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王太子と、その一年後の話
王太子ユリウス・アラウンド・ランフォールドのはじまり 2
しおりを挟む心身ともに美しく成長し、ゆくゆくは王太子妃、引いては王妃となるべく努力を続けるシルベチカが変化したのはユリウスが17歳、シルベチカが15歳の時だ。
王立学院にシルベチカが入学した頃から、彼女は変わってしまったのだとユリウスは思う。
王立学院に入学したシルベチカは、今までのシルベチカとは思えないほど高慢で傲慢になり果てた。
王立学院は貴族が通う学院であり、同年代が集うそこは未来の社交界そのままである。
その学院で、将来王太子妃なりうるであろうシルベチカが采配を振るうのは分からない話ではないし、むしろ当然だとユリウスも思う。
だが、ユリウスのちょっとした失態に目くじらを立てて叱責し、取り巻きを連れて歩いては下級貴族の少女に目をつけて叱りつける様は未来の王太子妃としてはいただけなかった。
あまりにもそれが目に余って、ユリウスがその少女を助けた際、シルベチカは何とも言えない顔でユリウスを睨み付けた。
怒っていると言うのは理解できるが、絶望したような、泣き出しそうなのを必死に耐えるような被害者の顔。
誰が一番の被害者なのかも分かっていないその顔を見て、ユリウスはそれが当然だというようにシルベチカに幻滅した。ゆくゆく、彼女と結婚するのかと思うと憂鬱で仕方なくなったのは、おそらくこの頃からだろう。
それと反比例するようにユリウスは助けた少女……、マーガレット・ウェライア子爵令嬢に心惹かれた。
平凡な子爵家の生まれで、貴族としてはあまりにも平凡な栗色の髪に、愛らしく光るエメラルドの瞳を持つ、控えめに言って可愛らしい、シルベチカとはまた別の魅力を持つ少女であった。
明るく、最初は緊張していたものの、王太子に向かってはきはきと喋り、勤勉で頭もよく、身分の差を弁えながらも、何事にも全力で取り組む姿勢にユリウスは好感しか抱けなかった。
いつかいた、もう失われてしまった誰かを見ているようだった。
社交も余程上手なのだろう。
シルベチカに睨まれているにもかかわらず、まともな貴族の子女にも好かれていた。
反対にシルベチカは貴族の輪からどんどん浮いて行ったように思う。
現にマーガレットを生徒会の一員に迎え入れても、目立った反発は大きくは起こらなかった。
唯一、シルベチカを除いては。
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