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本編
11 イザーク視点
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「アイリスおはよう。部屋に入っても良いか?」
「本日も来てくださったのですか?申し訳ありません。まだ体調が……。イザークさまはお忙しいのですから、私のことはお気になさらないでください」
あの茶会の日から、アイリスは部屋から出てこず何かに恐れているように見受けられる。
私を避けているというよりは、独りの世界に入って苦しんでいるような────。
ノアの妻は多少のいざこざはあれど、今のところ悪い噂はほとんど聞かない上に、リューヌからはアイリスがとても楽しみにしている様子を伝えられていた。
一体何が彼女を苦しめているのか?
人間は体調を崩せば精神的にも不安定になってしまうものだ。
それは多少仕方のないことなのだが、今回は違うように思えて胸騒ぎがする。
「……聞きに行った方が良さそうだな」
「急な訪問で申し訳ない」
「滅相もありません。ここまでお急ぎとは何かあったのですか?」
「ちょっと聞きたいことがあってな。妻はいるか?」
「ええっと……それがちょっと、なんだか塞ぎ込んでしまっていて、挨拶ができず申し訳ございません」
普段なら妻であるオリヴィアも挨拶を交わすが、塞ぎ込んでいるという言葉とノアの様子から、やはり茶会で何かがあったのだと確信した。
「少しだけ、オリヴィア嬢と話させてもらえないか」
ノアは迷いを見せつつも、オリヴィアの部屋へと案内してくれた。
「オリヴィア、イザーク団長がオリヴィアと話がしたいそうだ。少しだけ話せる?」
扉越しに声をかけると、少しの間が空いてから、ゆっくりとオリヴィアの姿が見えた。
「イザークさま、お出迎えできず申し訳ありません。宜しければお隣の部屋でお話いたしましょう」
「急にすまない」
「いえ。お気になさらないでください」
元々控えめな人だが、今日は一段と静かだった。
紅茶の香りが広がる。
「本日は、アイリスさまのことでしょうか」
オリヴィアが意を決したように、アイリスの名を出す。
「そうだ。茶会の後からどうも体調が優れなくてな」
私の言葉を聞くと目尻を僅かに下げ、息を一つ吐くと事情を話し出した。
「はぁ、実は……」
語られる出来事に体中の血が熱くなっていく。
彼女が一人どんな思いで今日まで過ごしてきたかを考えると、胸が痛くなった。
私はアイリスのことをそんな風に思ったことなど、一時たりともない。
確かに気は遣うが、苦には感じない。
いつも真っ直ぐで頑張り屋で、あんなに心が綺麗な人と今まで出会ったことなどなかった。
だから、俺はアイリスを守らなくてはならないのだ。
「あの、私、申し訳ございません」
自分では分からないが相当険しい顔をしていたのか、酷く怯えている。
「オリヴィア嬢が謝ることなどない。あの場でアイリスの味方をしてくれたのだろう?」
「ですが、友人になってくださったのに、私が突き放す態度をとってしまって傷つけてしまいました……」
突き放したという事実だけを見るのならオリヴィアにも怒りが湧くが、本当に辛そうにしているのを見ると事情があるのではと思った。
「理由があるのなら教えてくれ」
「……夫のノアと、令嬢のノアさまは昔親同士に交流がありました。ただ、ノアは少し周りより成長が遅くて身体も弱かった。同じ名だというのも気に入らなかったのでしょう。……色々とあって、親同士も今は友人関係ではありません。騎士としてここまで来るのも、相当苦労しましたし、結婚したことも気に入らないようです。だから、アイリスさまと一緒にいて、これ以上目をつけられてしまったら、夫に影響が出ると思って、でも私、本当に酷い態度をとってしまいました」
そう語る表情を怒りと悲しみと後悔が混ざり合っている。
この様子なら、アイリスの友人としていても大丈夫だろう
「そうか、私がきちんと対処する。オリヴィア嬢さえ良ければアイリスと今後も仲良くしてやってくれ」
「私でよろしいのですか?」
「ああ、アイリスもそう願っていると思う。ただ、私が対処するとなるとノアにも伝えておいた方が良い」
「本当にありがとうございます。夫には私から全てを伝えます」
深々と頭を下げるオリヴィア嬢とノアの見送りを背に、俺は既にこれからの策を構想していた。
今まで散々アイリスを侮辱し、苦しめてきたのだ。
それにアイリスは今や次期夫人となったのだから、アンスリウム家への侮辱とも言える。
リューヌからの報告でもあの家門らは問題が多いことだし、ここはもう中途半端ではなく徹底的に追い詰めよう。
「本日も来てくださったのですか?申し訳ありません。まだ体調が……。イザークさまはお忙しいのですから、私のことはお気になさらないでください」
あの茶会の日から、アイリスは部屋から出てこず何かに恐れているように見受けられる。
私を避けているというよりは、独りの世界に入って苦しんでいるような────。
ノアの妻は多少のいざこざはあれど、今のところ悪い噂はほとんど聞かない上に、リューヌからはアイリスがとても楽しみにしている様子を伝えられていた。
一体何が彼女を苦しめているのか?
人間は体調を崩せば精神的にも不安定になってしまうものだ。
それは多少仕方のないことなのだが、今回は違うように思えて胸騒ぎがする。
「……聞きに行った方が良さそうだな」
「急な訪問で申し訳ない」
「滅相もありません。ここまでお急ぎとは何かあったのですか?」
「ちょっと聞きたいことがあってな。妻はいるか?」
「ええっと……それがちょっと、なんだか塞ぎ込んでしまっていて、挨拶ができず申し訳ございません」
普段なら妻であるオリヴィアも挨拶を交わすが、塞ぎ込んでいるという言葉とノアの様子から、やはり茶会で何かがあったのだと確信した。
「少しだけ、オリヴィア嬢と話させてもらえないか」
ノアは迷いを見せつつも、オリヴィアの部屋へと案内してくれた。
「オリヴィア、イザーク団長がオリヴィアと話がしたいそうだ。少しだけ話せる?」
扉越しに声をかけると、少しの間が空いてから、ゆっくりとオリヴィアの姿が見えた。
「イザークさま、お出迎えできず申し訳ありません。宜しければお隣の部屋でお話いたしましょう」
「急にすまない」
「いえ。お気になさらないでください」
元々控えめな人だが、今日は一段と静かだった。
紅茶の香りが広がる。
「本日は、アイリスさまのことでしょうか」
オリヴィアが意を決したように、アイリスの名を出す。
「そうだ。茶会の後からどうも体調が優れなくてな」
私の言葉を聞くと目尻を僅かに下げ、息を一つ吐くと事情を話し出した。
「はぁ、実は……」
語られる出来事に体中の血が熱くなっていく。
彼女が一人どんな思いで今日まで過ごしてきたかを考えると、胸が痛くなった。
私はアイリスのことをそんな風に思ったことなど、一時たりともない。
確かに気は遣うが、苦には感じない。
いつも真っ直ぐで頑張り屋で、あんなに心が綺麗な人と今まで出会ったことなどなかった。
だから、俺はアイリスを守らなくてはならないのだ。
「あの、私、申し訳ございません」
自分では分からないが相当険しい顔をしていたのか、酷く怯えている。
「オリヴィア嬢が謝ることなどない。あの場でアイリスの味方をしてくれたのだろう?」
「ですが、友人になってくださったのに、私が突き放す態度をとってしまって傷つけてしまいました……」
突き放したという事実だけを見るのならオリヴィアにも怒りが湧くが、本当に辛そうにしているのを見ると事情があるのではと思った。
「理由があるのなら教えてくれ」
「……夫のノアと、令嬢のノアさまは昔親同士に交流がありました。ただ、ノアは少し周りより成長が遅くて身体も弱かった。同じ名だというのも気に入らなかったのでしょう。……色々とあって、親同士も今は友人関係ではありません。騎士としてここまで来るのも、相当苦労しましたし、結婚したことも気に入らないようです。だから、アイリスさまと一緒にいて、これ以上目をつけられてしまったら、夫に影響が出ると思って、でも私、本当に酷い態度をとってしまいました」
そう語る表情を怒りと悲しみと後悔が混ざり合っている。
この様子なら、アイリスの友人としていても大丈夫だろう
「そうか、私がきちんと対処する。オリヴィア嬢さえ良ければアイリスと今後も仲良くしてやってくれ」
「私でよろしいのですか?」
「ああ、アイリスもそう願っていると思う。ただ、私が対処するとなるとノアにも伝えておいた方が良い」
「本当にありがとうございます。夫には私から全てを伝えます」
深々と頭を下げるオリヴィア嬢とノアの見送りを背に、俺は既にこれからの策を構想していた。
今まで散々アイリスを侮辱し、苦しめてきたのだ。
それにアイリスは今や次期夫人となったのだから、アンスリウム家への侮辱とも言える。
リューヌからの報告でもあの家門らは問題が多いことだし、ここはもう中途半端ではなく徹底的に追い詰めよう。
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