2 / 5
第2話 夢の修理屋ですしおすし
しおりを挟む
「いきなり何すんのよ!」
ひしゃげてしまったフェンスから、ヨロヨロと立ち上がってはみたのだけれど、派手に吹っ飛ばされたというのに痛みはなかった。そうか、ここ、夢の中だった……。
「夢だと気づくのは良いお……」
またもや背後に立ったパンダが、耳元でささやく。アタシのおしりを触りながら。
「いや、本当は駄目だけど、気づいてしまったものは仕方ないお」
振り向きざまに放った拳が、今度もかわされて空を切る。
「でも、それを口にしちゃ駄目だお。いい?」
変態パンダが人差し指を立てて、自らの口元に添える。キザな仕草が似合わない……だってパンダだし。
パンダを殴ることをあきらめ、とりあえず素っ裸を何とかしようと試みる。着ようと思えば着られる……パンダはそう言った。服を思い浮かべてみたけど、巧くいかなかった。
「ねぇ、服着たいんだけど。思い浮かべれば良いの?」
「服を思い浮かべるってより、服を着ている感覚を思い描く感じだお」
言われたとおりにやってみる。服の肌触りや、着てるときの感触を思い起こす。できるだけリアルに、できるだけ具体的に……。
おぉ! 巧くいった……。でも、アタシの体を包み込んだものは、うちの高校の制服だった。
「な、なんで制服なのよ! もっと可愛い服がいいよ!」
「着たことがない服は難しいお?」
変態パンダに反論できず歯ぎしりしてしまう。
「アンタ何なの? なんでパンダなの? なんでパンダがしゃべってんの?」
「質問は、ひとつづつにして欲しいお……」
「んじゃ、名前とかあんの?」
パンダは待ってましたとばかりに、戦隊モノのようなポーズを決める。
「キャプテン・ウイングだお。夢の修理屋ですしおすし……」
きっと本人的には、クールにキメたつもりなのだろう。だが、どれだけキメようがパンダだ。しかも口調がやけにヲタクっぽい。
「親しみを込めて、『翼くん』って呼んでくれても良いのだぜ!」
握った拳の親指をピンッと立てると、ニカッと笑った口元に白い牙が光った……ように見えた。それでもやっぱり、どうにもキマらない。だってパンダだし。なんかヲタクっぽいし。
「アタシは……」
自己紹介しようとした言葉を、キャプテンがさえぎる。チッチッチと舌を鳴らしながら、目の前に人差し指を立ててメトロノームのように振っている。
「知ってるお。相川アイコ、一六歳、乙女座。好きな食べ物はカレー、嫌いな食べ物は野菜全般。好きなアーティストは YOASOBI 、嫌いなアーティストは……」
「待って! ちょと待って!!」
「なんだお。ココからが良いところなのに……」
「なんでそんなこと知ってるのよ!」
「なんでって、修理屋ですしおすし」
「何なのよ、その修理屋って?」
「修理屋は修理屋だお。壊れた夢を直すんだお」
そんなことも知らないのかとでも言わんがばかりに、キャプテンはため息をついて説明を始める。
そもそも夢というものは、無意識の深い部分を人類で共有しているのと同じように、人類間でつながっているのだそうだ。いや正確には、睡眠によって意識が深い共有レベルまで降りてきたときの記憶こそが夢だというのだ。なるほど解らん……。とにかく、全人類の夢ってのは、どうやらつながっているらしい。
そして、夢は壊れるものでもあるらしい。さらに夢を壊す存在ってのも居るらしい。
だからキャプテンのような、修理屋が存在している。夢から夢へと渡って壊れた夢を直す。修理に必要な情報は、夢から読み取ることができる。例えば、アタシの名前とか歳とか好きなものとか……。
「壊れてるってこと? アタシの夢」
キャプテンが、深くうなづく。
「アイコが夢であることを認識してることが、何よりの証拠なんだお」
いきなり呼びタメとは、馴れ馴れしいパンダだ。
「どこが壊れてんの?」
問われてキャプテンは、高台の上を指差す。
「観覧車!?」
高台にそびえる観覧車は、この場所からではよく見えない。何事が起こっているのかと目を凝らしてみると、知らぬ間に観覧車のそばまで移動していた。夢、便利じゃん。
すでに日は西に落ちてしまったけれど、観覧車はライトアップされて薄闇の中に浮かび上がっている。それに観覧車の全面に配された色とりどりの電飾も、観覧車の存在を際立たせていた。
目を凝らしてみると、電飾の間に黒くうごめく存在に気づく。握りこぶしくらいの大きさはあるだろうか。どうやら影はひとつだけではなく、無数の影がうごめいていることが判った。
「夢喰バグだお」
うごめく影に一番似ているのは、カミキリムシみたいな甲虫だと思った。こぶし大の無数の巨大甲虫がびっしりと観覧車に取り付いて、鉄骨をかじり続けていた。
ひしゃげてしまったフェンスから、ヨロヨロと立ち上がってはみたのだけれど、派手に吹っ飛ばされたというのに痛みはなかった。そうか、ここ、夢の中だった……。
「夢だと気づくのは良いお……」
