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第二章
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「聖女自身が原因と断言は出来ませんが、その可能性は高いかと。正直彼女には不審な点が幾つかあります」
「不審な点…。そもそも聖女は別世界の存在、我々にとって不思議に感じる事が多くても仕方が無いのでは?」
王太子様の言う事に思わず大きく頷く。
だっておれも似た様なものだ。辺境の田舎村出身で、今住まわせて貰ってる王宮は別世界みたいなもので分からない事が多い。
実際おれの感覚じゃ考えられない事を平気でしてくるしな、ここのイケメン達は。
でも変態は分かっていないと頭を振った。
兄貴も微妙な表情で言葉を選びながら言う。
「文化や価値観の違いといった異世界人だから…と言うところではなく、いや、寧ろ異世界から来たはずなのに…というか…」
「あまりにも順応し過ぎているのです。住んでいた世界と異なる世界にひとり召喚され、言葉も通じず、知らない大人に囲まれるなどすれば怯えるのが普通です。ですが彼女は怯えるどころか目を輝かせ興奮した様に異世界の言葉を捲し立て、私とイグニス目掛けて突っ込んで来たのです。思わず魔法で拘束してしまいましたが、それにも興奮した様子で異世界の言葉をベラベラと嬉しそうに話していましたよ。こちらが困惑しているのが分からないんでしょうか。兎に角異様でした」
よほど嫌だったのか、眉間に少し皺を寄せて不機嫌そうに変態はお茶をひと口飲んだ。
「司教の言う様に『召喚された異世界の少女』にしては警戒心が全くありません。言葉が通じる様にする為にこちらの果物を与えた時もなんの疑いもなく口にしていました。こちらが教える事にも全て頷き、驚きや疑問等無い様でした。…まるで既にこちらの世界を知っている様な感じで」
「確かにそれは妙だな」
「終いには早く王宮に連れて行けと言い出しまして…。泣かれたり怯えられるのも嫌ですが、こう積極的過ぎるのも逆に何らかの意図があるんじゃないかと警戒してしまい、マナーや教養を覚えてからと理由を付けて監察する事にしたんです。…とても不服そうでしたが」
「あんなにも不審な点があるにも関わらず、教会の人間…とくに男性は聖女に甘くほいほいと言う事を聞いてしまうものですから最近は手が付けられなくなって来ていまして。魔法で黙らせてもいいのですがイグニスが絶対に駄目だと止めるんです」
「当たり前だろ!いくら怪しくて我が儘でも相手は女の子だぞ。しかもこちらが一方的に連れて来た異世界の!」
聖女さんて我が儘なんだ。
「分かってますよ。だからこうしてアイリーンに相談に来たんじゃないですか」
「ちょっと待ってください。聖女が不審なのは分かりましたが、それと昨日の暴動と何の関係があるんですか?彼等は明らかにマシロ君に敵意を向けていましたし、とても正気とは思えませんでした。それにイグニス殿、貴方あの時噂がどうのと言っていましたが前兆でもあったのですか?」
カール様が厳しい口調で兄貴に聞くと、兄貴は申し訳なさそうにした。
「あくまで教会内だけで広まっている噂なのですが、聖女が誰かを探していて、しかもその人物にかなり恨みを持っているらしく御乱心で、聖女に魅了された教会の男どもがその様子に嘆いて『聖女を苦しめる悪魔を排除しようとしている』らしいと。お恥ずかしい話、魔力の無い聖女はかなり神秘的に感じるらしく盲信する者が日に日に増えているんです」
「その盲信者がマシロ君を『聖女を苦しめる悪魔』と認定して攻撃して来たと?」
「司教が坊主と聖女を引き合いに出した途端に坊主を敵視し始めていたし間違い無いと思います。それに…坊主はレイヴァン殿下と親しい間柄…ですよね?」
「えっ」
急に振られた話題に肩が跳ねた。
そそそそ、そんなこと無い、無い事も無いけど、あの、親しい…って、あの…っ、どこまでの話し…っ!?
