悪役令嬢シルベチカの献身

salt

文字の大きさ
上 下
11 / 64
王太子と、その一年後の話

1年後のはなし 3

しおりを挟む

 ウィステリアにそう言われても、ユリウスは諦めなかった。

 兄である彼の反応から、もしかしたらシルベチカは修道女にでもなってどこかの教会に匿われているのではと思ったユリウスは、国内の教会を虱潰しに調査させていた。
 けれども、シルベチカはさっぱり見つからなかった。
 国外へ調査させても同様で、ユリウスはずっと眉間のしわを深くさせていた。

 そんなある日、マーガレットが思いつめた顔で秘密裏に、馬車でどこかへ行くのを見かけて、ユリウスは思わず公務を放り出してその後をつけていった。
 そうしてそんなことをしたのか、その時のユリウスには分からない。
 ただ、何かに突き動かされるように、息を殺してマーガレットを追跡すると、彼女は王都の外れにある廃墟となった教会で馬車を降りた。

 ユリウスには随分前に火事か何かで焼けて以来そのままだというその教会に、マーガレットがどういう用があったのか分からなかった。
 息を殺しながら、扉の向こう側の様子を窺えば、男女の声が聞こえてくる。


「……どうか、これでもう忘れてください。……も、そう願っています」
「はい、分かっているのです。分かっているのですが止められないのです。あんなによくしていただいたのに、……私は」

 それは最愛のマーガレットと、かつて親友であったシルベチカの兄、ウィステリアの声だった。

 ユリウスは呆然としていた。
 これはまるで、マーガレットの不貞ではないか。
 しかも相手は、あのシルベチカの兄、ウィステリアだと思うと、気が狂いそうなくらい頭の中がぐちゃぐちゃになった。

 呆然と底に立ち尽くすユリウスの耳に、マーガレットの泣いた声で「シルベチカ様」という呟きが届く。

 あぁ、いるのかそこに。

 ユリウスはどうしてだかそう思った。
 奇しくもその日は、シルベチカと婚約破棄してちょうど2年経った日だ。

 いつまでたっても消えないシルベチカの影に、親友だったウィステリアも、マーガレットも奪われてしまった。
 全てシルベチカのせいだと思うと、むくむくと怒りや憎しみといった負の感情が生まれてくる。

 ユリウスはその怒りのまま、ドアを開け放った。
 教会の中にいたマーガレットとウィステリアが、教会の中心でハッと目を見張るのが見えたが、ユリウスにはそれどころではなかった。

「殿下……」
「シルベチカ、シルベチカはどこにいる」

 怒りのあまり、その美しい顔を歪ませながらユリウスは足早に教会の中心へと向かった。

 そうしてユリウスは、そこで絶望を知ったのである。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【BL】声にできない恋

BL / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:549

夢守の聖女は王に解雇されました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:620

結婚式の前夜、花嫁に逃げられた公爵様の仮妻も楽じゃない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:62,354pt お気に入り:2,908

運命の番と別れる方法

ivy
BL / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:1,316

【完結】その約束は果たされる事はなく

恋愛 / 完結 24h.ポイント:284pt お気に入り:400

裏切りを知った私は強くなります【完結】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:240

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:610pt お気に入り:2,600

わたしはただの道具だったということですね。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:9,322pt お気に入り:4,140

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:624pt お気に入り:10,037

出会ってはいけなかった恋

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:18,809pt お気に入り:931

処理中です...