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王太子と、その一年後の話
1年後のはなし 3
しおりを挟むウィステリアにそう言われても、ユリウスは諦めなかった。
兄である彼の反応から、もしかしたらシルベチカは修道女にでもなってどこかの教会に匿われているのではと思ったユリウスは、国内の教会を虱潰しに調査させていた。
けれども、シルベチカはさっぱり見つからなかった。
国外へ調査させても同様で、ユリウスはずっと眉間のしわを深くさせていた。
そんなある日、マーガレットが思いつめた顔で秘密裏に、馬車でどこかへ行くのを見かけて、ユリウスは思わず公務を放り出してその後をつけていった。
そうしてそんなことをしたのか、その時のユリウスには分からない。
ただ、何かに突き動かされるように、息を殺してマーガレットを追跡すると、彼女は王都の外れにある廃墟となった教会で馬車を降りた。
ユリウスには随分前に火事か何かで焼けて以来そのままだというその教会に、マーガレットがどういう用があったのか分からなかった。
息を殺しながら、扉の向こう側の様子を窺えば、男女の声が聞こえてくる。
「……どうか、これでもう忘れてください。……も、そう願っています」
「はい、分かっているのです。分かっているのですが止められないのです。あんなによくしていただいたのに、……私は」
それは最愛のマーガレットと、かつて親友であったシルベチカの兄、ウィステリアの声だった。
ユリウスは呆然としていた。
これはまるで、マーガレットの不貞ではないか。
しかも相手は、あのシルベチカの兄、ウィステリアだと思うと、気が狂いそうなくらい頭の中がぐちゃぐちゃになった。
呆然と底に立ち尽くすユリウスの耳に、マーガレットの泣いた声で「シルベチカ様」という呟きが届く。
あぁ、いるのかそこに。
ユリウスはどうしてだかそう思った。
奇しくもその日は、シルベチカと婚約破棄してちょうど2年経った日だ。
いつまでたっても消えないシルベチカの影に、親友だったウィステリアも、マーガレットも奪われてしまった。
全てシルベチカのせいだと思うと、むくむくと怒りや憎しみといった負の感情が生まれてくる。
ユリウスはその怒りのまま、ドアを開け放った。
教会の中にいたマーガレットとウィステリアが、教会の中心でハッと目を見張るのが見えたが、ユリウスにはそれどころではなかった。
「殿下……」
「シルベチカ、シルベチカはどこにいる」
怒りのあまり、その美しい顔を歪ませながらユリウスは足早に教会の中心へと向かった。
そうしてユリウスは、そこで絶望を知ったのである。
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