動揺して冷や汗が出る。
「どうしてそんな事を?」
動揺しまくっているおれの代わりにグランツ様が聞いてくれた。
威圧の籠った雰囲気は正に騎士団長。それどころでは無いおれは分からなかったけど、兄貴には効果抜群だった様で両手を上げて敵意は無いと態度で示す。
「いや俺は特にそれについてはどちらでもいいんだ…っ、ただ城下町の路地裏でたまたま…っ、たまたま坊主とレイヴァン殿下がキスしてるのを見ちまって、その時聖女もいたんだ。そしたらみるみる顔色が悪くなって震え出してそのまま気絶したから直ぐに教会に連れて帰ったんだ。そうしたら聖女信者達に倒れたのは俺のせいだとそのまま聖女を取られちまって…。その後徹底的に防がれて仕方なく信者達に任せる事にしたらあの噂が出て」
「あ、それでぶつかった時兄貴おれの事知ってる感じだったんだ」
「まあただでさえ男同士のそういう場面が珍しい上に、相手がレイヴァン殿下だったからな。坊主の顔見てすぐに思い出したぜ」
「というか見られてたんだアレ…」
死にかけててそれどころじゃなかったけど、全然気がつかなかった。
うへ、恥ずかしい…っ。
「しかもそれ以来部屋で何度か暴れたらしく、何でも『偽物が現れた』と叫んでいたそうです」
「偽物…」
今まで黙って聞いていたアイリーン様がポツリと呟いてそのまま考え込んでいる。
「聞けば聞くほど聖女を異常に感じますね」
「そうでしょうカール。それなのに教会内の大半の男性は聖女の言いなり、いえ、あれはもう下僕と言ってもいいでしょう。本当に情け無い事です。さてアイリーンここまで情報を聞いてどうです、聖女について分かったことはありますか?」
「セシル、どうしてアイリーン様に聞くんだ」
「あぁ、そう言えばカールは知らなかったですね。アイリーンは…」
「お兄様」
凛とした透き通る高い声が割って入る。
その場にいる全員の視線がアイリーン様に向く。そんな中、アイリーン様はにっこり笑って言った。
「分かりました、聖女様の正体。彼女はほぼ間違い無く…」
「ゲーム攻略済みヒロインですわ」
「不審な点…。そもそも聖女は別世界の存在、我々にとって不思議に感じる事が多くても仕方が無いのでは?」
王太子様の言う事に思わず大きく頷く。
だっておれも似た様なものだ。辺境の田舎村出身で、今住まわせて貰ってる王宮は別世界みたいなもので分からない事が多い。
実際おれの感覚じゃ考えられない事を平気でしてくるしな、ここのイケメン達は。
でも変態は分かっていないと頭を振った。
兄貴も微妙な表情で言葉を選びながら言う。
「文化や価値観の違いといった異世界人だから…と言うところではなく、いや、寧ろ異世界から来たはずなのに…というか…」
「あまりにも順応し過ぎているのです。住んでいた世界と異なる世界にひとり召喚され、言葉も通じず、知らない大人に囲まれるなどすれば怯えるのが普通です。ですが彼女は怯えるどころか目を輝かせ興奮した様に異世界の言葉を捲し立て、私とイグニス目掛けて突っ込んで来たのです。思わず魔法で拘束してしまいましたが、それにも興奮した様子で異世界の言葉をベラベラと嬉しそうに話していましたよ。こちらが困惑しているのが分からないんでしょうか。兎に角異様でした」
よほど嫌だったのか、眉間に少し皺を寄せて不機嫌そうに変態はお茶をひと口飲んだ。
「司教の言う様に『召喚された異世界の少女』にしては警戒心が全くありません。言葉が通じる様にする為にこちらの果物を与えた時もなんの疑いもなく口にしていました。こちらが教える事にも全て頷き、驚きや疑問等無い様でした。…まるで既にこちらの世界を知っている様な感じで」
「確かにそれは妙だな」
「終いには早く王宮に連れて行けと言い出しまして…。泣かれたり怯えられるのも嫌ですが、こう積極的過ぎるのも逆に何らかの意図があるんじゃないかと警戒してしまい、マナーや教養を覚えてからと理由を付けて監察する事にしたんです。…とても不服そうでしたが」
