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本編
5 謎の力をもつ執事の登場
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あの後はイザークさまと長い時間二人きりで過ごし、舞踏会の終わりを告げる挨拶だけ行うと、お気遣いから促してくださり部屋へと帰った。
果たしてそれで良かったのか些か疑問ではあるけれど、正直あれが精一杯だったので有り難い。
────コンコンコン。
「はい、どうぞ」
部屋に入ってきたのは真っ白な髪と真っ白な瞳の、透き通るように美しい男性だった。
「朝から失礼いたします。私イザークさまの専属執事を務めております、リューヌと申します。イザークさまがご不在時に何かございましたら、いつでも私にお申し付けください」
恭しいお辞儀の後、リューヌさんはそう言った。
「リューヌさん、ご親切にありがとうございます」
「あぁ、お辞めください。アイリスさまはこのような下の者に頭を下げてはなりませんよ」
「ですが、」
「アイリスさま」
ほんの少しだけ、はっきりとした口調で遮られただけなのに、リューヌさんの声は有無を言わさせない謎の力があった。
「分かりましたわ」
「ふふ、では私のことはリューヌとお呼びください。敬称は不要ですから」
優しく物腰柔らかいはずなのに、圧を感じる。
「リュ、リューヌ」
「はい。アイリスさま」
甘い声音と笑顔がまさに飴と鞭といった感じだ。
(さすが長年イザークさまの専属執事を任されてるだけあるわ。逆らえない不思議な力をお持ちね……。)
「本日、イザークさまは訓練場にいらっしゃいますが見に行かれますか?」
「私のような素人がいると、本気で訓練されている方々からすればお邪魔ではありませんか?」
「午後の限られた時間での訓練であれば、一部の方に公開しておりますので特段問題はないですよ。ですが、お身体が辛ければお部屋でお休みになられるのもよろしいかと」
昨日の今日で身体は重いけれど、イザーク様のことはもちろん、国のために精進してくださっている騎士団の方々を知る貴重な機会だと思った。
「是非行かせていただきたいです」
「承知いたしました。過度な負荷をなるべく避ける為に、きちんとしたお席をご用意いたしますのでご安心ください」
「すみません、ありがとうございます」
柔らかな雰囲気だったのに、急にリューヌの目が鋭い光を見せる。
「癖なのでしょうか?謝るのはお辞めください。難しいのなら徐々にで良いですから、なくしていきましょう」
「は、はい」
驚いて少しどもってしまった。
「失礼いたしました。ではまた午後、馬車のご準備ができましたらお呼びいたします。エマさん、私も同車させていただきますが、ご案内は任せて宜しいですか?」
「はい、お任せください」
そんなやり取りをするとリューヌは足早に出ていった。
部屋に少しの静寂が流れる。
「ねえ、エマ。もしかして、リューヌのこと気になっているの?」
「そんなこと御座いませんよ。どうしてそう思われたのですか」
エマに切り出すと蜂蜜色の瞳が見開いた。
「だって、何だかいつもと少し違うように見えたから」
「リューヌさんは、とても素晴らしい方で執事やメイドは皆、彼のようになりたくて憧れているのです。……多少ご指導は恐ろしいですが」
エマが何かを思い出したように身震いする様子を見て、想像してしまう。
私すら言い表せない圧のようなものを感じたのに、執事やメイドの後輩たちに、と考えたら……。
エマと一緒に顔が青白くなった。
果たしてそれで良かったのか些か疑問ではあるけれど、正直あれが精一杯だったので有り難い。
────コンコンコン。
「はい、どうぞ」
部屋に入ってきたのは真っ白な髪と真っ白な瞳の、透き通るように美しい男性だった。
「朝から失礼いたします。私イザークさまの専属執事を務めております、リューヌと申します。イザークさまがご不在時に何かございましたら、いつでも私にお申し付けください」
恭しいお辞儀の後、リューヌさんはそう言った。
「リューヌさん、ご親切にありがとうございます」
「あぁ、お辞めください。アイリスさまはこのような下の者に頭を下げてはなりませんよ」
「ですが、」
「アイリスさま」
ほんの少しだけ、はっきりとした口調で遮られただけなのに、リューヌさんの声は有無を言わさせない謎の力があった。
「分かりましたわ」
「ふふ、では私のことはリューヌとお呼びください。敬称は不要ですから」
優しく物腰柔らかいはずなのに、圧を感じる。
「リュ、リューヌ」
「はい。アイリスさま」
甘い声音と笑顔がまさに飴と鞭といった感じだ。
(さすが長年イザークさまの専属執事を任されてるだけあるわ。逆らえない不思議な力をお持ちね……。)
「本日、イザークさまは訓練場にいらっしゃいますが見に行かれますか?」
「私のような素人がいると、本気で訓練されている方々からすればお邪魔ではありませんか?」
「午後の限られた時間での訓練であれば、一部の方に公開しておりますので特段問題はないですよ。ですが、お身体が辛ければお部屋でお休みになられるのもよろしいかと」
昨日の今日で身体は重いけれど、イザーク様のことはもちろん、国のために精進してくださっている騎士団の方々を知る貴重な機会だと思った。
「是非行かせていただきたいです」
「承知いたしました。過度な負荷をなるべく避ける為に、きちんとしたお席をご用意いたしますのでご安心ください」
「すみません、ありがとうございます」
柔らかな雰囲気だったのに、急にリューヌの目が鋭い光を見せる。
「癖なのでしょうか?謝るのはお辞めください。難しいのなら徐々にで良いですから、なくしていきましょう」
「は、はい」
驚いて少しどもってしまった。
「失礼いたしました。ではまた午後、馬車のご準備ができましたらお呼びいたします。エマさん、私も同車させていただきますが、ご案内は任せて宜しいですか?」
「はい、お任せください」
そんなやり取りをするとリューヌは足早に出ていった。
部屋に少しの静寂が流れる。
「ねえ、エマ。もしかして、リューヌのこと気になっているの?」
「そんなこと御座いませんよ。どうしてそう思われたのですか」
エマに切り出すと蜂蜜色の瞳が見開いた。
「だって、何だかいつもと少し違うように見えたから」
「リューヌさんは、とても素晴らしい方で執事やメイドは皆、彼のようになりたくて憧れているのです。……多少ご指導は恐ろしいですが」
エマが何かを思い出したように身震いする様子を見て、想像してしまう。
私すら言い表せない圧のようなものを感じたのに、執事やメイドの後輩たちに、と考えたら……。
エマと一緒に顔が青白くなった。
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