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本編
14 仲間と甘い宣言
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お医者さまはそこまで時間を空くことなく到着され、額に滲む汗からは大急ぎで駆けつけてくれたことを察する。
すぐさま診察に取り掛かることになる。
「では、イザークさまから」
「いや私は問題ない。アイリスから診てくれ」
本来であれば立場が上の者から診察を施さなければならないが、何十年とアンスリウム家に縁あるお医者さまは迷いなく頷かれた。
「診察を受けてくださるのなら宜しいですよ」
「お待ちください。アダンがずっと間に入ってくれていたので心配です。まだ幼いですし先に彼を」
焦りを隠せず、そう言う私の頭にイザークさまは手を置き、首を横に振った。
「アイリス。アダンは幼いが、騎士団に入ったのだ。守らなければならない存在より自分を優先させることは、騎士のプライドを傷つける」
静かに話を聞いていたアダンも近づいて私に声をかけてきた。
「大丈夫だよ。僕強いから!それよりアイリスさまが心配だよ」
お姉ちゃんと呼んでいたアダンはいつの間にか、アイリスさまと呼ぶようになっていた。
そのことに寂しさを感じつつ、心底心配そうにこちらを見つめるアダンを早く安心させようと思った。
「では……宜しくお願いいたします」
私の怪我は逃げた時にぶつけた痣と、花瓶を投げつけた時にできた掌の軽い傷程度だった。
しかしイザークさまをはじめ、アダンもエマも悲しい顔をするのだ。
「みんな心配なさらないでください。怪我といってもこの程度よ」
「大切な人を誰かによって傷つけられたら、心配して犯人を許せないのは当然だ」
ガーゼで覆われた私の怪我をそっと触れて呟かれた。
「アイリスさまは怪我は軽いですが、心身に負担がかかったでしょうからゆっくり休んでくださいな」
お医者さまの優しい顔と声は、亡くなった祖父を彷彿とさせる。
次にアダン、エマ、イザークさまの順で診察が行われた。
イザークさまは無傷という強さを見せ、アダンとエマは同じく軽い怪我を負っていた。
(つい先ほど心配しないでと言ったばかりだけれど、大切な人が傷ついたり酷い思いをしたらとても辛いわ。こんな辛い思いをもうみんなにさせたくない)
お医者さまが「お大事に」という言葉を残して帰られると、私たちはやっと一息つくことができた。
そこで気になっていたことを聞く。
「アダンは何故ここにいたの?」
「私が招待した。つまり偶然居合わせた。……アダンがいてくれて助かった、感謝する」
イザークさまがまだ幼い上に自らの部下であるアダンに頭を下げた。
「ううん……結局僕だけじゃ守れなかったもん……」
診ていただいている時も様子が違って見えたけれど、それは疲労や怪我によるものだと思っていた。
しかしそのようなことではなかったのだ。
(イザークさまのおっしゃる通り、彼はもう騎士なのね)
「アダンがいなかったら私とエマは危なかったわ。本当にありがとう」
「そうですよ。私にはお嬢さまを守る力があまりありませんでしたから、そこは私の改善しなければならないことです。ありがとうございます」
エマもそう続けると、やっとアダンに可愛らしい笑顔が戻る。
将来のアンスリウム家と自分の主人に願った。
「イザークさま、アダンは命をかけて私を守ろうとしてくれました。成長した時、専属騎士をお願いしたいのです」
その言葉に一瞬だけ時が止まった。
イザークさまはしばらく考えたあと口を開かれた。
「アダンはどう考える?」
「僕は……アイリスさまの専属騎士になりたい!アイリスさまは僕を助けてくれた方だし、騎士団長も僕を助けてくれた人だ」
力強いアダンを見ていると、向日葵のように真っ直ぐだと感じるのだ。
「ならば良いだろう。ただし、強くなくては専属騎士になる資格がない。より一層精進しろ」
「はい!」
騎士の礼をとる二人を見ると、師弟関係のようなものを感じた。
「嬉しいわ!そうだ、アダンが騎士団に合格したお祝いもきちんとしないとね!」
舞い上がる私に、イザークさまは呆れたような目をしながらも微笑む。
「それも良いがしばらくは安静にしてくれ。その後は結婚式の準備もある」
以前の私であれば、たいしたことない怪我なのだからすぐに準備に取りかかれると言ってしまっていただろう。
けれど、大切な人が傷つくとどれだけ悲しいかわかったのだ。
「そうですね。では、落ち着いたら」
これで一件落着かと思いきや、イザークさまが衝撃的な宣言をしたのだ。
「やはり夜は特に危険だ。目を離したがために君を危険に晒したくない。これから夜は必ず共にする」
────納得したばかりだけれど、これはさすがに宜しくないのでは……!?