「あんなにも不審な点があるにも関わらず、教会の人間…とくに男性は聖女に甘くほいほいと言う事を聞いてしまうものですから最近は手が付けられなくなって来ていまして。魔法で黙らせてもいいのですがイグニスが絶対に駄目だと止めるんです」
「当たり前だろ!いくら怪しくて我が儘でも相手は女の子だぞ。しかもこちらが一方的に連れて来た異世界の!」
聖女さんて我が儘なんだ。
「分かってますよ。だからこうしてアイリーンに相談に来たんじゃないですか」
「ちょっと待ってください。聖女が不審なのは分かりましたが、それと昨日の暴動と何の関係があるんですか?彼等は明らかにマシロ君に敵意を向けていましたし、とても正気とは思えませんでした。それにイグニス殿、貴方あの時噂がどうのと言っていましたが前兆でもあったのですか?」
カール様が厳しい口調で兄貴に聞くと、兄貴は申し訳なさそうにした。
「あくまで教会内だけで広まっている噂なのですが、聖女が誰かを探していて、しかもその人物にかなり恨みを持っているらしく御乱心で、聖女に魅了された教会の男どもがその様子に嘆いて『聖女を苦しめる悪魔を排除しようとしている』らしいと。お恥ずかしい話、魔力の無い聖女はかなり神秘的に感じるらしく盲信する者が日に日に増えているんです」
「その盲信者がマシロ君を『聖女を苦しめる悪魔』と認定して攻撃して来たと?」
「司教が坊主と聖女を引き合いに出した途端に坊主を敵視し始めていたし間違い無いと思います。それに…坊主はレイヴァン殿下と親しい間柄…ですよね?」
「えっ」
急に振られた話題に肩が跳ねた。
そそそそ、そんなこと無い、無い事も無いけど、あの、親しい…って、あの…っ、どこまでの話し…っ!?
動揺して冷や汗が出る。
「どうしてそんな事を?」
動揺しまくっているおれの代わりにグランツ様が聞いてくれた。
威圧の籠った雰囲気は正に騎士団長。それどころでは無いおれは分からなかったけど、兄貴には効果抜群だった様で両手を上げて敵意は無いと態度で示す。
「いや俺は特にそれについてはどちらでもいいんだ…っ、ただ城下町の路地裏でたまたま…っ、たまたま坊主とレイヴァン殿下がキスしてるのを見ちまって、その時聖女もいたんだ。そしたらみるみる顔色が悪くなって震え出してそのまま気絶したから直ぐに教会に連れて帰ったんだ。そうしたら聖女信者達に倒れたのは俺のせいだとそのまま聖女を取られちまって…。その後徹底的に防がれて仕方なく信者達に任せる事にしたらあの噂が出て」
「あ、それでぶつかった時兄貴おれの事知ってる感じだったんだ」
「まあただでさえ男同士のそういう場面が珍しい上に、相手がレイヴァン殿下だったからな。坊主の顔見てすぐに思い出したぜ」
「というか見られてたんだアレ…」
死にかけててそれどころじゃなかったけど、全然気がつかなかった。
うへ、恥ずかしい…っ。
「しかもそれ以来部屋で何度か暴れたらしく、何でも『偽物が現れた』と叫んでいたそうです」
「偽物…」
今まで黙って聞いていたアイリーン様がポツリと呟いてそのまま考え込んでいる。
「聞けば聞くほど聖女を異常に感じますね」
「そうでしょうカール。それなのに教会内の大半の男性は聖女の言いなり、いえ、あれはもう下僕と言ってもいいでしょう。本当に情け無い事です。さてアイリーンここまで情報を聞いてどうです、聖女について分かったことはありますか?」
「セシル、どうしてアイリーン様に聞くんだ」
「あぁ、そう言えばカールは知らなかったですね。アイリーンは…」
「お兄様」
凛とした透き通る高い声が割って入る。
その場にいる全員の視線がアイリーン様に向く。そんな中、アイリーン様はにっこり笑って言った。
「分かりました、聖女様の正体。彼女はほぼ間違い無く…」
「ゲーム攻略済みヒロインですわ」
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