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近衛騎士と、子爵令嬢の回想
子爵令嬢マーガレット・ウェライアの追憶 3
しおりを挟む「……その」
「シルベチカでよろしくてよ」
「……では、お言葉に甘えまして……。シルベチカ様、どうして私をお茶会にご招待なさったのでしょうか」
マーガレットがそう尋ねると、シルベチカは少しだけ真白の瞳を驚かせ、それから困ったように微笑んで「恋に落ちる音が聞こえたからですわ」と呟いた。
「……恋に落ちる音ですか」
「こういう言い方すると、とてもロマンティックでしょう? ……マーガレット様。正直に教えてください。あなたは、ユリウス殿下を愛していらっしゃいますか?」
シルベチカの言葉にマーガレットはハッとした。
誰にもバレていないと思っていた秘めた思いが、よりにもよって王太子の婚約者であるシルベチカにバレていたという事実に頭の中が真っ白になる。
「……も、申し訳ございません! これは……ただの憧れです、王太子殿下という尊い方に対する若者にありがちな憧れで……」
「あ、え。大丈夫よ、落ち着いて頂戴。ユリウス様はとても素敵な方ですもの。あの方、12公爵家の御令嬢の方々の間で「初恋泥棒」って言われているんですよ。私は、「泥棒」っていうと品が無いから「初恋怪盗」がいいって言ってるんですけど、お姉さま方が聞いてくださらないの。でも、初恋怪盗のほうが言葉の響きが美しくありませんか?」
シルベチカは、やっぱりくすくす笑いながらそう言った。
公爵令嬢らしくない、無邪気な少女のようにシルベチカは笑う。
いつもそうして笑っていれば、マーガレットは王太子の隣に立つシルベチカを見て苦しくなることはないのにと思った。
いつも王太子の隣にいるのは気位が高く、高慢で、傲慢に振舞い、いつも王太子殿下に苦い顔をさせている公爵令嬢。けれど今目の前にいる天使のように微笑んで、無邪気にマーガレットに話しかける美しい公爵令嬢は、あの美しい王太子にあまりにもお似合いだった。
最初からそんな公爵令嬢が相手なら、この淡い初恋をくすぶらせることなかったはずなのに……と。
そんなマーガレットの気持ちが、シルベチカに透けて見えたのだろう。
シルベチカは困ったように微笑むと、とても言いづらそうに口ごもった。
「……マーガレット様を、責めるつもりなんてほんの少しもないのよ。その……そうじゃなくて、もしマーガレット様がユリウス殿下を想ってくださっているのなら、私に協力をさせてほしいの」
「……協力……ですか?」
「あのね」とシルベチカは前置きをする。
「私、事情があってどうしてもユリウス殿下と婚約を解消しないといけないの。でも、そうなると婚約者という席がすっぽり空いてしまうでしょう? マーガレット様には、その空いた婚約者の席に座ってほしいの」
シルベチカはそう言って申し訳なさそうに笑った。
令嬢らしからぬ顔で絶句したマーガレットが、やがてこの日の出来事を大切な思い出として、涙をこぼしながら懐かしむようになるのは、もっとずっと先の事だった。
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