またもや背後に立ったパンダが、耳元でささやく。アタシのおしりを触りながら。
「いや、本当は駄目だけど、気づいてしまったものは仕方ないお」
振り向きざまに放った拳が、今度もかわされて空を切る。
「でも、それを口にしちゃ駄目だお。いい?」
変態パンダが人差し指を立てて、自らの口元に添える。キザな仕草が似合わない……だってパンダだし。
パンダを殴ることをあきらめ、とりあえず素っ裸を何とかしようと試みる。着ようと思えば着られる……パンダはそう言った。服を思い浮かべてみたけど、巧くいかなかった。
「ねぇ、服着たいんだけど。思い浮かべれば良いの?」
「服を思い浮かべるってより、服を着ている感覚を思い描く感じだお」
言われたとおりにやってみる。服の肌触りや、着てるときの感触を思い起こす。できるだけリアルに、できるだけ具体的に……。
おぉ! 巧くいった……。でも、アタシの体を包み込んだものは、うちの高校の制服だった。
「な、なんで制服なのよ! もっと可愛い服がいいよ!」
「着たことがない服は難しいお?」
変態パンダに反論できず歯ぎしりしてしまう。
「アンタ何なの? なんでパンダなの? なんでパンダがしゃべってんの?」
「質問は、ひとつづつにして欲しいお……」
「んじゃ、名前とかあんの?」
パンダは待ってましたとばかりに、戦隊モノのようなポーズを決める。
「キャプテン・ウイングだお。夢の修理屋ですしおすし……」
きっと本人的には、クールにキメたつもりなのだろう。だが、どれだけキメようがパンダだ。しかも口調がやけにヲタクっぽい。
「親しみを込めて、『翼くん』って呼んでくれても良いのだぜ!」
握った拳の親指をピンッと立てると、ニカッと笑った口元に白い牙が光った……ように見えた。それでもやっぱり、どうにもキマらない。だってパンダだし。なんかヲタクっぽいし。
「アタシは……」
自己紹介しようとした言葉を、キャプテンがさえぎる。チッチッチと舌を鳴らしながら、目の前に人差し指を立ててメトロノームのように振っている。
「知ってるお。相川アイコ、一六歳、乙女座。好きな食べ物はカレー、嫌いな食べ物は野菜全般。好きなアーティストは YOASOBI 、嫌いなアーティストは……」
「待って! ちょと待って!!」
「なんだお。ココからが良いところなのに……」
「なんでそんなこと知ってるのよ!」
「なんでって、修理屋ですしおすし」
「何なのよ、その修理屋って?」
「修理屋は修理屋だお。壊れた夢を直すんだお」
そんなことも知らないのかとでも言わんがばかりに、キャプテンはため息をついて説明を始める。
そもそも夢というものは、無意識の深い部分を人類で共有しているのと同じように、人類間でつながっているのだそうだ。いや正確には、睡眠によって意識が深い共有レベルまで降りてきたときの記憶こそが夢だというのだ。なるほど解らん……。とにかく、全人類の夢ってのは、どうやらつながっているらしい。
そして、夢は壊れるものでもあるらしい。さらに夢を壊す存在ってのも居るらしい。
だからキャプテンのような、修理屋が存在している。夢から夢へと渡って壊れた夢を直す。修理に必要な情報は、夢から読み取ることができる。例えば、アタシの名前とか歳とか好きなものとか……。
「壊れてるってこと? アタシの夢」
キャプテンが、深くうなづく。
「アイコが夢であることを認識してることが、何よりの証拠なんだお」
いきなり呼びタメとは、馴れ馴れしいパンダだ。
「どこが壊れてんの?」
問われてキャプテンは、高台の上を指差す。
「観覧車!?」
高台にそびえる観覧車は、この場所からではよく見えない。何事が起こっているのかと目を凝らしてみると、知らぬ間に観覧車のそばまで移動していた。夢、便利じゃん。
すでに日は西に落ちてしまったけれど、観覧車はライトアップされて薄闇の中に浮かび上がっている。それに観覧車の全面に配された色とりどりの電飾も、観覧車の存在を際立たせていた。
目を凝らしてみると、電飾の間に黒くうごめく存在に気づく。握りこぶしくらいの大きさはあるだろうか。どうやら影はひとつだけではなく、無数の影がうごめいていることが判った。
「夢喰バグだお」
うごめく影に一番似ているのは、カミキリムシみたいな甲虫だと思った。こぶし大の無数の巨大甲虫がびっしりと観覧車に取り付いて、鉄骨をかじり続けていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アデンの黒狼 初霜艦隊航海録1
七日町 糸
キャラ文芸
あの忌まわしい大戦争から遥かな時が過ぎ去ったころ・・・・・・・・・
世界中では、かつての大戦に加わった軍艦たちを「歴史遺産」として動態復元、復元建造することが盛んになりつつあった。
そして、その艦を用いた海賊の活動も活発になっていくのである。
そんな中、「世界最強」との呼び声も高い提督がいた。
「アドミラル・トーゴーの生まれ変わり」とも言われたその女性提督の名は初霜実。
彼女はいつしか大きな敵に立ち向かうことになるのだった。
アルファポリスには初めて投降する作品です。
更新頻度は遅いですが、宜しくお願い致します。
Twitter等でつぶやく際の推奨ハッシュタグは「#初霜艦隊航海録」です。
後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜
あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】
姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。
だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。
夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。
あなたはカエルの御曹司様
さくらぎしょう
恋愛
大手商社に勤める三十路手前の綾子は、思い描いた人生を歩むべく努力を惜しまず、一流企業に就職して充実した人生を送っていた。三十歳目前にハイスペックの広報課エースを捕まえたが、実は女遊びの激しい男であることが発覚し、あえなく破局。そんな時に社長の息子がアメリカの大学院を修了して入社することになり、綾子が教育担当に選ばれた。噂で聞く限り、かなりのイケメンハイスぺ男性。元カレよりもいい男と結婚しようと意気込む綾子は、社長の息子に期待して待っていたが、現れたのはマッシュルーム頭のぽっちゃりした、ふてぶてしい男だった。
「あの……美人が苦手で。顔に出ちゃってたらすいません」
「まずその口の利き方と、態度から教育しなおします」
※R15。キスシーン有り〼苦手な方はご注意ください。他サイトでも投稿。
約6万6千字
error (男1:女2)声劇台本
あいすりぅ
キャラ文芸
〖 時間〗
10分程度
〖配役〗
•ウイルス:(女)年齢不詳。正体不明。14才ぐらいの幼い容姿。
•アキト:(男)16才。ヒカリの幼馴染。
•ヒカリ:(女)16才。アキトの幼馴染。
ーーーーーー
楽しく演じてくださったら嬉しいです。
一人じゃないぼく達
あおい夜
キャラ文芸
ぼくの父親は黒い羽根が生えている烏天狗だ。
ぼくの父親は寂しがりやでとっても優しくてとっても美人な可愛い人?妖怪?神様?だ。
大きな山とその周辺がぼくの父親の縄張りで神様として崇められている。
父親の近くには誰も居ない。
参拝に来る人は居るが、他のモノは誰も居ない。
父親には家族の様に親しい者達も居たがある事があって、みんなを拒絶している。
ある事があって寂しがりやな父親は一人になった。
ぼくは人だったけどある事のせいで人では無くなってしまった。
ある事のせいでぼくの肉体年齢は十歳で止まってしまった。
ぼくを見る人達の目は気味の悪い化け物を見ている様にぼくを見る。
ぼくは人に拒絶されて一人ボッチだった。
ぼくがいつも通り一人で居るとその日、少し遠くの方まで散歩していた父親がぼくを見つけた。
その日、寂しがりやな父親が一人ボッチのぼくを拐っていってくれた。
ぼくはもう一人じゃない。
寂しがりやな父親にもぼくが居る。
ぼくは一人ボッチのぼくを家族にしてくれて温もりをくれた父親に恩返しする為、父親の家族みたいな者達と父親の仲を戻してあげようと思うんだ。
アヤカシ達の力や解釈はオリジナルですのでご了承下さい。
千里香の護身符〜わたしの夫は土地神様〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
キャラ文芸
ある日、多田羅町から土地神が消えた。
天候不良、自然災害の度重なる発生により作物に影響が出始めた。人口の流出も止まらない。
日照不足は死活問題である。
賢木朱実《さかきあけみ》は神社を営む賢木柊二《さかきしゅうじ》の一人娘だ。幼い頃に母を病死で亡くした。母の遺志を継ぐように、町のためにと巫女として神社で働きながらこの土地の繁栄を願ってきた。
ときどき隣町の神社に舞を奉納するほど、朱実の舞は評判が良かった。
ある日、隣町の神事で舞を奉納したその帰り道。日暮れも迫ったその時刻に、ストーカーに襲われた。
命の危険を感じた朱実は思わず神様に助けを求める。
まさか本当に神様が現れて、その危機から救ってくれるなんて。そしてそのまま神様の住処でおもてなしを受けるなんて思いもしなかった。
長らく不在にしていた土地神が、多田羅町にやってきた。それが朱実を助けた泰然《たいぜん》と名乗る神であり、朱実に求婚をした超本人。
父と母のとの間に起きた事件。
神がいなくなった理由。
「誰か本当のことを教えて!」
神社の存続と五穀豊穣を願う物語。
☆表紙は、なかむ楽様に依頼して描いていただきました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる