4 / 20
本編
3歩み寄りと波乱の幕開け…?
しおりを挟む
「ん……」
光とともに、花の模様が彩られた天井が目に入る。
目が覚めたことに気づいたエマが駆け寄ってきた。
「お嬢さま、大丈夫ですか?」
「……ええ、心配しないで。慣れない環境で少し疲れただけよ。それより、私イザーク様と庭園にいたのだけれど、その後がわからないの」
「お嬢さまが倒れてしまった時、私はお二人から少し距離を取っていましたので、すぐ駆け寄ることができませんでした。ですが、イザークさまがお嬢さまをお支えになられて、そのままこの部屋まで運んでくださったのです」
何とも誇らしげに話しているが、そんなことがあるのだろうか?
「運んだって……一体どうやって?」
「もちろんお抱えになられていましたよ!」
「抱え……!?」
さも当然かのように言われたが、貴族の男性なら使用人の誰かに適当に運ばせるのが妥当だ。
ましてや、無慈悲な人間が政略結婚の相手を抱え、ベッドまで連れて来るなんてあり得ないのだ。
動揺していると、ノック音がした。
エマが確認するより早く、ドアから勝手に入ってくる人影が見え、コツコツと足音が近づく。
「イザークさま……?」
訓練場に行く前なのだろうか、騎士団長の制服を着ていると、より凛々しく感じる。
「起きたのか」
「はい。あの、昨日はごめんなさい」
急いで起き上がると、また血の気が引き、目の前を火の粉が散らした。
「病人が無理に起き上がるな」
すぐに背中に手が回され、ベッドへと逆戻りになる。
「申し訳ありません……それに、イザークさまが抱えてくださったと聞きました」
「使用人に任せるより、私が運んだ方が早いからな」
相変わらず表情はないが、なんだか今日は雰囲気が柔らかい。
いつの間にかベッド横に用意されていた椅子に腰掛け、こちらの様子を伺っているように見える。
「昨日はすまなかった」
真っ直ぐな謝罪に思わず目を見開いた。
本来は立場上、人に謝らなくて良い御方なのに改まってまで謝罪をくれた。
「いいえ、イザーク様が謝られることは何もございません。私が感情的になってしまったのが悪いのです」
「君の体調がなるべく落ち着いていられるよう、善処する」
「イザークさま……ありがとうございます」
それから、部下の方が呼びに来られるまで、そっと横にいてくださった。
不思議と苦しくなく、穏やかな時間が流れた────。
その晩、イザークさまは話があるとのことでまた部屋に来られた。
「定例ならば、正式な婚姻前に婚約発表のため舞踏会を開くのだが、なくしても良い。君はどうしたい?」
「舞踏会、ですか」
ブロッサム家管轄の領土では、舞踏会ほど大きなことはしない。
怖い人間ばかりな上、特に御令嬢達には嫌な思いばかりされた。
そのため正直に言ってしまうと嫌だ。
舞踏会が終わった後……というより、最中から体調が崩れることも予想できる。
しかし、いくら政略的とはいえ、アンスリウム家は私を迎え入れてくださった家であるし、仮にも百戦錬磨の騎士、イザークさまの妻だ。
「大丈夫です。定例通り行いましょう」
一呼吸置いてから、しっかりと胸を張って答えた。
すると、瞳の奥底を覗かれるかのようにジッと見られる。
その間、真っ直ぐ見つめ返し続けた。
「……わかった、途中で戻っても良い。どうせつまらん連中だ」
そう悪態をつくイザークさまを見ていると、なんだか少し気分が軽くなったのだった。
光とともに、花の模様が彩られた天井が目に入る。
目が覚めたことに気づいたエマが駆け寄ってきた。
「お嬢さま、大丈夫ですか?」
「……ええ、心配しないで。慣れない環境で少し疲れただけよ。それより、私イザーク様と庭園にいたのだけれど、その後がわからないの」
「お嬢さまが倒れてしまった時、私はお二人から少し距離を取っていましたので、すぐ駆け寄ることができませんでした。ですが、イザークさまがお嬢さまをお支えになられて、そのままこの部屋まで運んでくださったのです」
何とも誇らしげに話しているが、そんなことがあるのだろうか?
「運んだって……一体どうやって?」
「もちろんお抱えになられていましたよ!」
「抱え……!?」
さも当然かのように言われたが、貴族の男性なら使用人の誰かに適当に運ばせるのが妥当だ。
ましてや、無慈悲な人間が政略結婚の相手を抱え、ベッドまで連れて来るなんてあり得ないのだ。
動揺していると、ノック音がした。
エマが確認するより早く、ドアから勝手に入ってくる人影が見え、コツコツと足音が近づく。
「イザークさま……?」
訓練場に行く前なのだろうか、騎士団長の制服を着ていると、より凛々しく感じる。
「起きたのか」
「はい。あの、昨日はごめんなさい」
急いで起き上がると、また血の気が引き、目の前を火の粉が散らした。
「病人が無理に起き上がるな」
すぐに背中に手が回され、ベッドへと逆戻りになる。
「申し訳ありません……それに、イザークさまが抱えてくださったと聞きました」
「使用人に任せるより、私が運んだ方が早いからな」
相変わらず表情はないが、なんだか今日は雰囲気が柔らかい。
いつの間にかベッド横に用意されていた椅子に腰掛け、こちらの様子を伺っているように見える。
「昨日はすまなかった」
真っ直ぐな謝罪に思わず目を見開いた。
本来は立場上、人に謝らなくて良い御方なのに改まってまで謝罪をくれた。
「いいえ、イザーク様が謝られることは何もございません。私が感情的になってしまったのが悪いのです」
「君の体調がなるべく落ち着いていられるよう、善処する」
「イザークさま……ありがとうございます」
それから、部下の方が呼びに来られるまで、そっと横にいてくださった。
不思議と苦しくなく、穏やかな時間が流れた────。
その晩、イザークさまは話があるとのことでまた部屋に来られた。
「定例ならば、正式な婚姻前に婚約発表のため舞踏会を開くのだが、なくしても良い。君はどうしたい?」
「舞踏会、ですか」
ブロッサム家管轄の領土では、舞踏会ほど大きなことはしない。
怖い人間ばかりな上、特に御令嬢達には嫌な思いばかりされた。
そのため正直に言ってしまうと嫌だ。
舞踏会が終わった後……というより、最中から体調が崩れることも予想できる。
しかし、いくら政略的とはいえ、アンスリウム家は私を迎え入れてくださった家であるし、仮にも百戦錬磨の騎士、イザークさまの妻だ。
「大丈夫です。定例通り行いましょう」
一呼吸置いてから、しっかりと胸を張って答えた。
すると、瞳の奥底を覗かれるかのようにジッと見られる。
その間、真っ直ぐ見つめ返し続けた。
「……わかった、途中で戻っても良い。どうせつまらん連中だ」
そう悪態をつくイザークさまを見ていると、なんだか少し気分が軽くなったのだった。
12
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
就活婚活に大敗した私が溺愛される話
Ruhuna
恋愛
学生時代の就活、婚活に大敗してしまったメリッサ・ウィーラン
そんな彼女を待っていたのは年上夫からの超溺愛だった
*ゆるふわ設定です
*誤字脱字あるかと思います。ご了承ください。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~
富士とまと
恋愛
リリーは極度の男性アレルギー持ちだった。修道院に行きたいと言ったものの公爵令嬢と言う立場ゆえに父親に反対され、誰でもいいから結婚しろと迫られる。そんな中、婚約者探しに出かけた舞踏会で、アレルギーの出ない男性と出会った。いや、姿だけは男性だけれど、心は女性であるエミリオだ。
二人は友達になり、お互いの秘密を共有し、親を納得させるための偽装結婚をすることに。でも、実はエミリオには打ち明けてない秘密が一つあった。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!
奏音 美都
恋愛
ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。
そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。
あぁ、なんてことでしょう……
こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!
貴方だけが私に優しくしてくれた
バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。
そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。
いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。
しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる