病弱令嬢ですが愛されなくとも生き抜きます〜そう思ってたのに甘い日々?〜

白川

文字の大きさ
上 下
13 / 22
本編

11 イザーク視点

しおりを挟む
   この町、名前はムウリカ。辺境に近いため城壁のような石積みの壁に囲まれた、この辺りでは中くらいの町。冒険者ギルドは町の中心よりも南に続く門に近い方にあった。

   看板も町の中に溶け込むようにあり、建物に厳しい雰囲気はない。

   町の中の食堂のような佇まいで、二階以上は宿屋のような作りに見える。

   このギルドでは、森の中で倒した魔獣も何頭か買取に出すつもりだ。

   扉は建物に対して少し大きめ。ドアノブはついてないタイプか、外からも内側からも押して開けるようになっている。

   肩で扉を押して入る。

   入ったのが昼前だったからか、そう広くないフロアーも閑散としていた。

   どこでも看板が同じように、内装も同じなんだろうか、フロアーの奥にはカウンターが据えられていて、天井からは案内板がぶら下がっている。

   意識しないで見ると模様に見える案内板も、意識してみるとその模様が意味のある文字として頭の中に入ってくる。

   入り口に一番近いところには、「依頼窓口」と書かれている。その隣には1番、2番と書かれている。そして1番奥に「買取窓口」とあった。

   今回の用事は、魔獣を売る事と、この辺りの依頼事情を探る事。

   まず買取窓口に魔獣を売りに出す。ストレージから直接出すと驚かれることも多いので、この国でもそれなりに冒険者の中で出回っているらしいマジックバックと呼ばれるカバンを使っているフリをして、この辺りで中級と言われるくらいの冒険者がよく狩っている、魔獣を数匹カウンターに置いた。

   この買取窓口の受付は、女の子ではなくガタイのいいおじさんだった。

「んっ!」

   やたら無口なおじさんで、一言唸って手を出すだけ。

「?……あぁ、ギルドカードね」

   今回買い取ってもらう魔獣はこの辺りで常時討伐依頼が出ているはず。ギルドランクをあげる時にも討伐ポイントは結構重要で、依頼を受けての討伐の方がポイントは高いが、常時討伐でもポイントはつく。

   俺はともかくキールはこれ以上ランクを上げる気はないが、その気があるフリ・・はしないと、駆け出しの冒険者でそれは変に目立ってしまうから。

   無口なおじさんは何も言わずに俺が出した魔獣を、カウンターの後ろにある扉から外に出て行った。その際には引き換え用なのか模様が描かれた使い古された木札を渡された。

   査定は少し時間が掛かりそうだ、その間に依頼票の確認をする事にする。

   カウンターの対面の壁近くに依頼票を張り出す掲示板が設置されている。

   どこのギルドでも依頼票はランク別に張り出されている。今の自分のランク以上の依頼は受けることができない。

   この世界のギルドランクも日本で以前よく見たランク付と同じで、何故かアルファベットのA~FとS。王立学園でも1番上のクラス所謂特別クラスはSだった。

   下からFEDCBAでS。アミュレット王国ではその存在が居ないようで聞いたことがなかったが、Sの上にはSSとかSSSとか、聞くと化け物のように強い冒険者が居る?居たらしい。

   タリスマン帝国この国は勇者が造った国。その勇者は元々冒険者でSランク。悪魔だか魔王だかを倒したことで建国したそうだが、その魔王を倒した事で普通のSランクじゃ無いっしょ、って事でSSランクを正式に認証されて、亡くなった時にそれに栄誉が加わってSSSランクになったらしい。

   この国の正史にそう記されてるとのこと。もちろんもっと勿体ぶった難しい言葉で長々と書かれているらしいのだが、キールがサクッと略して訳してくれた。

   だから、この国では冒険者が他の国に比べて尊ばれているようだ。

   そういえばサウスエンドでも国の運営に携わっていたいたのは冒険者ギルドを中心とした人々だったか。

   キールは一応この世界の中で通用する身分として冒険者になることが1番手っ取り早いことだと言っていた。

   日本前世と比べて戸籍制度のようなきちんとした考え方があまり発達していないようなこの世界でも、国の中を移動するときはもちろんのこと、ましてや違う国に行くのならば、ある程度自身のことを証明する手立てがないとスムーズに進むことはできない。

   友好国の貴族であれば結構簡単に国境も超えられるが、それが敵対する国であれば逆に難しくなるし、同じ国の中でも、町や村がほぼ外部からの侵入に備えるために壁で囲まれて、外と隔絶されている内側に入るのに、人となりが分からなければ警戒されるのは必然だ。

   そこでこの世界に張り巡らされている独立した組織として、それぞれの国の状況に左右されない、とされている冒険者ギルドが後ろ盾になって発行する身分証は、流浪する冒険者にとってなくてはならないものだし、それぞれの町や国にとっても、一々一人一人その人となりを調べないで済むことは、労力的にも大変有難いものなのだ。

   その冒険者ギルドカード、そもそもギルドは仕事を斡旋する組織が発展したものであるから、仕事を割り振る時の、個人の能力を見る判断材料としてランクというものをつけたと考えられる。

   仕事を受ける人のことをそもそもよく知っているならば、その様なものは要らないはずだが、全く知らない人物にその人の度量にあった仕事を斡旋する為に、どこに居てもわかりやすく判断する材料としてランクが付けられた。

   だから、そもそも冒険者のランクは、冒険者ギルド内での仕事を割り振りする時の目安以外の何物でもなかったはずだが、そのランクが冒険者ギルドの外でも、知らない人物の信用度を図る材料として使われるようになったことで、より一層冒険者ギルドのカードは、ほかに身分の証明をすることが難しい者に取って、そのランクとともに重要な物となったのだ。

   
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

政略結婚だけど溺愛されてます

紗夏
恋愛
隣国との同盟の証として、その国の王太子の元に嫁ぐことになったソフィア。 結婚して1年経っても未だ形ばかりの妻だ。 ソフィアは彼を愛しているのに…。 夫のセオドアはソフィアを大事にはしても、愛してはくれない。 だがこの結婚にはソフィアも知らない事情があって…?! 不器用夫婦のすれ違いストーリーです。

地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

就活婚活に大敗した私が溺愛される話

Ruhuna
恋愛
学生時代の就活、婚活に大敗してしまったメリッサ・ウィーラン そんな彼女を待っていたのは年上夫からの超溺愛だった *ゆるふわ設定です *誤字脱字あるかと思います。ご了承ください。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

彼の秘密はどうでもいい

真朱
恋愛
アンジェは、グレンフォードの過去を知っている。アンジェにとっては取るに足らないどうでもいいようなことなのだが、今や学園トップクラスのモテ男へと成長したグレンフォードにとっては、何としても隠し通したい黒歴史らしい。黒歴史もろともアンジェを始末したいほどに。…よろしい。受けてたちましょう。     ◆なんちゃって異世界です。史実には一切基づいておりませんので、ご理解のほどお願いいたします。  ◆あらすじはこんなカンジですが、お気楽コメディです。  ◆ざまあのお話ではありません。ご理解の上での閲覧をお願いします。スカッとしなくてもクレームはご容赦ください。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

ロザリーの新婚生活

緑谷めい
恋愛
 主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。   アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。  このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

処理中です...