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近衛騎士と、子爵令嬢の回想
子爵令嬢マーガレット・ウェライアの追憶 2
しおりを挟む子爵令嬢でしかないマーガレットが、公爵令嬢であるシルベチカの誘いを断れるわけもなく、マーガレットはガタガタと震えながらお茶会の場所として指定された裏庭の四阿にやってきた。
王立学院には庭がいくつかあり、申請すればある程度貸し切りにできる制度がある。
裏庭のその四阿は、美しく管理された池の上にある四阿で、公爵以上の爵位を持つ貴族達しか申請することができないが、少人数でしか使えない為あまり人気のない四阿だった。
その代わりちょうど季節なのか、池には美しい蓮の花が咲き乱れていた。
普段だったら入ることができないその場所で、マーガレットが美しい蓮の花に心を奪われていると背後からくすくすと笑い声が聞こえた。
「……美しいですよね。大好きなんですよ、私」
「……シルベチカ様」
背後に立っていたのは、マーガレットを呼び出したシルベチカだった。側に護衛騎士と思しき男性と、侍女と思しき女性がついてる他誰もいない。
お茶会のメンバーは、どうやらマーガレットとシルベチカの2人だけらしかった。
天使のような微笑みを浮かべるシルベチカを見て、マーガレットは思わずそう声を洩らした。
それから無遠慮に、不敬にも名を呼んでしまった事に気が付いて、マーガレットは慌てて「申し訳ございません」と頭を下げた。
「大丈夫よ、気になさらないで」
そう言ってシルベチカはにこにこと笑う。
それはマーガレットが知らないシルベチカ・ミオソティス・マスティアート公爵令嬢だった。
マーガレットの知るシルベチカは、学院で高慢に、傲慢に振る舞い、癇癪を起しては貴族の子女に暴力をふるう、天使とは程遠いくらいの悪役令嬢だったはずだ。
そのシルベチカが、無邪気に天使のように笑い、侍女に用意してもらったお茶を優雅に飲む姿はまるで女神のようだった。
理想の淑女とは、まさにこのシルベチカの事を言うのだろう。
これは一体誰だろう。
その言葉が、マーガレットの頭にぐるぐる回る。
もしや、全て演技で、この後「この泥棒猫が!!」と王太子に近づいたことを怒鳴られるのでは? と想像してさらに蒼褪める頃、シルベチカは少しだけ苦しそうに目を細めて「ごめんなさいね」と呟いた。
「びっくりしたでしょう? 普段の私と全然違って」
「え」
「どちらかと言うとね、いつものあれはやりづらいのよ……、こちらのほうが普段の私だって言っても信じられないでしょう?」
シルベチカはそう言って、悪戯っぽく笑った。
公爵令嬢らしくないその態度に、マーガレットはますますどうしていいか分からなくなる。
黙っていれば理想の淑女、口を開けば公爵令嬢とは思えない魅力を放ち、どうしてだか表では悪魔のように傲慢に振舞う、どれが本物なのかまるで分らない少女。
今から思えば、混乱して当然だった。
だって、きっと、どのシルベチカも真実で、どのシルベチカも偽りだったのだから。
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