を交わさなくなって、どれくらいになるだろうか。夜の仕事をしているママは、アタシが学校から帰ってくる頃にはもう出勤している。今朝みたいに起きた頃に帰っていることもあるけど、帰って来ない日だって多い。基本的にすれ違っているのだから会話がないのも仕方がないとは思うのだけれど……小学生になって少しした頃から、ずっと避けられているように感じている。
 小学校に上る前は、毎晩バァバが来てくれていた。バァバが死んでしまってからはずっと、ママが仕事に行っている間を独りで過ごしている。
 朝ごはんを食べようと、冷蔵庫の上の袋から、八枚切りの食パンを一枚取り出してテーブルに出しっぱなしの皿に乗せる。おかずになるような物がないかと冷蔵庫を開けたけど、いつもと変わらず庫内にはチューハイの缶が詰まっているだけだった。
「よかった、まだ残ってた」
 缶の影に、いちごジャムの瓶を見つけた。ほとんど空になっているけど、パン一枚に塗るくらいなら大丈夫そうだ。
 たまには牛乳でも飲もうかと、紙パックをテーブルに置く。シンクの洗い物の山の中からガラスのコップを引っぱり出してすすぐ。牛乳をコップに注ぐと、ドロリとしたかたまりが出てきた。駄目だ、傷んでいる……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

あなたはカエルの御曹司様

さくらぎしょう
恋愛
大手商社に勤める三十路手前の綾子は、思い描いた人生を歩むべく努力を惜しまず、一流企業に就職して充実した人生を送っていた。三十歳目前にハイスペックの広報課エースを捕まえたが、実は女遊びの激しい男であることが発覚し、あえなく破局。そんな時に社長の息子がアメリカの大学院を修了して入社することになり、綾子が教育担当に選ばれた。噂で聞く限り、かなりのイケメンハイスぺ男性。元カレよりもいい男と結婚しようと意気込む綾子は、社長の息子に期待して待っていたが、現れたのはマッシュルーム頭のぽっちゃりした、ふてぶてしい男だった。  「あの……美人が苦手で。顔に出ちゃってたらすいません」  「まずその口の利き方と、態度から教育しなおします」 ※R15。キスシーン有り〼苦手な方はご注意ください。他サイトでも投稿。 約6万6千字

一人じゃないぼく達

あおい夜
キャラ文芸
ぼくの父親は黒い羽根が生えている烏天狗だ。 ぼくの父親は寂しがりやでとっても優しくてとっても美人な可愛い人?妖怪?神様?だ。 大きな山とその周辺がぼくの父親の縄張りで神様として崇められている。 父親の近くには誰も居ない。 参拝に来る人は居るが、他のモノは誰も居ない。 父親には家族の様に親しい者達も居たがある事があって、みんなを拒絶している。 ある事があって寂しがりやな父親は一人になった。 ぼくは人だったけどある事のせいで人では無くなってしまった。 ある事のせいでぼくの肉体年齢は十歳で止まってしまった。 ぼくを見る人達の目は気味の悪い化け物を見ている様にぼくを見る。 ぼくは人に拒絶されて一人ボッチだった。 ぼくがいつも通り一人で居るとその日、少し遠くの方まで散歩していた父親がぼくを見つけた。 その日、寂しがりやな父親が一人ボッチのぼくを拐っていってくれた。 ぼくはもう一人じゃない。 寂しがりやな父親にもぼくが居る。 ぼくは一人ボッチのぼくを家族にしてくれて温もりをくれた父親に恩返しする為、父親の家族みたいな者達と父親の仲を戻してあげようと思うんだ。 アヤカシ達の力や解釈はオリジナルですのでご了承下さい。

error (男1:女2)声劇台本

あいすりぅ
キャラ文芸
〖 時間〗  10分程度 〖配役〗 •ウイルス:(女)年齢不詳。正体不明。14才ぐらいの幼い容姿。 •アキト:(男)16才。ヒカリの幼馴染。 •ヒカリ:(女)16才。アキトの幼馴染。 ーーーーーー 楽しく演じてくださったら嬉しいです。

千里香の護身符〜わたしの夫は土地神様〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
キャラ文芸
ある日、多田羅町から土地神が消えた。 天候不良、自然災害の度重なる発生により作物に影響が出始めた。人口の流出も止まらない。 日照不足は死活問題である。 賢木朱実《さかきあけみ》は神社を営む賢木柊二《さかきしゅうじ》の一人娘だ。幼い頃に母を病死で亡くした。母の遺志を継ぐように、町のためにと巫女として神社で働きながらこの土地の繁栄を願ってきた。 ときどき隣町の神社に舞を奉納するほど、朱実の舞は評判が良かった。 ある日、隣町の神事で舞を奉納したその帰り道。日暮れも迫ったその時刻に、ストーカーに襲われた。 命の危険を感じた朱実は思わず神様に助けを求める。 まさか本当に神様が現れて、その危機から救ってくれるなんて。そしてそのまま神様の住処でおもてなしを受けるなんて思いもしなかった。 長らく不在にしていた土地神が、多田羅町にやってきた。それが朱実を助けた泰然《たいぜん》と名乗る神であり、朱実に求婚をした超本人。 父と母のとの間に起きた事件。 神がいなくなった理由。 「誰か本当のことを教えて!」 神社の存続と五穀豊穣を願う物語。 ☆表紙は、なかむ楽様に依頼して描いていただきました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符

washusatomi
キャラ文芸
西域の女商人白蘭は、董王朝の皇太后の護符の行方を追う。皇帝に自分の有能さを認めさせ、後宮出入りの女商人として生きていくために――。 そして奮闘する白蘭は、無骨な禁軍将軍と心を通わせるようになり……。

処理中です...