すぐさま診察に取り掛かることになる。
「では、イザークさまから」
「いや私は問題ない。アイリスから診てくれ」
本来であれば立場が上の者から診察を施さなければならないが、何十年とアンスリウム家に縁あるお医者さまは迷いなく頷かれた。
「診察を受けてくださるのなら宜しいですよ」
「お待ちください。アダンがずっと間に入ってくれていたので心配です。まだ幼いですし先に彼を」
焦りを隠せず、そう言う私の頭にイザークさまは手を置き、首を横に振った。
「アイリス。アダンは幼いが、騎士団に入ったのだ。守らなければならない存在より自分を優先させることは、騎士のプライドを傷つける」
静かに話を聞いていたアダンも近づいて私に声をかけてきた。
「大丈夫だよ。僕強いから!それよりアイリスさまが心配だよ」
お姉ちゃんと呼んでいたアダンはいつの間にか、アイリスさまと呼ぶようになっていた。
そのことに寂しさを感じつつ、心底心配そうにこちらを見つめるアダンを早く安心させようと思った。
「では……宜しくお願いいたします」
私の怪我は逃げた時にぶつけた痣と、花瓶を投げつけた時にできた掌の軽い傷程度だった。
しかしイザークさまをはじめ、アダンもエマも悲しい顔をするのだ。
「みんな心配なさらないでください。怪我といってもこの程度よ」
「大切な人を誰かによって傷つけられたら、心配して犯人を許せないのは当然だ」
ガーゼで覆われた私の怪我をそっと触れて呟かれた。
「アイリスさまは怪我は軽いですが、心身に負担がかかったでしょうからゆっくり休んでくださいな」
お医者さまの優しい顔と声は、亡くなった祖父を彷彿とさせる。
次にアダン、エマ、イザークさまの順で診察が行われた。
イザークさまは無傷という強さを見せ、アダンとエマは同じく軽い怪我を負っていた。
(つい先ほど心配しないでと言ったばかりだけれど、大切な人が傷ついたり酷い思いをしたらとても辛いわ。こんな辛い思いをもうみんなにさせたくない)
お医者さまが「お大事に」という言葉を残して帰られると、私たちはやっと一息つくことができた。
そこで気になっていたことを聞く。
「アダンは何故ここにいたの?」
「私が招待した。つまり偶然居合わせた。……アダンがいてくれて助かった、感謝する」
イザークさまがまだ幼い上に自らの部下であるアダンに頭を下げた。
「ううん……結局僕だけじゃ守れなかったもん……」
診ていただいている時も様子が違って見えたけれど、それは疲労や怪我によるものだと思っていた。
しかしそのようなことではなかったのだ。
(イザークさまのおっしゃる通り、彼はもう騎士なのね)
「アダンがいなかったら私とエマは危なかったわ。本当にありがとう」
「そうですよ。私にはお嬢さまを守る力があまりありませんでしたから、そこは私の改善しなければならないことです。ありがとうございます」
エマもそう続けると、やっとアダンに可愛らしい笑顔が戻る。
将来のアンスリウム家と自分の主人に願った。
「イザークさま、アダンは命をかけて私を守ろうとしてくれました。成長した時、専属騎士をお願いしたいのです」
その言葉に一瞬だけ時が止まった。
イザークさまはしばらく考えたあと口を開かれた。
「アダンはどう考える?」
「僕は……アイリスさまの専属騎士になりたい!アイリスさまは僕を助けてくれた方だし、騎士団長も僕を助けてくれた人だ」
力強いアダンを見ていると、向日葵のように真っ直ぐだと感じるのだ。
「ならば良いだろう。ただし、強くなくては専属騎士になる資格がない。より一層精進しろ」
「はい!」
騎士の礼をとる二人を見ると、師弟関係のようなものを感じた。
「嬉しいわ!そうだ、アダンが騎士団に合格したお祝いもきちんとしないとね!」
舞い上がる私に、イザークさまは呆れたような目をしながらも微笑む。
「それも良いがしばらくは安静にしてくれ。その後は結婚式の準備もある」
以前の私であれば、たいしたことない怪我なのだからすぐに準備に取りかかれると言ってしまっていただろう。
けれど、大切な人が傷つくとどれだけ悲しいかわかったのだ。
「そうですね。では、落ち着いたら」
これで一件落着かと思いきや、イザークさまが衝撃的な宣言をしたのだ。
「やはり夜は特に危険だ。目を離したがために君を危険に晒したくない。これから夜は必ず共にする」
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